個人事業主が提出する開業届とは?書き方やメリット、注意点も解説

個人で事業を始めるときに最初に行う手続きのひとつが「開業届」の提出です。これは税務署に対して「事業を始めました」と届け出るもので、提出することで青色申告の適用が受けられるなど、さまざまなメリットがあります。一方で、書き方を間違えたり、提出のタイミングを逃すと損をする可能性も。本記事では、個人事業主として提出すべき開業届の基本から、記入方法、メリット・注意点までをわかりやすく解説します。
開業届とは?個人事業主に必要な理由をわかりやすく解説

個人事業主として新たに事業を始める際、「開業届」を提出することは、非常に重要なステップです。開業届とは、税務署に対して「自分は個人事業を開始しました」と申告するための書類であり、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」と呼ばれます。
この記事では、個人事業主にとっての開業届の役割や提出の必要性、よく混同されがちな他の書類との違いについて、わかりやすく解説していきます。
開業届の正式名称と概要
個人事業主が税務署に提出する開業届の正式名称は、「個人事業の開業・廃業等届出書」です。これは、所得税法第229条に基づいて提出が求められている書類であり、主に以下の情報を税務署に届け出るためのものです。
- 納税地(主たる事務所等の所在地)
- 氏名、生年月日、個人番号(マイナンバー)
- 職業、屋号(任意)
- 事業開始日
- 所得の種類(事業所得など)
- 事業の概要
- 青色申告の届出の有無 など
この開業届は、税務署の窓口で入手できるほか、国税庁のホームページからPDFをダウンロードして印刷することも可能です。また、近年ではe-Taxを利用したオンライン提出にも対応しています。
開業届の提出は義務?出さないとどうなる?
開業届の提出は、法律上「義務」とされています。具体的には、事業を開始した日から1か月以内に、所轄の税務署へ提出することが原則です。ただし、提出しなかったからといって、すぐに罰則が科されるわけではありません。
しかし、開業届を提出しない場合、個人事業主として重要な税制上のメリットを享受できないことがあります。代表的な例が「青色申告」の特典です。青色申告を行うには、開業届の提出が前提となるため、届出をしていないと白色申告しか選択できず、控除額や節税効果で不利になります。
また、開業届を提出していないと、屋号付きの銀行口座が開設できない、補助金や助成金の申請が難しくなるなど、社会的信用面でも不利に働くことがあります。つまり、開業届の提出は、個人事業主として円滑に事業をスタートし、将来的な制度利用の幅を広げるための「事業上のパスポート」と言えるでしょう。
開業届と「事業開始等申告書」など他の書類との違い
開業届と混同されがちなのが「事業開始等申告書」や「青色申告承認申請書」といった、その他の届出書類です。それぞれの役割と違いを理解しておくことが大切です。
- 開業届は、すべての個人事業主に関わる基本の書類であり、税務署に提出するものです。
- 一方、事業開始等申告書は、個人事業税を課税する都道府県が提出を求めている書類で、地域によって扱いが異なります(例:東京都は原則必要)。
- 青色申告承認申請書は、青色申告制度の適用を希望する場合に必要で、開業日から2か月以内に提出する必要があります。
これらの書類は、役割が異なるため、個人事業主としてスムーズに事業を進めるには、開業届とともに他の届出書類も必要に応じて提出することが望ましいです。
参考:開業届とは?個人事業主が知っておくべき基礎知識や提出するメリット・注意点について解説
開業届を提出するメリットとは

個人事業主としての活動を本格的にスタートするにあたって、「開業届を提出するべきかどうか」と悩む人は少なくありません。確かに、開業届は提出しなくてもすぐに罰則があるわけではありませんが、提出することで得られるメリットは非常に多く、個人事業主として長く安定的に活動していくうえで非常に重要な意味を持ちます。
この章では、個人事業主が開業届を提出することによって享受できる代表的な4つのメリットを詳しく解説します。
青色申告の特典を受けられる
開業届を提出する最大のメリットのひとつが、「青色申告」が可能になることです。青色申告とは、個人事業主が一定の要件を満たした帳簿付けを行い、税務署に事前申請をすることで、特別控除などの税制上の優遇措置を受けられる制度です。
具体的には、次のような特典があります。
- 最大65万円の青色申告特別控除(複式簿記による記帳と貸借対照表の添付が必要)
- 赤字の繰越控除(最大3年間、所得との相殺が可能)
- 青色事業専従者給与の全額経費算入(家族を雇用した場合に限る)
