個人事業主が開業届を提出するメリットは?デメリットや注意点も解説

個人で事業を始める際に提出が求められる「開業届」は、義務というよりも“出すことで得られるメリット”が大きい書類です。青色申告の特別控除を受けられる、屋号名義の口座が作れるなど、事業運営に役立つ利点が多数あります。一方で、出したことで発生する義務や注意点もあるため、内容を理解したうえでの判断が重要です。本記事では、開業届を提出することによるメリット・デメリットや注意点をわかりやすく解説します。

開業届とは?個人事業主が提出すべき理由

開業届とは?個人事業主が提出すべき理由

個人事業主として事業を始める際、「開業届を出すべきかどうか」で迷う方は多いのではないでしょうか。実際、「開業届を提出するメリット」や「提出しないことによるデメリット」は、個人事業主にとって非常に重要なポイントです。

開業届は、個人事業主が正式に事業を開始したことを税務署へ申告するための届出です。この手続きを行うことで、青色申告ができるようになるなどの多くのメリットを得ることができます。反対に、提出しないと税務面で不利になる場合や、各種制度の利用に制限が出ることもあります。

本章では、開業届の基本的な役割や、個人事業主にとって提出がなぜ重要なのかについて、詳しく解説します。

開業届の正式名称と役割

開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、税務署に対して個人事業を始めたことを届け出るための書類です。税務署の窓口や国税庁のウェブサイトから入手することができ、提出は無料で行えます。

この届出書を提出することで、税務署に対して「私は個人事業主として事業を開始しました」という公式な申告となり、税務処理や公的な手続きにおいて個人事業主として認識されるようになります。

また、開業届の提出により、以下のような公的手続きや制度の利用が可能になります。

  • 青色申告承認申請書の提出による青色申告の選択
  • 屋号付き銀行口座の開設
  • 小規模企業共済などの公的支援制度の利用
  • 保育園や住宅ローン申請などでの就労証明としての活用

これらの制度は、開業届を提出していなければ利用できないことが多く、特に「青色申告による節税メリット」を受けるには、開業届の提出が前提条件となります。

そのため、個人事業主として事業をスタートするのであれば、開業届は「出さなくてもいいが、出すべき」届出だと言えるでしょう。

提出が義務かどうかと罰則の有無

個人事業主が開業届を提出することは、実質的には「義務」とされています。ただし、法律上の強制力は弱く、提出しなかったとしても罰則はありません。

国税庁の見解によると、開業届の提出は所得税法に基づく「義務」ですが、これを怠ったことによる罰金や過料などの直接的なペナルティは設けられていません。そのため、実際には提出せずに個人事業を行っている人も一定数存在します。

しかしながら、開業届を出さないことで受けられなくなるメリットも多いため、個人事業主として事業を安定的かつ継続的に進める意思がある場合は、早めに提出しておくことが望ましいです。

たとえば、青色申告による最大65万円の特別控除は、開業届を提出し、かつ所定の期限内に「青色申告承認申請書」を出していることが前提となります。また、補助金や助成金の申請にあたっても、開業届の控えが「事業実態の証明書類」として求められるケースが多く見られます。

つまり、「開業届を提出するかどうか」は、単なる形式的な判断ではなく、今後の事業運営に大きく影響する実務的な判断事項なのです。

特にフリーランスや副業から個人事業主へ転向する人にとっては、開業届を提出することで「個人事業主としての自覚と責任」が明確になり、今後のキャリア形成にもプラスに働く可能性があります。

参考:フリーランスが開業届を出すメリット・デメリットは?書き方・提出方法も紹介

個人事業主が開業届を提出するメリット

個人事業主が開業届を提出するメリット

個人事業主としてビジネスを始める際、「開業届を出すべきかどうか」で悩む方も多いでしょう。結論から言えば、開業届を提出することで得られるメリットは非常に多く、事業を安定して成長させていくうえで大きなアドバンテージになります。

ここでは、個人事業主が開業届を提出することで得られる代表的なメリットについて、7つに分けて詳しく解説します。

青色申告による節税効果(最大65万円控除)

個人事業主にとって最大のメリットのひとつが、「青色申告による節税効果」です。開業届を提出し、かつ所定の期限内に「青色申告承認申請書」を税務署に提出すれば、青色申告が可能になります。

青色申告を選択することで、最大65万円の「青色申告特別控除」を受けられます。この控除は、所得からそのまま差し引かれるため、節税効果が非常に大きく、税負担を大きく軽減できます。

