個人事業主は開業届をいつまでに出せばいい?開業届の書き方もあわせて解説

個人事業主として事業を始める際には、税務署に「開業届」を提出する必要がありますが、「いつまでに出せばいいの?」と迷う方も多いでしょう。原則として、事業を開始した日から1か月以内が提出の目安とされています。期限を過ぎても罰則はありませんが、青色申告の申請などに影響することもあるため注意が必要です。本記事では、開業届の提出期限や正しい書き方、スムーズに手続きするためのポイントをわかりやすく解説します。
開業届とは?提出が必要な理由と役割

個人事業主における開業届の意味
個人事業主として事業を始める際に、最初に行うべき重要な手続きのひとつが「開業届」の提出です。開業届とは、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、事業を開始したことを税務署に届け出るための書類です。この届出を提出することで、税務署はその人が個人事業主として活動を開始したことを把握します。
特に、個人事業主として確定申告を行う必要がある人にとっては、開業届の提出は事実上のスタートラインです。開業届を提出することで、税務上の「事業所得」が発生することを前提に、帳簿作成や申告の義務が明確になります。また、青色申告を希望する場合には、この開業届の提出が前提条件となります。
個人事業主にとって開業届は、単なる手続きではなく、「事業を開始した」という公的な証明にもなります。開業届を提出することで、屋号付きの銀行口座を開設できたり、創業融資や助成金、補助金の申請にも使えるようになります。つまり、ビジネスを軌道に乗せるうえで不可欠な一歩となるのです。
副業として小規模に始める場合でも、事業所得として一定の収益が見込まれるのであれば、開業届を出しておくことで後々の税務処理がスムーズになります。「売上がまだない」「仕事が不定期」といった状況でも、開業の意思があれば提出可能です。
提出が求められる根拠と法的な位置づけ
開業届の提出は、所得税法第229条により義務づけられています。法律上は、「事業を開始した日から1か月以内」に税務署へ開業届を提出しなければならないと定められています。ただし、提出しなかった場合でも罰則は設けられていません。そのため、開業届を提出せずに事業を始める個人事業主も少なくありません。
しかし、開業届を提出しないことにはデメリットが数多くあります。たとえば、青色申告特別控除(最大65万円)を受けたい場合には、開業届の提出が必須となり、さらに「青色申告承認申請書」の提出も必要です。どちらか一方が欠けていると青色申告は認められません。
また、開業届を提出することで、国や自治体が提供する創業支援制度の対象者として認定される場合もあります。融資や助成金、補助金の申請時に「個人事業主であることを示す書類」として、開業届の控えが求められるケースもあります。
一方、開業届を出さない場合、事業の実態を証明する公的な書類がなく、社会的信用の面でも不利になることがあります。たとえば、オフィスの契約や法人向けサービスの利用時に「開業届の控え」の提出を求められることがあり、その際に手続きが進められないケースもあります。
このように、開業届は法的義務でありつつも、個人事業主にとっては信頼性と税務上の優遇措置を得るための鍵となる書類です。「いつまでに出すべきか?」という点に関しては、次の章で詳しく解説していきます。
参考:開業届を提出するタイミングは? 期限や提出するメリットも解説
開業届はいつまでに出すべき?提出期限とタイミング

個人事業主として事業を始めるにあたり、「開業届はいつまでに出せばいいのか?」という点は非常に重要です。開業届の提出タイミングによって、青色申告が適用されるかどうかが決まるなど、税務面でも大きな違いが生まれます。ここでは、開業届の提出期限や適切なタイミングについて詳しく解説します。
原則:事業開始から1ヶ月以内
個人事業主が開業届を提出する期限は、原則として「事業開始日から1ヶ月以内」とされています。これは、所得税法第229条に明記されており、事業を開始したことを税務署に届け出るためのルールです。