- 減価償却資産の30万円未満一括償却(一定条件下で簡便に経費処理可能)
ただし、これらの青色申告の特典を受けるには、「開業届」と「所得税の青色申告承認申請書」の両方を事前に提出している必要があります。つまり、開業届を提出していなければ、青色申告そのものができず、節税効果の高い特典をすべて失ってしまうことになります。
社会的信用が得られる
個人事業主が開業届を提出することで得られるもうひとつの大きなメリットが、「社会的信用」の向上です。法人とは異なり、個人事業主は「開業の証明書類」がないと、ビジネスの実態を対外的に示すことが難しい場面があります。
開業届を提出し、その控え(受付印付き)を手元に保管しておけば、次のような場面で事業の証明として活用できます。
- 業務委託契約や事業提携時の身分証明書として
- オフィス・店舗の賃貸契約の際の提出書類として
- 銀行や信用金庫からの融資審査の資料として
- 確定申告時の証拠書類として
開業届は、提出して初めて「事業を営んでいることの公的証明」となります。特に副業として活動している個人事業主や、フリーランスのクリエイター・エンジニアなどは、信用の裏付けとして開業届の提出が欠かせません。
屋号付き口座を開設できる
個人事業主としてビジネスを行う上で、屋号付きの銀行口座を開設するメリットは非常に大きいです。屋号付き口座とは、「山田太郎(ヤマダウェブ制作)」のように、個人名+屋号の名義で作られた口座のことです。
通常、個人名義の口座ではクライアントに対して「個人の趣味」や「副業」といった印象を与えかねません。しかし、屋号を記載した名義で口座を持つことで、プロフェッショナルな印象を与えることができ、信頼獲得にもつながります。
また、事業収入とプライベートの入出金を分けることができるため、帳簿管理や確定申告が格段にラクになるという実務上の利点もあります。
なお、多くの金融機関では屋号付き口座の開設時に「開業届の控え(写し)」の提出を求められます。開業届を提出していなければ、屋号付き口座の開設は基本的にできません。
補助金・助成金、小規模企業共済などへの申請が可能
個人事業主として活用できる各種補助金・助成金制度や共済制度への加入も、開業届の提出によって可能になります。
たとえば以下のような制度が挙げられます。
- 小規模企業共済:廃業や老後に備えるための「事業主向け退職金制度」。掛金は全額所得控除対象
- 持続化補助金:販路開拓・業務効率化のための補助制度。開業届が未提出だと対象外になる場合が多い
- 創業支援関連の融資制度(日本政策金融公庫など):開業届と事業計画書の提出が必要
- 自治体の創業支援補助金・設備導入補助金など:申請要件に「個人事業主としての証明書類(開業届など)」が含まれる
このように、開業届の提出は、事業を拡大したいときや資金面の支援を受けたいときに必要不可欠な前提条件となります。逆に言えば、開業届を提出していなければ、本来活用できるはずの制度の対象外となってしまうこともあるため、機会損失にもつながりかねません。
参考:開業届とは?書き方や必要書類、提出するメリットなどを徹底解説【記入例付】
開業届を提出するデメリット・注意点

個人事業主として開業する際に提出する開業届には多くのメリットがありますが、その一方でデメリットや注意点も存在します。開業届を提出することで税制上の恩恵を受けられる一方で、社会保障や生活支援の面で影響を受ける可能性があるため、自身のライフスタイルや状況に応じた判断が必要です。
このセクションでは、個人事業主が開業届を提出する際に注意すべき代表的な3つのポイントについて詳しく解説します。
失業手当が受け取れなくなる
開業届を提出して個人事業主として事業を開始した場合、原則として雇用保険の「失業手当(基本手当)」を受け取ることができなくなります。
雇用保険制度は、「働く意思と能力があるにもかかわらず職を失った人」に対して支給される制度です。そのため、開業届を出して自ら事業を営んでいる状態になると、「求職者」ではなくなり、受給資格がなくなってしまうのです。
たとえば、会社を退職してその後すぐに開業届を提出した場合、「開業=自ら職業に就いた」とみなされるため、失業手当の支給がストップするか、そもそも支給されなくなります。これは、失業中に事業の準備を進めながら失業手当を受け取りたいと考えている人にとっては、大きなデメリットとなるでしょう。
そのため、個人事業主としての活動を始める前に、失業手当をすでに受給しているか、これから受け取る予定があるかを確認し、開業届の提出時期を慎重に判断することが重要です。
配偶者の扶養から外れる可能性がある
個人事業主が開業届を提出すると、「扶養控除」や「健康保険の被扶養者資格」に影響が出る場合があります。とくに、配偶者の社会保険に加入している人は注意が必要です。