さらに、青色申告では、家族への給与を「専従者給与」として経費に計上できるほか、30万円未満の資産を一括で経費処理する「少額減価償却資産の特例」も活用できます。これらの制度は、開業届を提出していないと選択できないため、節税を考える個人事業主にとって開業届の提出は必須と言えるでしょう。

赤字を3年間繰り越せる

青色申告のもうひとつの大きなメリットとして、「赤字の繰り越し」が挙げられます。個人事業主として事業を始めたばかりの頃は、経費が多くなりがちで赤字になるケースも珍しくありません。

青色申告をしていれば、その赤字分を翌年以降の所得から差し引くことが可能です。繰り越し期間は最長3年間にわたり、黒字になった年の所得と相殺することで、納税額を抑えることができます。

たとえば、初年度に50万円の赤字が出たとしても、翌年に100万円の黒字が出れば、差し引き50万円の所得とみなされるため、課税対象額が減少します。これは資金繰りの厳しい立ち上げ期にとって大きな恩恵となる制度です。

もちろん、この制度を活用するためには開業届の提出と青色申告の承認が前提条件になります。

屋号名義の銀行口座を開設できる

開業届を提出することで、屋号付きの銀行口座を開設できるようになります。屋号とは、事業の名称のことで、たとえば「山田デザイン事務所」や「〇〇コンサルティング」など、個人名とは別の事業名で活動したい場合に使います。

屋号名義の口座があることで、以下のようなメリットがあります。

  • 取引先からの入金時に信用が高まる
  • 事業用とプライベート用の口座を分けることで経理がしやすくなる
  • 銀行によってはビジネス向けサービスを利用できる

屋号口座の開設時には、金融機関によって開業届の写し(控え)の提出が求められることが多いため、提出していない場合は開設を断られることもあります。

参考:個人事業主必見!開業届を出すメリット・デメリットとは?書き方や手続き方法も解説

小規模企業共済などの制度に加入できる

小規模企業共済などの制度に加入できる

個人事業主は、会社員と違って退職金制度がありません。しかし、開業届を提出することで、個人事業主向けの退職金制度である「小規模企業共済」への加入が可能になります。

小規模企業共済は、毎月1,000円〜7万円の範囲で掛金を積み立てておき、事業を廃業した際などに退職金として受け取れる制度です。掛金は全額が所得控除の対象となるため、節税効果もあります。

加入には、原則として開業届の提出が必要であり、事業の実態が確認できることが条件となっています。将来の備えとして小規模企業共済を検討している方は、まず開業届の提出から始めましょう。

各種補助金・助成金への申請が可能になる

近年では、個人事業主を対象とした各種補助金・助成金制度が充実してきています。たとえば、IT導入補助金や持続化補助金など、業種や目的に応じた支援制度が存在します。

こうした制度に申請する際には、「事業を行っていることの証明書類」として開業届の控えの提出が求められることがほとんどです。開業届を出していない場合、申請そのものができなかったり、審査で不利になったりするケースもあります。

資金調達の一環として補助金や助成金を活用したい個人事業主にとって、開業届の提出は大前提となる重要な手続きです。

信用力が向上し、取引や融資に有利になる

個人事業主がビジネスを円滑に進めていくうえで「信用力」は欠かせません。特に取引先が法人の場合や、大口案件を扱う際には、「開業届を提出しているかどうか」が一つの信用の指標になります。

また、日本政策金融公庫や民間の金融機関から事業資金の融資を受ける際にも、開業届の控えは事業実態の確認書類として重視されます。開業届を提出していないと、融資の審査が通りにくくなる、あるいは書類不備で申請が却下されるといった事態も考えられます。

開業届を提出することは、「個人事業主として正式に活動しています」という対外的な証明であり、事業における信用力を高める有効な手段です。

保育園の就労証明としても活用できる

子育てをしながら働く個人事業主にとって、保育園の利用は重要なライフラインのひとつです。保育園の入園申請時には「就労証明書」の提出が求められますが、会社員であれば雇用証明書を提出すれば済むのに対し、個人事業主の場合は「開業届の控え」が証明書類の代わりとして使われます。

自治体によっては、開業届の提出日や開業日が古い方が優先度が高くなるケースもあり、早めに届出を済ませておくことが有利に働きます。

また、家庭と仕事を両立しながら働く個人事業主としての活動を行政に正式に認めてもらうという意味でも、開業届の提出は有効です。

参考:個人事業主が開業届を提出するメリットとは?記載内容や提出方法なども解説

開業届を出すデメリットと注意点

開業届を出すデメリットと注意点

開業届を提出することには多くのメリットがありますが、一方でいくつかのデメリットや注意点も存在します。個人事業主として長く安定したビジネスを築いていくためには、メリットだけでなく、デメリットについてもしっかりと把握しておくことが重要です。