ただし、1ヶ月を過ぎても罰則やペナルティはありません。実際には開業から数ヶ月、あるいは数年経ってから提出するケースも少なくありません。それでも提出は受理されますが、青色申告や各種控除を受けたい場合には、期限を守ることが重要です。
事業開始日とは、「実際に収益活動を始めた日」を指します。開業準備中で収入がない状態ではなく、請求書を発行したり、商品やサービスを提供したりした日が「開業日」に該当します。そのため、開業届の提出時には、自分がいつから事業を始めたのかを明確にしておくことが求められます。
青色申告をしたい場合の注意点
開業届の提出とあわせて重要なのが、青色申告を希望する場合の申請期限です。青色申告を行うには、「開業日から2ヶ月以内」に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
たとえば、1月1日に事業を開始した場合、青色申告承認申請書の提出期限は3月1日です。この期限を過ぎてしまうと、その年の確定申告では白色申告しかできず、最大65万円の青色申告特別控除を受けることができません。
この青色申告承認申請書を提出するためにも、開業届が先に提出されている必要があります。開業届と青色申告承認申請書は同時に提出するのが一般的で、税務署でもそのように案内されることが多いです。
そのため、青色申告をしたい個人事業主は、開業届の提出を「事業開始から1ヶ月以内」、かつ青色申告承認申請書の提出を「開業日から2ヶ月以内」と、ダブルの締切を意識することが大切です。
収入がない・副業でも出す必要はある?
「まだ収入がない」「副業として小さく始めた」などの理由で、開業届を提出するか迷っている個人事業主も多いかもしれません。しかし、事業として継続的に収益を得る意思がある場合には、収入がゼロであっても開業届を提出するのが望ましいとされています。
副業であっても、収入が年間48万円を超えるようであれば、確定申告の義務が生じる可能性があります。特に事業所得として計上できる場合は、開業届を提出し、必要に応じて青色申告を選ぶことで節税効果が期待できます。
また、開業届を提出することで副業が「事業」として扱われるようになり、経費計上や帳簿の作成がしやすくなるなど、税務上のメリットもあります。確定申告の際に「雑所得」か「事業所得」かで大きく扱いが異なるため、副業でも事業性があるなら開業届の提出を検討すべきでしょう。
なお、副業が会社にバレるのを防ぐ目的で開業届を出さないケースもありますが、住民税の特別徴収を普通徴収に切り替えるなど、別の方法でプライバシー保護は可能です。
開業前やさかのぼって提出することはできる?

実際には、「事業はすでに始めていたけれど、開業届を出し忘れていた」という個人事業主も多くいます。このような場合でも、開業届は過去の日付で提出することが可能です。開業日として申告する日付は、自己申告制であるため、事業を始めたと思われる日にさかのぼって記入できます。
たとえば、1年前に事業を開始していたとしても、開業日を1年前の日付にして開業届を提出することができます。ただし、あまりに古い日付を記載すると、税務署から確認を求められる場合もあります。提出時には、開業日を証明できる請求書や契約書などの記録を用意しておくと安心です。
また、青色申告に関しては、開業日から2ヶ月以内の提出が原則であるため、過去にさかのぼって開業日を設定しても、その年の青色申告は認められない可能性があります。よって、青色申告を活用したい場合は、早めの開業届提出がカギとなります。
開業前の段階で提出することについては、原則として「事業開始後」の提出が求められています。ただし、開業日を将来の日付に設定した上での提出は可能です。この場合、事前に準備を整えておきたい人にとって便利な選択肢となります。
開業日の決め方と注意点
