青色申告には開業届が必須?青色申告を行うために必要な手続きや書類を解説

青色申告を利用するには、事前に「青色申告承認申請書」を提出する必要がありますが、実はその前提として「開業届」を提出していることが条件となります。つまり、開業届を出していなければ青色申告の特典を受けることができないのです。節税効果の高い青色申告を活用するには、正しい手順での書類提出が不可欠です。本記事では、青色申告を行うために必要な開業届の役割や提出方法、関連する手続きについてわかりやすく解説します。
青色申告をするには開業届が必要?

青色申告を利用するには、個人事業主として税務署に開業を届け出ている必要があります。つまり、開業届の提出は青色申告の前提条件です。これを提出しないままでは、どれだけ事業をしていても青色申告の特典は受けられません。
青色申告は、確定申告の際に最大65万円の特別控除が受けられたり、家族への給与を必要経費にできるなど、税制上のメリットが多くの個人事業主にとって魅力的な制度です。しかし、これらの恩恵を受けるためには、税務署に開業届と青色申告承認申請書の2つを提出する必要があります。
開業届を出さないと青色申告できない理由
開業届(正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」)は、税務署に「個人事業主として事業を始めたこと」を知らせる公式な書類です。この開業届を提出していない場合、税務署の側ではその人が事業をしていることを正式には認識できません。そのため、青色申告という「事業所得を対象とした制度」の適用対象にもなれないのです。
また、青色申告を希望する場合には、別途「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。これは開業届とは別の書類で、提出期限も厳格に定められています。たとえば、開業日から2カ月以内、もしくはその年の3月15日までに提出しなければ、その年の青色申告はできません。
つまり、開業届を提出していなければ、青色申告承認申請書も無効になるというわけです。制度の恩恵を受けるには、まず「開業届→青色申告承認申請書」という順番で手続きを行うことが大前提となります。
この点を誤解して、「後から出せば大丈夫」と思っていると、青色申告の申請自体が認められない可能性もあるため、注意が必要です。
白色申告との違いも確認しよう
そもそも確定申告には、白色申告と青色申告の2種類があります。両者の最大の違いは、控除額や帳簿付けの方法、手続きの煩雑さにあります。
白色申告は、特に届け出をしなくても申告可能で、帳簿も簡易なもので済みます。しかし、特別控除はなく、節税効果は限定的です。一方で、青色申告は複式簿記による帳簿付けが必要で、一定の事務処理が求められますが、以下のようなメリットがあります。
- 最大65万円の青色申告特別控除
- 家族への給与を経費として計上できる「青色事業専従者給与」
- 赤字の繰越控除(最長3年間)が可能
- 貸倒引当金の計上が認められる
このように、青色申告には多くの税制上の特典があるため、ある程度の事業規模がある個人事業主には非常に有利な申告方法といえます。
ただし、これらのメリットを享受するには、繰り返しになりますが「開業届と青色申告承認申請書の両方の提出が前提」です。たとえ確定申告の際に帳簿が完璧に整っていたとしても、書類の提出がなければ青色申告として認められません。
参考:青色申告には開業届が必要?青色申告するために必要な申請と期限についてまとめて解説!
開業届とは?書類の役割と提出のタイミング