健康保険における扶養の基準では、「年間収入が130万円未満(地域によっては106万円)」であることが一つの判断材料となっています。しかし、開業届を提出して個人事業主になると、収入の有無にかかわらず「自営業として働いている」とみなされることがあります。
たとえば、開業当初でまだ売上がほとんどない場合でも、形式的に自営業者と見なされ、健康保険の扶養対象から外れることがあるのです。扶養から外れた場合、自ら国民健康保険に加入し、保険料を全額自己負担する必要があります。
さらに、税制上の配偶者控除や配偶者特別控除についても、事業収入の増加によって適用外になる可能性があります。開業届の提出を検討する際は、現在の保険や扶養の状況をよく確認し、ライフプランに与える影響を考慮しておくべきです。
所得が一定を超えると確定申告が必要になる
個人事業主として活動する場合、所得が一定額を超えると確定申告の義務が発生します。とくに、開業届を提出していることで税務署側に「事業を開始した」という情報が届いているため、所得の有無や額にかかわらず申告の対象としてチェックされることになります。
具体的には、以下のような基準があります。
- 所得が48万円(基礎控除額)を超えると確定申告が必要
- 副業として事業を行っている場合でも、事業所得が20万円を超えたら申告が必要
- 青色申告の特典を受けるためには、帳簿付けと確定申告の提出が必須
たとえば、趣味の延長でハンドメイド作品を販売していた人が、開業届を出して個人事業主となった場合、売上が少なくても帳簿をつけ、経費を計上し、年末には確定申告を行う必要があります。
確定申告は年に一度の手続きですが、必要な帳簿の作成や経費の記録、領収書の保管など、日常的に行うべき作業が増えます。開業届を提出することで「事業主」としての責任が生じるため、申告義務を怠ると、延滞税や無申告加算税といったペナルティの対象になることもあるのです。
そのため、開業届を出す際には「収入がいくらになるか」だけでなく、帳簿付けや確定申告といった実務もこなしていけるかを見極めておくことが重要です。
参考:個人事業主に開業届は必須?税務署に提出するメリットと書き方や手続きのポイント
開業届の提出タイミング・期限と対象者

個人事業主として活動を始めるにあたり、「開業届はいつ提出すればよいのか?」「そもそも誰が提出すべきなのか?」という疑問を抱く方は多いでしょう。開業届は個人事業の開始を税務署に知らせる重要な書類であると同時に、青色申告や各種制度の利用に不可欠な手続きでもあります。
このセクションでは、開業届を提出するベストタイミングや提出期限、さらに副業で活動している場合など、どのようなケースで提出が必要になるのかを詳しく解説します。
提出のベストタイミングと開業日の決め方
開業届の「開業日」は、個人事業主自身が任意に設定することができます。開業日は、事業を開始した日、つまり収入が発生した日や事業活動を始めた日を指すのが一般的ですが、あくまで自分で決められる日付であるため、戦略的に選ぶことが可能です。
例えば、以下のような日を開業日に設定する方が多い傾向にあります。
- 初めて売上が発生した日
- 取引先と契約を結んだ日
- 事業用の備品や設備を購入した日
- 仕事用の口座や事務所を用意した日
- 年度や月の区切りがよい日(例:1月1日、4月1日など)
開業日を早めに設定すれば、開業費や初期投資を経費として計上できる期間が長くなるため、節税面で有利に働く場合があります。一方、初期費用が少なく、収入が安定していない段階であれば、開業日を遅らせて負担の少ない時期に設定するという選択肢もあります。
つまり、開業届の提出タイミングは「準備が整ったとき」や「初期費用とのバランス」を見ながら、税務・経理上のメリットも考慮して柔軟に決めることがポイントです。
提出期限:原則は開業日から1か月以内
開業届の提出には、明確な期限が設けられています。原則として、開業日から1か月以内に、納税地を管轄する税務署へ提出する必要があります。これは所得税法第229条に定められており、提出期限を守ることでスムーズに事業登録が進みます。
ただし、提出が1か月を過ぎた場合でも罰則が科されることはありません。遅れて提出しても受理されますが、青色申告を希望する場合は注意が必要です。青色申告承認申請書は「開業日から2か月以内」に提出しなければ、初年度からの適用が認められません。
つまり、開業届と青色申告承認申請書の提出タイミングは連動しているため、「青色申告をしたい」と考えている個人事業主は、できるだけ早く開業届を提出することが望ましいといえます。
また、e-Taxや郵送での提出も可能なため、物理的に税務署へ行けない場合でも、期限内に対応することは十分可能です。
提出義務がある人・副業の場合は?