個人事業主として事業を始める際、「開業届はいつまでに提出するか」だけでなく、「開業日をいつに設定するか」も非常に重要なポイントです。開業日は、税務署に届け出る情報のひとつであり、税務処理や帳簿管理、さらには社会保険や融資申請にも影響を与えます。ここでは、開業日の決め方や注意すべき点について詳しく解説します。
開業日のルールと柔軟性
開業日には、法的に明確な定義や厳格なルールは設けられていません。一般的には、最初に事業として収益活動を開始した日を開業日とするのが原則です。たとえば、初めて請求書を発行した日や、実際に商品やサービスを提供した日などが該当します。
一方で、「開業準備中」の段階、たとえば事務所を借りたり名刺を作ったりするような行為は、開業とはみなされないことが多いため、事業としての収益活動を開始した日以降を開業日として記載するのが望ましいです。
とはいえ、開業日の設定にはある程度の柔軟性があります。特に明確な収益活動の開始日が曖昧な場合、自分が「ここから事業を始めた」と意識した日を開業日として申告することも認められます。実際、税務署が提出された開業日の妥当性を厳密に審査することは少なく、よほど不自然でない限り問題視されることはありません。
経費処理に影響する開業日の考え方
開業日の設定は、経費処理にも大きく関わる重要な要素です。なぜなら、開業日以降に発生した支出は「必要経費」として計上できますが、開業日より前の支出は「開業費」として処理する必要があるからです。
開業費とは、開業準備のためにかかった支出(たとえば名刺作成費やホームページ制作費、備品購入費など)で、繰延資産として計上し、数年かけて償却するか、初年度に一括で費用計上することが可能です。
そのため、開業前に多くの初期投資が発生する場合には、これらを「開業費」として適切に処理するために、開業日をやや後ろ倒しに設定するという考え方もあります。一方で、早めに経費計上をしたい場合には、開業日を前倒しで設定するケースもあります。
ただし、税務署に不自然と思われるような開業日の設定(たとえば、開業費が過大に見えるケースなど)は、後の税務調査の対象となるリスクがあるため、開業日と収支の整合性を意識することが大切です。
開業日を縁起の良い日にするのはあり?
最近では、「開業日を縁起の良い日に設定したい」という理由で、六曜(大安や一粒万倍日など)に合わせて開業日を選ぶ個人事業主も増えています。特にフリーランスや個人経営の店舗、サロンなどでは、ビジネスの成功を願って「吉日」に開業するケースが多く見られます。
税務署のルール上、開業日を大安や一粒万倍日などの縁起日として選ぶことに問題はありません。事業活動がその日から始まる、あるいはその日をもって始める意思があるのであれば、その日付で開業届を提出することが可能です。
ただし、形式的に吉日を選ぶだけで、実際には事業活動が始まっていない場合などは、後に帳簿や確定申告との整合性が取れなくなる可能性もあります。縁起の良い日を選ぶ場合でも、帳簿や請求書との整合性を意識して設定することが重要です。
開業日の変更・修正はできる?
開業届を一度提出した後でも、「やっぱり開業日を修正したい」と思うことはあるでしょう。たとえば、開業日と収益の発生時期がズレていた、または青色申告の適用条件を満たせなくなることに気づいたといったケースです。
結論としては、開業日を変更・修正することは可能です。その場合には、新たに開業届を「再提出」する形となり、提出先は前回と同じ税務署です。書類には「再提出」である旨を記載し、修正後の内容を記入すれば、税務署で受理されます。
ただし、開業日の変更を繰り返すと、税務署から疑問を持たれる場合もあるため、できるだけ最初の段階で正確に開業日を設定しておくことが理想的です。特に青色申告承認申請書との整合性が取れていないと、青色申告の適用が認められないリスクもあるため注意が必要です。
また、修正が必要な場合は、事業開始の実態を示す資料(契約書や請求書など)をあわせて用意しておくとスムーズです。あくまで自己申告制とはいえ、帳簿や取引記録との整合性を保っておくことは、税務上の信頼性を高めるうえでも重要です。
参考:開業届の提出タイミングはいつがベスト?期限や出さないデメリットを解説!