開業届とは、「個人事業の開業・廃業等届出書」という正式名称を持つ税務署への届け出書類で、個人事業主が事業を開始したことを税務署に知らせるための手続きです。この書類を提出することで、税務上「個人事業主」として正式に認められることになります。
多くの人が青色申告を利用したいと考えるきっかけで開業届の存在を知ります。実際、青色申告を行うには、事前に開業届を提出していることが必須条件となります。これは、青色申告が「事業所得」を対象とする制度であり、税務署がその人を事業者として認識している必要があるためです。
開業届を出さずに事業を続けていたとしても違法ではありません。しかし、青色申告による控除や節税効果を受けたい場合、また社会的信用や融資・補助金申請の面でも、開業届の提出は大きなメリットになります。
開業届の提出期限と注意点
開業届は、「事業開始の日から1カ月以内に提出すること」が原則とされています(所得税基本通達)。ただし、この期限を過ぎても罰則があるわけではなく、遅れて提出しても受理されることが一般的です。
しかし、青色申告を行うためには、開業届に加えて「青色申告承認申請書」を一定の期限内に提出する必要があるため、実質的には早めの提出が求められます。具体的には、以下のようなスケジュール感を意識しましょう。
- 1月1日〜1月15日に開業した場合:その年の3月15日までに青色申告承認申請書を提出
- 1月16日以降に開業した場合:開業日から2カ月以内に提出
注意点として、開業届の「開業日」は自己申告であり、自由に設定できます。しかし、青色申告を適用したい年に間に合わせるためには、「事業の実態がある日付」を開業日として、遅れずに手続きを進める必要があります。
また、開業届の提出により、住民税の事業所得分が発生し、扶養の範囲外になることや、失業保険の受給資格が喪失する場合もあるため、制度面の影響も事前に確認しておくと安心です。
開業届の様式と記載項目
開業届は、税務署の窓口や国税庁のウェブサイト(e-Tax)から入手できます。記載する項目は比較的シンプルで、難解な内容はほとんどありません。以下に主な記載項目を紹介します。
- 納税地(自宅・事務所の住所など)
- 氏名・生年月日・マイナンバー
- 職業
- 屋号(任意)
- 所得の種類(「事業所得」を選択)
- 開業日
- 事業の概要
- 給与等の支払の有無(従業員がいる場合)
- 帳簿の種類と記帳の方法
特に重要なのが、「所得の種類」と「開業日」です。青色申告を希望する場合は、「事業所得」であることが前提となるため、「雑所得」や「不動産所得」と誤って記載しないよう注意が必要です。
また、「帳簿の種類」には、「複式簿記」または「簡易簿記(単式簿記)」を選ぶ項目があります。最大65万円の特別控除を受けたい場合は、「複式簿記」にチェックを入れる必要があります。
提出先と提出方法(窓口・郵送・e-Tax)
開業届の提出先は、納税地を所轄する税務署です。提出方法は主に以下の3種類があります。
1. 税務署の窓口に持参する
最も確実な方法で、その場で職員に確認してもらえる安心感があります。提出時に「控え」に受領印を押してもらうことで、証明書としての役割も果たします。屋号付きの銀行口座を開設する際にも控えの提示を求められることがあるため、控えは必ず保管しましょう。
2. 郵送で提出する
時間が取れない方におすすめの方法です。返信用封筒(切手貼付)を同封すれば、控えに受領印を押して返送してもらえます。郵送時には、記入漏れや書類の不備に注意が必要です。
3. e-Tax(オンライン)で提出する
近年は、e-Taxを利用したオンライン提出も普及しています。マイナンバーカードとICカードリーダー(またはスマホ認証)が必要ですが、freeeやマネーフォワードなどの会計ソフトを使えば、オンラインで簡単に作成・提出することも可能です。
e-Taxなら、24時間いつでも提出でき、控えもPDFで保存できます。紙の管理が不要になるため、今後の確定申告なども含めて効率化したい方には特におすすめです。
参考:青色申告は開業届と青色申告承認申請書の提出が必要!流れや注意点を解説
青色申告承認申請書とは?

青色申告承認申請書とは、個人事業主が青色申告を利用するために税務署に提出する届け出書類です。正式名称は「所得税の青色申告承認申請書」で、開業届とは別に提出する必要があります。
青色申告を利用するには、この承認申請書を税務署に提出して、事前に「青色申告をする意思」を明示しなければなりません。提出後、税務署の審査を経て承認されることで、翌年以降の確定申告で青色申告制度を利用できるようになります。
この申請を行わなければ、いかに丁寧に帳簿を付けていても、青色申告の特典(最大65万円の控除や損失の繰越など)は一切受けられません。つまり、開業届と同様に、青色申告承認申請書も重要な書類の一つであり、個人事業主にとって節税メリットを享受するための“入口”となります。
提出が必要なタイミングと期限
青色申告承認申請書の提出期限は、個人事業主として開業した時期によって異なります。主な期限は以下の通りです。
- 新たに開業した場合
開業日から2カ月以内に提出 - 既に開業していて、次の年から青色申告をしたい場合
その年の3月15日までに提出
例えば、1月1日に開業した場合は、3月1日までに提出すればその年から青色申告が可能です。しかし、3月を過ぎてしまうと、青色申告ができるのは翌年からとなります。
また、申請書を提出しても、税務署から正式に「承認される」まで数週間かかることがあります。ただし、特に問題がなければ自動的に承認されるのが一般的です。
この期限を過ぎてしまった場合、その年の青色申告はできず、白色申告となってしまうため、節税効果を失う可能性があります。忘れず早めに対応することが肝心です。
参考:青色申告承認申請書とは?書き方やいつまでに提出すべきか詳しく解説します
書き方のポイントと記入例