では、そもそも「どのような人が開業届を提出しなければならないのか?」という点について見ていきましょう。
結論から言うと、原則として、継続的に収入を得ることを目的に個人で事業を営む人は、開業届を提出する義務があります。これは本業に限らず、副業として行っている場合も含まれます。
【開業届の提出が必要な例】
- フリーランスとしてWeb制作やライティングを請け負う
- ハンドメイド商品の販売を継続して行う
- コンサルタント業務で報酬を得ている
- 営利目的で自宅教室を開いている
一方で、次のようなケースでは、提出が任意または必要ない場合もあります。
【開業届の提出が不要な例】
- 単発的な報酬(スポット業務や年に数回の収入)
- 副業の収入がごくわずかで、事業と認められない場合
- 給与所得や雑所得に該当する活動(雇用契約に基づく業務など)
特に注意したいのは、「副業で収入があるけど、どこまでが事業になるのか分からない」というケースです。事業性の判断基準としては、継続性・独立性・反復性・営利性などがあり、これらを満たす場合は開業届の提出が推奨されます。
副業とはいえ、一定額以上の所得がある場合は確定申告の義務が発生するため、あらかじめ開業届を提出しておくことで、青色申告などの税制優遇を受ける準備を整えておくことが重要です。
開業届は、提出するだけで大きなメリットをもたらす一方で、その提出タイミングや対象者の判断を誤ると、後々の手続きに支障が出ることもあります。個人事業主としてスムーズにスタートを切るためにも、自分の活動が「事業」に該当するかどうかを見極め、提出期限内に正しく手続きするようにしましょう。
開業届の書き方・記入例
個人事業主として事業を始める際に税務署へ提出する「開業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書)」は、比較的シンプルな書類です。しかし、初めて書く場合は「何を書けばいいのかわからない」「屋号って必要?」など不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
このセクションでは、個人事業主として開業届を書く際の項目一覧とポイント、職業や屋号などの具体的な書き方、さらに記入時に注意すべきよくあるミスまで、わかりやすく解説します。
参考:【記入例付き】開業届の書き方や必要書類、提出方法を解説
記入項目一覧と記載ポイント

開業届は、以下のような項目に分かれています。ひとつずつ丁寧に見ていくことで、迷わず記入できるようになります。
これらの情報をもとに、誤りなく記入することでスムーズに提出できます。
職業・屋号・事業の概要など具体的な書き方
開業届の中でも、とくに悩みやすいのが「職業」「屋号」「事業の概要」といった記述内容です。以下にそれぞれの記入ポイントと例を紹介します。
職業の記入例
職業欄には、自分が主に行う事業の名称を記載します。複数ある場合でも、主な業種を記入しましょう。
- Webデザイナー
- ライター
- ハンドメイド作家
- 飲食業
- 翻訳業
ポイントは、業界用語ではなく一般的に分かりやすい名称で記載することです。
屋号の記入例
屋号とは、個人事業の「ビジネスネーム」です。個人名と別に、業務に使用する名前がある場合に記入します。例えば、請求書や名刺に記載したい場合には屋号があると便利です。
- 例:Yamada Design Studio
- 例:カフェまるや
- 例:ミライ翻訳事務所
屋号は自由に決められますが、法人のように「株式会社」「合同会社」などの表記は使用できません。また、同業他社と混同しないよう独自性を意識しましょう。
事業の概要の記入例
事業の概要欄には、具体的な活動内容を簡潔に記載します。あまり長くならないよう、一文~二文でまとめましょう。
- 例:企業向けのWebサイト制作・更新および運用代行
- 例:オリジナルアクセサリーの製作・販売(ネットショップ利用)
- 例:地域住民向けの飲食サービス(テイクアウト対応)
事業の内容が伝わることが大切なので、サービス内容や販売方法を含めるとベストです。
よくある記入ミスと注意点
開業届は一度提出すると、基本的には修正や再提出を求められることは少ないものの、内容に誤りがあるとトラブルのもとになります。以下は個人事業主がやりがちな記入ミスとその対策です。
1. 開業日と提出日の混同
「開業日」は実際に事業を開始した日であり、「提出日」は開業届を税務署に提出する日です。この2つを混同しないようにしましょう。