開業届の提出方法と手順

個人事業主として開業する際、避けて通れないのが開業届の提出です。開業届は「どこで入手し、どう書き、どう提出するのか?」といった具体的な手順を把握しておくことで、スムーズに個人事業をスタートできます。本章では、開業届の入手から提出方法、控えの扱い方までをわかりやすく解説します。
開業届の入手方法
開業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書)は、以下の3つの方法で入手できます。
- 税務署の窓口でもらう
最寄りの税務署に直接行けば、紙の様式を受け取ることができます。担当者に「開業届の様式がほしい」と伝えれば対応してくれます。 - 国税庁のホームページからダウンロードする
国税庁の公式サイト(国税庁:個人事業の開業届出書)では、PDF形式で開業届をダウンロードできます。印刷して手書きで記入することも可能です。 - 会計ソフトや開業支援サービスを利用する
freeeやマネーフォワード、弥生といったクラウド会計ソフトでは、質問に答える形式で開業届を自動作成できる機能があります。特にfreee開業のようなサービスでは、e-Taxへの提出までワンストップで完結できるのが特徴です。
開業届の記入方法(記載例付き)
開業届には以下の主な項目を記入します。
記載例
納税地:〒123-4567 東京都渋谷区○○町1-1-1
氏名:山田太郎 生年月日:1990年1月1日
職業:Webデザイナー
屋号:TARO DESIGN
開業日:2025年4月1日
所得の種類:事業所得
青色申告承認申請書:有
記入が不安な方は、freee開業などのツールで自動作成するのがおすすめです。入力ミスを防ぎ、提出もスムーズに行えます。
提出方法の3つ(窓口・郵送・e-Tax)
開業届の提出方法は、以下の3通りがあります。どれを選んでも法的な効力は同じです。
- 税務署窓口で提出
もっともオーソドックスな方法です。記入した書類を最寄りの税務署に持参し、その場で提出できます。控えがその場で返却されるため、急ぎの人や不安がある人にはおすすめです。提出時には本人確認書類(マイナンバーカードなど)を忘れずに持参しましょう。 - 郵送で提出
税務署まで足を運ぶのが難しい場合は、郵送で提出できます。その際、提出書類のコピーと返信用封筒(切手貼付)を同封すれば、受付印付きの控えが返送されます。提出日は消印日となるため、提出期限ギリギリの場合は消印が重要です。 - e-Tax(電子申告)で提出
インターネット上で手続きが完了する方法です。マイナンバーカードやICカードリーダーが必要になりますが、利便性は非常に高く、時間や場所を選ばず提出可能です。会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)と連携すれば、より簡単に手続きを完了できます。
控えのもらい方・なくした場合の対処法
開業届を提出すると、受付印付きの「控え」がもらえます。この控えは、屋号付きの銀行口座開設、融資申請、助成金申請などに使われる重要な書類です。失くさないよう、大切に保管しておきましょう。
控えの入手方法は提出方法によって異なります。
- 窓口提出の場合: 提出時にコピーを持参し、税務署で受付印を押してもらいます。
- 郵送の場合: 提出書類のコピー+返信用封筒(宛名・切手貼付)を同封することで、控えが返送されます。
- e-Taxの場合: PDF形式の控えが発行されます。ダウンロードして印刷しておきましょう。
万が一、控えを紛失した場合でも、再発行は可能です。税務署に「開業届の写しを再交付してほしい」と依頼すれば、再交付申請書の提出により対応してもらえます。ただし、再発行には時間がかかる場合があるため、余裕を持って手続きしましょう。