青色申告承認申請書のフォーマットは、国税庁のWebサイトや会計ソフト(freee、マネーフォワード等)からダウンロード・作成できます。主な記入項目と書き方のポイントは以下の通りです。
書類全体として難解な用語は少なく、会計ソフトを使えば質問形式で自動生成できるケースも多いため、初心者でも安心して作成できます。
提出方法(窓口・郵送・e-Tax)
青色申告承認申請書の提出方法も、開業届と同様に3つの方法があります。
1. 税務署の窓口で直接提出
最もオーソドックスで確実な方法です。窓口で不備を指摘してもらえるため、初めての個人事業主には安心感があります。控えに受領印をもらっておくことで、申請済みの証拠にもなります。
2. 郵送で提出
税務署まで足を運べない場合は、郵送による提出が便利です。こちらも控えのコピーと返信用封筒(切手貼付)を同封することで、控えを返送してもらえます。万が一の遅延を防ぐため、期限ギリギリにならないよう早めに投函しましょう。
3. e-Tax(オンライン)で提出
マイナンバーカードとICカードリーダー、またはスマホ認証機能を使えば、e-Taxを通じてオンラインで提出可能です。会計ソフトと連携させれば、作成から提出までを一貫して行えます。
オンライン提出のメリットは、24時間いつでも提出できる利便性と、控えのデータをPDFで保存できる点です。また、開業届と青色申告承認申請書を同時にオンライン提出できる機能を備えたサービスもあるため、まとめて完了させたい人にはおすすめです。
参考:開業届と一緒に出そう!青色申告承認申請書の書き方と提出先
青色申告のメリットと注意点

個人事業主として開業届を提出し、青色申告承認申請書が受理されると、確定申告において「青色申告」が可能になります。これは単なる申告形式の違いではなく、税制上の大きな優遇措置が受けられる制度です。
青色申告の主なメリットは、最大65万円の所得控除や、家族に支払う給与の経費化、赤字の繰越控除など、節税効果が高い特典が豊富に用意されている点です。その一方で、帳簿の正確な記帳や申告のための事務作業が求められるため、制度の仕組みと注意点を正しく理解することが重要です。
最大65万円の特別控除を受ける条件
青色申告最大の特典が「青色申告特別控除」です。これは、確定申告時に所得から一定金額を差し引くことができる制度で、最大65万円の控除を受けられます。これにより、課税所得が減少し、結果的に所得税や住民税を抑えることができます。
ただし、65万円の控除を受けるには、いくつかの明確な条件があります。
- 複式簿記で帳簿をつけていること
- 損益計算書と貸借対照表を含む「青色申告決算書」を提出すること
- e-Taxを使って電子申告をする、もしくは電子帳簿保存を行っていること
なお、上記のうち電子申告や電子帳簿保存の要件を満たしていない場合でも、55万円の控除は受けることが可能です。帳簿はきちんとつけているけれど紙で提出している、という個人事業主であればこのパターンに当てはまります。
白色申告ではこのような控除制度は存在せず、節税効果の面では青色申告が圧倒的に有利です。
家族への給与を経費にできる「青色事業専従者給与」
もう一つの大きなメリットが、「青色事業専従者給与制度」の活用です。これは、同居の家族に対して支払った給与を、必要経費として計上できる制度です。
たとえば、配偶者や子どもが事業の手伝いをしている場合、その対価として給与を支払えば、その金額を事業経費として申告できます。これにより、所得を分散させることで全体の税負担を軽減できるのです。
ただし、この制度を利用するには、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しなければなりません。提出期限は青色申告承認申請書と同じで、開業日から2カ月以内もしくは3月15日までです。
さらに、以下のような要件もあります。
- 給与を支払う家族が、その事業に専従していること(他に本業がないこと)
- 給与の額が妥当であること(過大支給は否認される)
- 実際に支払った実績があること
- 給与に関する帳簿や明細をきちんと記録していること
この制度を正しく活用することで、家族を「節税パートナー」にできるため、所得が多い個人事業主にとっては非常に有効な選択肢となります。
帳簿付け・会計処理が複雑になる点に注意
青色申告には多くのメリットがある一方で、帳簿付けや申告書類の作成が煩雑になるというデメリットも存在します。特に、65万円控除を受けるには「複式簿記」での帳簿作成が必須です。
複式簿記とは、すべての取引を「借方」と「貸方」に分けて記録する記帳方法で、簿記の知識がある程度求められます。また、提出する青色申告決算書には、損益計算書だけでなく貸借対照表の作成も必要です。
さらに、以下のような帳簿を備えておくことが望まれます。
- 仕訳帳
- 総勘定元帳
- 現金出納帳
- 売掛帳・買掛帳
- 領収書や請求書の保存(7年間)
これらを正しく記帳・保存することで、万が一の税務調査に備える証拠にもなります。記帳ミスや記録漏れがあると、青色申告が取り消されるリスクもあるため、継続的な記帳習慣と正確な管理が必要不可欠です。
ただし、最近ではfreeeやマネーフォワード、弥生といった会計ソフトを活用することで、複式簿記も簡単に処理できるようになっています。ソフトを使えば仕訳も自動化され、確定申告書類の作成までスムーズに進めることができます。
青色申告は、「面倒そう」というイメージがあるかもしれませんが、実際には多くの個人事業主が選んでいる節税手法です。特に、開業届を提出してしっかりと記帳ができる環境を整えれば、青色申告による恩恵は非常に大きくなります。
参考:青色申告には開業届が必要!書き方や提出方法、よくある質問について解説
よくある質問