2. 所得の種類の記入ミス
個人事業主の場合、通常は「事業(農業)所得」に○をつけます。副業や不動産収入などがある場合には、それに応じて選択する必要があります。
3. 屋号の記載ルール違反
前述の通り、「株式会社」「合同会社」などの法人を連想させる文言は使用できません。また、公序良俗に反する名前もNGです。
4. マイナンバーの記入漏れ
開業届には個人番号(マイナンバー)の記入が必須です。記載がないと受理されないケースもあるため、必ず記入しましょう。
5. 従業員欄の不備
従業員がいないにもかかわらず未記入のまま提出すると、確認の連絡が来ることがあります。該当しない場合でも「無」に○をつけるようにしてください。
このように、開業届は項目さえ理解していればそれほど難しくはありません。個人事業主として正しく記入し、正確な情報を税務署に届けることで、スムーズに開業手続きを完了できます。書き方に不安がある場合は、無料で使える作成支援ツールや記入例を参考にしながら進めると安心です。
参考:個人事業主の開業届の提出に必要なものとは? 必要書類の出し方や注意点も解説
開業届の提出方法【窓口・郵送・e-Tax】

個人事業主として開業届を提出する方法は、主に「税務署に持参」「郵送」「e-Taxによるオンライン提出」の3つがあります。それぞれにメリットや注意点があるため、自分の状況に合った方法を選ぶことが大切です。この章では、各提出方法の手順と控えの受け取り方法について解説します。
税務署に持参して提出する方法
もっとも確実でスムーズなのが、開業届を直接税務署の窓口へ持参して提出する方法です。
- 国税庁のサイトから「個人事業の開業・廃業等届出書」をダウンロード・印刷
- 必要事項を記入し、押印(任意)する
- マイナンバーが記載された本人確認書類(コピー可)を準備
- 最寄りの税務署へ持参し、提出
提出の際は、控え用に同じ書類をもう1部用意しておくと、受付印が押された「控え」が受け取れます。この控えは銀行口座の開設や補助金申請時などに必要となるため、必ず受け取りましょう。
郵送で提出する方法
税務署に行く時間がない場合は、郵送での提出も可能です。
- 記入済みの開業届を2部(提出用+控え用)用意
- 本人確認書類のコピーを同封
- 返信用封筒(宛名記入・切手貼付)を同封
- 税務署あてに送付
郵送の場合でも、返信用封筒を同封すれば控えに受付印を押して返送してもらえます。控えが必要な場合は、必ず同封する書類・封筒に不備がないか確認することが重要です。
e-Taxを使ったオンライン提出の手順
パソコンやスマートフォンからオンラインで提出したい個人事業主には、e-Taxの利用が便利です。マイナンバーカードと対応ICカードリーダー(またはスマホ)を使えば、完全オンラインで手続きが完了します。
- マイナンバーカードの取得と電子証明書の確認
- e-Taxソフト(Web版)へアクセス
- 「開業・廃業等届出書」の作成を選択
- 画面の指示に従って入力・電子署名
- 送信ボタンを押して提出完了
電子申請では紙の控えは発行されませんが、受付結果の画面や送信完了通知が控え代わりになります。必要であれば、PDFで保存・印刷して保管しましょう。
控えを受け取るタイミングと保管方法
開業届の控え(受付印付き)は、公的な証明書として重要です。銀行口座の開設、助成金申請、青色申告の証明などに必要となる場面が多いため、提出方法を問わず控えは必ず手元に保管しましょう。
- 窓口提出:その場で即日受け取り可
- 郵送提出:返信用封筒があれば1週間前後で返送
- e-Tax提出:PDFで控えデータを保存、必要に応じて印刷
控えは紛失すると再発行ができないため、紙とデータ両方で保管しておくのがおすすめです。
参考:個人事業主になったら開業届は必要?書き方や提出方法・メリットを解説
開業届とあわせて提出しておくべき書類

個人事業主として開業届を提出する際には、その他にも必要または提出を推奨される書類がいくつか存在します。特に、青色申告を希望する場合や従業員を雇う予定がある場合などは、開業届とセットで各種届出を行うことが、後の手間やトラブルを避けるポイントになります。
このセクションでは、開業届とあわせて提出しておくべき代表的な書類について、それぞれの役割や提出タイミング、注意点を詳しく解説します。
所得税の青色申告承認申請書