参考:開業届を出すタイミングはいつ?個人事業主必見!開業日の決め方やメリット解説
開業届を提出するメリット

個人事業主として事業を始める際に提出が求められる開業届。提出は義務とされつつも、出さなかったからといって罰則はありません。しかし、開業届を提出することで得られるメリットは非常に大きく、個人事業主にとって事業運営の土台となる重要な手続きです。ここでは、主な4つのメリットについて詳しく解説します。
青色申告で最大65万円の控除が受けられる
開業届を提出する最大のメリットのひとつが、「青色申告」が選べるようになることです。青色申告とは、個人事業主が一定の条件を満たすことで、最大65万円の青色申告特別控除が適用される制度です。
青色申告を行うためには、開業届とあわせて「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。これにより、次のような税務上の恩恵を受けることができます。
- 最大65万円の控除(複式簿記と電子申告の場合)
- 30万円未満の備品などを一括で経費計上可能
- 赤字の繰り越し(最大3年間)
- 家族への給与を必要経費にできる(事業専従者控除)
これらの特典を活用することで、節税効果は非常に大きくなります。特に、初期費用がかさむ創業期や、年収が一定以上ある個人事業主にとっては、青色申告を選べるかどうかが納税額に直結する問題となるため、開業届を早めに提出することが非常に重要です。
なお、青色申告承認申請書は、開業日から2か月以内に提出しなければその年からの青色申告ができません。つまり、開業届の提出が遅れると、青色申告のチャンスを逃すことになるのです。
屋号付きの銀行口座が開設できる
個人事業主が開業届を提出すると、「屋号付きの銀行口座」を開設できるようになります。たとえば「TARO DESIGN 山田太郎」といった名義での銀行口座がこれに該当します。
屋号口座を持つことで、プライベートの口座と事業用の口座を分けることができ、資金管理や経理処理が格段に楽になります。帳簿の作成、確定申告時の集計、経費の証明なども効率的になるため、個人事業主にとっては実務的にも大きなメリットです。
また、取引先からの信頼感を得られるという意味でも、屋号付き口座は有効です。「屋号名義で請求書を出したい」「事業っぽさを出したい」という方にとっては、開業届の提出は必須のステップとなります。
金融機関によっては、開業届の控え(受付印付き)がないと屋号付き口座を作れない場合もあるため、事業用口座を早期に用意したい個人事業主は、開業届を速やかに提出しておくべきです。
融資・補助金・助成金の申請が可能になる
開業届を提出して個人事業主になると、各種の公的支援制度にアクセスできるようになります。具体的には、日本政策金融公庫などの創業融資、自治体の補助金・助成金、小規模企業共済制度などです。
こうした支援制度を利用する際には、「個人事業主であることを証明する書類」として開業届の控えの提出を求められるケースがほとんどです。開業届を提出していないと、「事業を開始している」という公的証明ができず、融資や助成金の審査対象にすらならないこともあります。
特に、事業を始めたばかりの個人事業主は、自己資金が少ない場合が多く、開業初期の資金調達において創業融資や小規模企業共済などの制度は非常に重要です。これらを活用するには、開業届の提出が前提となるため、事業開始と同時に手続きを済ませておくことが望ましいでしょう。
また、各種の助成金や補助金は申請時期が限られている場合があるため、「開業届を提出した日」が申請資格に関わることもあります。後から慌てて提出するのではなく、事業開始のタイミングで計画的に提出しておくことが、資金面での不利を回避するポイントです。
参考:開業届を出すタイミングは?出し遅れや遡っての提出は違法?罰則はあるのか?