青色申告の手続きを進めるうえで、個人事業主や副業をしている方から寄せられる質問は多岐にわたります。ここでは、特に問い合わせの多い3つの疑問に絞って解説します。
開業日を過ぎてから開業届を出した場合でも青色申告できる?
開業日を過ぎてからでも開業届の提出は可能ですが、青色申告をその年から適用するには注意が必要です。
青色申告を行うには、「所得税の青色申告承認申請書」を期限内に提出する必要があります。この期限は「開業日から2カ月以内」もしくは「その年の3月15日まで」のいずれか早い方です。
たとえば、1月10日に開業したのに、開業届を4月に提出した場合、青色申告の承認申請書の期限(3月15日)を過ぎているため、その年の青色申告は原則としてできません。翌年分からの適用になります。
また、開業日を過去にさかのぼって記載することは可能ですが、事業の実態(契約書や請求書など)がなければ、税務署に認められない場合もあるため注意が必要です。
節税効果の高い青色申告をその年から適用したい場合は、開業後すみやかに開業届と承認申請書を提出しましょう。
副業でも青色申告は可能?
副業であっても、事業として継続性・独立性が認められる内容であれば、青色申告を利用することは可能です。
本業が会社員であっても、副業でフリーランス活動をしており、一定の収入や活動実態があれば、「個人事業主」として開業届を提出できます。たとえば以下のようなケースが該当します。
- ブログやアフィリエイトで安定した収入がある
- デザインやライティングなどの受注業務を継続的に行っている
- ハンドメイド商品を販売している
このような場合、開業届と青色申告承認申請書を提出すれば、副業でも青色申告の適用が可能です。
ただし、勤務先に知られたくない場合は「住民税を普通徴収にする」などの配慮が必要です。副業として開業する場合も、事業の記帳や確定申告は本業と同様にしっかり行いましょう。
青色申告の取り消しや再申請はできる?
一度承認された青色申告でも、取り消されたり、自ら取りやめたりすることは可能です。また、再申請も一定条件のもとで行えます。
青色申告が取り消される主な理由は以下の通りです。
- 正しい帳簿を作成していない
- 提出すべき書類を期限内に出していない
- 税務調査で不正が発覚した
また、自ら青色申告を取りやめたい場合は、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出すれば白色申告に戻すこともできます。
一方、取り消された場合でも、再度「青色申告承認申請書」を提出すれば、翌年以降に再適用される可能性があります。ただし、以前に取り消された理由や帳簿の整備状況によっては、再申請が認められないこともあるため注意が必要です。
帳簿の記帳と提出期限の管理を徹底することが、青色申告を継続して活用するうえで最も大切なポイントです。
参考:青色申告には開業届が必要?個人事業主向けの基礎知識や必要な書類を解説
まとめ:青色申告を始めるには、開業届と承認申請書を忘れずに

青色申告は、個人事業主にとって非常にメリットの多い制度です。最大65万円の特別控除や、家族への給与の経費化、赤字の繰越といった節税効果を得るには、「開業届」と「青色申告承認申請書」の提出が必要不可欠です。
開業届は、個人事業主として税務署に事業開始を知らせるための第一歩。青色申告承認申請書は、青色申告を行いたい旨を明示するための書類で、提出期限を過ぎるとその年からの青色申告はできません。
副業であっても、事業として成立していれば青色申告は可能ですし、会計ソフトを活用すれば、帳簿付けや申告も効率的に行えます。
「思い立ったが吉日」。事業を始めたらできるだけ早く開業届を提出し、青色申告の恩恵を受けられる環境を整えましょう。