個人事業主が開業届と同時に提出しておくべきもっとも重要な書類が「所得税の青色申告承認申請書」です。これは、青色申告を行うために税務署へ提出するもので、開業届とセットで出すことで、翌年から青色申告の特典を受けることが可能になります。
青色申告には以下のようなメリットがあります。
- 最大65万円の青色申告特別控除(複式簿記対応の場合)
- 赤字の3年間繰越控除
- 家族への給与を経費として計上可能(青色事業専従者給与)
- 一定条件下で30万円未満の資産の一括償却 など
この申請書は、開業日から2か月以内に提出する必要があります。開業届の提出が遅れたり、青色申告承認申請書を忘れたりすると、初年度からの青色申告ができなくなり、控除や節税のチャンスを逃してしまいます。
申請書には、記帳の方法や帳簿の種類、事業の概要などを記入します。記載内容は開業届と整合性を持たせることが大切です。
給与支払事務所等の開設届出書
個人事業主が従業員を雇う予定がある場合、税務署へ「給与支払事務所等の開設届出書」の提出が必要です。この届出は、従業員に給与を支払う場合や、家族に給与を支払う青色事業専従者制度を利用する場合にも必要となります。
この書類を提出することにより、税務署側で源泉徴収義務のある事業主として登録されます。その後、源泉徴収税の納付や年末調整、給与支払報告書の提出などの義務が発生します。
届出書には以下のような情報を記載します。
- 事業所の名称・所在地
- 給与支払の開始日
- 従業員の人数(予定も可)
- 給与支払事務所の開設日
この届出も、開業日または給与支払開始日から1か月以内の提出が原則です。従業員を雇う予定がある場合は、開業届と一緒に提出しておくとスムーズです。
また、給与支払の頻度が少ない小規模事業主の場合、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を併せて提出することで、毎月の納付義務を半年ごとに簡略化することもできます。
事業開始等申告書(個人事業税)
個人事業主として事業を開始する場合、都道府県税事務所に対して「事業開始等申告書」の提出が求められることがあります。これは、個人事業税の課税対象事業であるかどうかを確認し、事業内容や規模に応じて県税を適正に課税するための書類です。
この書類の提出義務や様式は、都道府県によって異なります。東京都や大阪府などでは、開業から一定期間内に提出が義務付けられており、提出しないと後で事務所側から督促されることもあります。
事業開始等申告書には、以下のような内容を記載します。
- 氏名、住所、生年月日
- 納税地
- 事業の種類・名称・所在地
- 事業開始日
- 事業の概要
なお、個人事業税の課税対象となる業種は限られており、例えばデザイナー、コンサルタント、講師業などは対象になりやすい一方で、作家や農業などは非課税とされることもあります。自分の事業が課税対象かどうかは、事前に管轄の都道府県税事務所へ確認すると安心です。
その他の許認可に関する書類
開業する事業の内容によっては、税務署以外の行政機関へ許認可申請や届出が必要な場合があります。これを怠ると、開業後に行政指導や営業停止命令などのリスクがあるため、開業前にしっかり確認しておきましょう。
以下は代表的な許認可の例です。
- 飲食店営業:保健所への「飲食店営業許可申請」
- 古物商:公安委員会への「古物商許可申請」
- 理美容業:保健所への「施設開設届出書」
- 建設業:建設業許可(国土交通大臣または都道府県知事)
- 民泊:旅館業法または住宅宿泊事業法に基づく届出
- ネット販売(食品等):食品衛生法に基づく許可申請
また、業種によっては「登録免許税」が必要になるケースもあります。これらの手続きは、税務署の開業届とは別に、それぞれの管轄官庁で手続きが必要です。
個人事業主として開業届を提出する際には、その周辺にある書類や手続きをセットで行うことが大切です。提出が遅れることで税制上の優遇を受けられなくなったり、行政上のトラブルに発展するリスクもあります。開業届を出すタイミングで、必要書類を一括で確認・提出しておくことで、安心して事業をスタートさせることができるでしょう。
参考:開業届の提出に必要なものは?必要書類から出し方までの流れも解説
個人事業主の開業届に関するよくある質問

個人事業主としての開業届に関しては、初めて提出する方にとって不安や疑問も多いものです。このセクションでは、特に多く寄せられる3つの質問について、わかりやすく解説します。
開業届は副業でも必要?