社会的信用が高まり、証明書として使える

開業届を提出することで、「正式な個人事業主」であることが公的に認められます。これは、社会的な信用力を高めるうえで非常に重要です。
たとえば以下のような場面で、開業届の控えが「就労証明書」として機能します。
- オフィスや店舗の賃貸契約時
- クレジットカードやビジネスローンの申し込み
- 保育園・幼稚園への就労証明書の提出
- 家族の扶養に関する申告(税務・社会保険)
- プロフィールや履歴書での職業証明
特にフリーランスや副業をしている個人事業主の場合、開業届を提出していないと、「収入のある無職」と見なされてしまうケースもあります。社会的信用の面から見ても、開業届は“個人事業主であることの名刺代わり”となる重要書類なのです。
また、将来的に法人化を考えている場合も、開業届の控えがあればスムーズに事業履歴を証明できます。ビジネスの成長を見越して、早めに開業届を提出しておくのは大きな意味があります。
開業届を提出することで、税制面・資金面・信用面と、個人事業主にとって非常に大きなメリットが得られます。逆に提出しないことで、青色申告ができない、融資が受けられない、社会的信用を得られないといった不利益を被る可能性もあります。
まだ開業届を出していないという方は、「いつまでに出すか」ではなく、「今すぐ出すべきかどうか」を判断基準にすることをおすすめします。
開業届を出し忘れた場合のリスクと対応策
個人事業主として事業を始めたものの、「忙しくて開業届を出し忘れてしまった」「副業だったから提出していなかった」というケースは少なくありません。実際のところ、開業届を出していなくても事業は始められますし、仕事を受けて報酬を得ることも可能です。
しかし、開業届を出し忘れたことによるデメリットは非常に大きく、長期的に見ると損をする可能性が高いです。ここでは、開業届を提出しなかった場合のリスクと、その後の対応方法について詳しく解説します。
提出しなくても罰則はないが損する可能性も
まず前提として、個人事業主が開業届を提出しなかったとしても、法律上の罰則はありません。所得税法第229条では「開業後1か月以内に提出すること」が定められていますが、これに違反しても罰金などのペナルティは科されないため、「提出しなかったら違法になるのでは」と心配する必要はありません。
ただし、「出さなくてもよい」というのは、「出さなくても損しない」という意味ではありません。むしろ、開業届を出していないことで以下のような不利益を被る可能性があります。
- 青色申告ができず、特別控除が受けられない
- 公的融資や補助金、助成金の申請ができない
- 屋号付きの銀行口座が開設できない
- 社会的信用が得られず、契約や審査に不利になる
これらの影響は、事業の成長や資金調達に大きく関わってくるため、「罰則がないから提出しなくてもいい」と安易に考えるのは危険です。特に青色申告が使えないことによる節税効果の喪失は、個人事業主にとって大きな痛手となるでしょう。
青色申告できない、融資が受けられないなどの影響
開業届を出し忘れたことで最も大きな影響を受けるのが、「青色申告が使えない」という点です。青色申告を行うためには、開業届の提出に加えて、開業日から2か月以内に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。この申請が間に合わなければ、その年の確定申告は白色申告となり、最大65万円の特別控除を受けることができません。
また、開業届は、事業を公的に証明する書類でもあります。たとえば、以下のような場面で提出を求められることがあります。
- 創業融資(日本政策金融公庫など)の申請時
- 自治体の補助金・助成金の申請時
- 事業用口座の開設
- 就労証明書としての提出(保育園、賃貸契約、カード審査など)
このような手続きの際に開業届を出していないと、「本当に事業をしているのか証明できない」と判断され、融資や契約が不利になるリスクがあります。特に開業間もない事業主にとっては、信用力を高めるための手段としても開業届は欠かせません。
開業届を出し忘れて数年経ったときの対応方法
「数年前から個人事業を始めていたが、開業届を出していなかった」という場合でも、対応は可能です。税務署では、過去の日付で開業届を提出することが認められています。つまり、「さかのぼって開業日を設定すること」ができるのです。
開業届は自己申告制のため、過去の事業開始日を記載して提出すれば、原則として受理されます。ただし、開業日をあまりにも古く設定した場合や、開業日と申告内容に不整合がある場合には、税務署から確認を求められる可能性もあります。そのため、請求書や帳簿、取引履歴など、開業を裏付ける証拠資料を用意しておくと安心です。
ただし注意点として、開業届をさかのぼって提出したとしても、青色申告の適用は原則として「青色申告承認申請書を提出した日以後の分から」しか受けられません。つまり、過去にさかのぼって開業届を提出しても、その年の青色申告は利用できないケースが多いということです。
なお、今後青色申告を利用したい場合は、開業届の再提出とともに、すみやかに青色申告承認申請書も提出しておきましょう。
開業届を出していなかったことに気づいたら、できるだけ早く対応することが肝心です。節税、資金調達、信用の獲得といった面で不利な状況を回避するためにも、税務署に開業届を提出し、公的な事業の証明を整えておくことが、個人事業主としての健全な運営に繋がります。
参考:開業日はいつにすべき?決め方や開業届を提出するメリットも解説
開業届と一緒に提出すべき書類

個人事業主として開業届を提出する際には、状況に応じて他にも提出すべき書類があります。これらの書類は、税制上の優遇措置を受けるためや、事業を適法に行うために欠かせないものです。特に青色申告を希望する人や、特定の業種に該当する人、地方自治体への申告が必要な人は、それぞれ対応が必要になります。
ここでは、開業届とあわせて提出すべき代表的な3つの書類について、それぞれの概要や提出方法、注意点をわかりやすく解説します。
青色申告承認申請書(提出期限と記入方法)
個人事業主として青色申告を行いたい場合には、「青色申告承認申請書」の提出が必須です。この書類は、青色申告による特別控除(最大65万円)を受けるための前提条件であり、開業届とセットで提出されることが一般的です。
■ 提出期限
青色申告承認申請書の提出期限は次のとおりです。
- 新規開業の場合:事業開始日から2か月以内
- 既に白色申告をしていた場合:青色申告を適用したい年の3月15日まで
例えば、4月1日に開業した場合は、6月1日までに提出する必要があります。この期限を過ぎると、その年は白色申告しかできなくなり、青色申告による控除や特典を受けることができません。
■ 記入方法のポイント
青色申告承認申請書には、以下のような項目を記入します。
- 納税地、氏名、生年月日
- 職業と屋号
- 開業日
- 所得の種類(通常は「事業所得」)
- 記帳の方法(簡易簿記か複式簿記か)
- 帳簿の種類(仕訳帳、総勘定元帳など)
青色申告の65万円控除を受けるには、複式簿記で帳簿をつけ、e-Taxで電子申告を行う必要があります。記帳や確定申告が不安な場合は、会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)を活用すると安心です。
なお、青色申告承認申請書は国税庁のホームページからダウンロードでき、e-Taxでも提出可能です。開業届と一緒に税務署に提出することで、事業開始後の税務処理をスムーズにスタートできます。
業種によって必要な許認可の届出
すべての個人事業主に必要ではありませんが、特定の業種で事業を行う場合には、別途「許認可」の取得や届出が必要になります。これは税務署ではなく、各業種を管轄する行政機関に提出するもので、該当する業種で開業届だけを提出しても、事業そのものが違法になる可能性があるため注意が必要です。
代表的な業種と必要な届出は以下のとおりです。
これらの許可を得ずに営業を開始すると、罰則の対象となることもあるため非常に重要です。開業届の提出に先んじて、業種ごとの要件を確認し、必要な手続きを済ませておきましょう。
また、開業届に記載する「職業」欄と実際の事業内容が一致していない場合、税務署から問い合わせが入ることもあるため、開業届の職業欄にはできるだけ具体的に事業内容を記載することが望ましいです。
個人事業開始申告書など、地方自治体向けの書類
開業届は国税庁(税務署)への提出書類ですが、これとは別に、地方自治体に対して「個人事業開始申告書」を提出する必要がある場合があります。 これは、個人事業税の課税対象となる可能性があるため、自治体側が事業の開始を把握するために設けている制度です。
提出先
都道府県税事務所(自治体によっては市町村役場)
提出期限
多くの自治体では、事業開始日から15日〜30日以内に提出することが定められています。具体的な期限や様式は自治体によって異なるため、開業届を提出した後は、自分が住んでいる都道府県や市町村のホームページで確認するのが確実です。
書類の内容
「個人事業開始申告書」には、以下のような項目を記入します。
- 氏名・住所・生年月日
- 事業開始日
- 事業の種類(具体的に)
- 事業所の所在地
- 屋号の有無
- 前年度の所得の有無 など
なお、個人事業税はすべての個人事業主に課されるわけではなく、対象業種と所得金額に応じて課税対象となるかどうかが決まります。 たとえば、デザイナーやプログラマーといった「自由業」は非課税となるケースもあります。
それでも申告を怠っていると、後日申告漏れとされて追加徴税の対象になることもあるため、提出義務があるかどうかは必ず確認しておくことが重要です。
参考:開業届が受理されるまでの流れ、必要書類と出し方を解説
開業届に関するよくある質問

副業でも開業届は必要?