副業としてフリーランスや事業活動を始めた場合でも、開業届の提出は原則として推奨されます。特に次のような条件に当てはまる場合は、事業性があるとみなされ、開業届を出すことが望ましいです。
- 継続的に業務を行い、報酬を得ている
- 自らの判断で業務内容や取引先を選んでいる
- 経費や仕入れなどの出費がある
- 一定の利益が見込まれる、または発生している
一方、スポット的な単発収入や、会社から給与として支給される副収入は「雑所得」や「給与所得」に該当し、開業届の提出は必須ではありません。ただし、副業でも青色申告を活用して節税したい場合は、開業届の提出が必要不可欠です。
そのため、「副業だから出さなくていい」と決めつけるのではなく、副業の内容が“事業”として認められる可能性があるかどうかを基準に判断しましょう。
開業届を出すと会社にバレる?
「会社に副業がバレるのが怖いから、開業届を出さない」という相談は非常に多いです。結論として、開業届そのものを出すことで会社に通知が届くことはありません。
ただし、以下のような場合に会社に知られる可能性はあります。
- 住民税の特別徴収で副業収入が加算された場合
- 社会保険の扶養から外れた場合に通知が届くことがある
- 同僚や顧客からの情報が会社に伝わる
開業届自体は税務署への届け出であり、勤務先企業には情報が共有されないため、それだけでバレることは基本的にありません。副業を認めていない会社に勤めている方は、住民税の「普通徴収」を選択するなどの工夫でリスクを減らすことができます。
開業届の提出に費用はかかる?
開業届の提出に費用は一切かかりません。税務署への提出も、e-Taxでのオンライン提出も無料で行えます。印紙代や申請料なども不要です。
ただし、以下のような場合には別途費用が発生することがあります。
- 税理士に提出を依頼した場合(代行手数料)
- 開業届の内容確認や記帳代行を外部サービスに依頼した場合
- 有料の事業サポートソフトを利用する場合
自分で作成し、自力で提出する場合には完全に無料ですので、コストをかけずに個人事業主としての第一歩を踏み出すことができます。
参考:開業届の出し方がよくわかる!必要な書類やよくある質問も解説
まとめ:開業届を正しく提出してスムーズな事業スタートを

開業届は、個人事業主としての事業開始を正式に税務署へ届け出る重要な手続きです。青色申告の適用や各種控除の活用、公的支援制度への申請、さらには社会的信用の確立など、多くのメリットが得られる書類であるにもかかわらず、提出しなくても罰則がないために軽視されがちです。
しかし、開業届を正しく提出することで、税務処理の透明化と信頼性の向上、経費の適切な管理や金融機関との取引などがスムーズに進められます。
副業で活動している人でも、継続的に収益を得ているなら、開業届を提出することによって青色申告の適用や屋号口座の開設といった選択肢が広がります。将来的な事業拡大を視野に入れている方こそ、早めの手続きをおすすめします。
これから個人事業主として歩み出すなら、まずは開業届の提出から。正しく理解し、適切なタイミングで提出することで、安心かつ安定した事業運営の第一歩を踏み出しましょう。