副業であっても、継続的な収入を得ている場合や事業としての実態がある場合には、開業届を提出するのが望ましいとされています。特に、報酬を得るために自身でサービスや商品を提供し、取引先と直接契約しているようなケースは、税法上「事業所得」とみなされる可能性があります。
開業届を出すことで、青色申告が可能になり、節税メリットも享受できます。また、確定申告時に「雑所得」として扱われるよりも、「事業所得」として扱われる方が経費計上の幅も広がり、税務的に有利になるケースも少なくありません。
ただし、単発の収入や明らかに趣味の延長としての活動であれば、開業届は不要な場合もあります。自分の副業が「事業」として認識されるかを見極めたうえで、提出を検討しましょう。
開業届を出すと会社にバレる?
副業禁止の会社に勤めている場合、開業届の提出が会社に知られるのではと不安に感じる方も多いです。結論から言うと、開業届の提出が直接的に勤務先へ通知されることはありません。
ただし、注意すべきは住民税の徴収方法です。確定申告を行う際に「住民税の徴収方法」を「特別徴収(給与からの天引き)」にすると、会社に住民税額が通知され、副業の収入が間接的に知られる可能性があります。これを避けるためには、「普通徴収(自分で納付)」を選択しましょう。
この対応を取ることで、開業届を出しても会社に知られずに副業を続けることが可能になります。
開業届の提出に費用はかかる?
開業届の提出には、手数料や提出費用は一切かかりません。税務署への提出は無料で行えますし、郵送やe-Tax(電子申告)による提出も可能です。
ただし、税務署に提出するためのコピー代や郵送時の切手代、または電子申告のためのマイナンバーカード取得・ICカードリーダーの準備など、間接的なコストが発生する場合はあります。それでも全体としては数百円〜数千円程度で済むため、手軽に手続きできるのが開業届のメリットの一つです。
また、freee開業やマネーフォワード開業などの無料サービスを使えば、オンライン上で開業届を自動作成・提出することも可能です。コストを抑えたい方は、こうしたサービスの活用を検討してみてください。
一度提出した開業届は取り下げできる?
開業届を提出したものの、「やはり事業をやめたい」「事情が変わったので白紙に戻したい」といったケースもあります。この場合、開業届の取り下げは可能です。
取り下げるには、税務署に「廃業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出することで対応します。廃業届には「廃業日」や「廃業理由」を記載し、開業届と同様に提出すれば、正式に事業の終了が認められます。
なお、再び事業を再開した場合は、再度開業届を提出する必要があります。状況が変わった場合には、速やかに届出内容を修正・更新することが大切です。
参考:個人事業主になるタイミングは?開業日の決め方や出さないリスクについて
まとめ:開業届は早めに出しておこう

個人事業主として事業をスタートする際、開業届の提出は単なる形式的な手続きではなく、節税や資金調達、社会的信用の確保など、今後のビジネス運営における基盤づくりにつながる重要な一歩です。
開業届を提出することで、青色申告が可能となり、最大65万円の控除を受けられるだけでなく、事業用口座の開設や融資申請、助成金の取得といった制度を活用することもできるようになります。副業であっても、事業性があれば提出しておくことで後々の手続きがスムーズになります。
一方で、開業届を出さずに事業を進めてしまうと、税務上のメリットを受けられなかったり、信用力を得られなかったりと、見えない損失が積み重なっていく可能性があります。
特に青色申告を希望する場合は、「開業日から2か月以内」という期限があるため、開業届の提出はできるだけ早めに行うことが重要です。
これから個人事業を始める方は、「いつか出す」ではなく「今すぐ出す」意識で、開業届の提出を済ませておくことをおすすめします。