ここでは、個人事業主が開業届を提出する際に気をつけたいポイントを4つ紹介します。

扶養から外れる可能性がある

開業届を出して個人事業主となると、健康保険や所得税における「被扶養者」の条件から外れてしまう可能性があります。特に専業主婦(夫)や学生、副業で開業を考えている方などが配偶者や親の扶養に入っている場合は要注意です。

扶養の認定基準は健康保険と税制で異なりますが、一般的には以下のような基準が設けられています。

  • 健康保険上の扶養:年間収入が130万円未満(条件により106万円)
  • 所得税上の扶養:年間所得が48万円以下

開業届を提出しただけで即座に扶養から外れるわけではありませんが、収入が基準を超えた場合や、事業開始の意思が明確であると判断されると、保険組合や税務署から扶養の取り消しを受けることがあります。

特に扶養内で働きながら副業として個人事業を行う人は、開業届の提出タイミングや収入見込みを慎重に判断する必要があります。開業届の提出は「事業開始の意思表示」と見なされるため、将来的に扶養から外れる可能性を事前に把握しておきましょう。

失業給付を受けられなくなる

開業届を提出すると、「就業状態」と見なされるため、雇用保険の失業給付(失業保険)を受けられなくなる可能性があります。

ハローワークでは、失業給付を受けるためには「求職活動中であること」が条件とされており、個人事業主として開業届を提出している場合、「求職中ではなく自営業中」と判断されるケースが多くなります。

特に注意が必要なのは、会社を退職後、しばらく失業保険を受け取ってから起業・開業を考えている方です。このようなケースでは、先に開業届を提出してしまうと、その時点で給付資格を失う可能性があります。

対策としては、失業給付の受給が終了してから開業届を提出する、あるいは「再就職手当」や「起業支援制度」を活用することが挙げられます。いずれにしても、開業届の提出が給付条件に影響する可能性があるため、事前にハローワークで相談するのが安心です。

青色申告に伴う帳簿作成の手間がある

開業届を提出し、青色申告を選択した個人事業主は、一定の帳簿作成義務を負うことになります。特に、65万円の特別控除を受けるためには「複式簿記」による記帳と「貸借対照表」「損益計算書」の提出が求められます。

この帳簿作成には以下のような手間が発生します。

  • 日々の取引の記録(仕訳帳・総勘定元帳の作成)
  • 期末の棚卸資産の把握
  • 年次の決算処理と帳簿提出
  • 税務署への確定申告書類の作成

こうした事務作業は、会計や簿記に不慣れな個人事業主にとっては大きな負担となる場合があります。特に事業が軌道に乗るまでは、本業以外の作業に時間を取られてしまうこともあるでしょう。

もちろん、最近ではクラウド会計ソフトの活用によって記帳業務は以前より簡単になっていますが、青色申告を選ぶ以上、一定の知識や手間が必要であることは理解しておくべきです。

職業や開業日の選定で税率・手続きに影響がある

開業届には「職業」や「開業日」といった情報を記入する必要がありますが、これらの選択によって後の税務処理や公的手続きに影響が出ることもあります。

たとえば、職業欄に「デザイナー」「ライター」「コンサルタント」などと記載することで、それぞれの業種に応じた税務区分(消費税・個人事業税など)が適用される場合があります。個人事業税の対象業種に該当する場合、別途「事業開始等申告書」を都道府県に提出する必要があることもあります。

また、開業日をどこに設定するかによって、初年度の申告内容や納税義務が変わってくる可能性があります。開業日以前に購入した備品や経費を計上できるかどうかにも関わってくるため、日付の選定は慎重に行いましょう。

さらに、開業日を年の後半に設定すると、青色申告承認申請書の提出期限に間に合わなくなる恐れもあります。開業届を提出する際は、必要書類のスケジュールとあわせて「職業」と「開業日」を正確に設定することが、個人事業主としてのスムーズなスタートにつながります。

参考:開業届のメリットや出さないデメリットは?いつまでに出すべきかも解説

開業届を提出しない場合のデメリット

開業届を提出しない場合のデメリット

個人事業主として活動しているにもかかわらず、開業届を提出せずに事業を続けている人は少なくありません。確かに開業届の提出は法律上の罰則がないため、「出さなくても問題ない」と考えてしまうケースもあります。

しかし、開業届を提出しないことで、個人事業主として重要な権利や制度を活用できなくなってしまうこともあるのです。この章では、開業届を出さないことで生じる代表的なデメリットを4つの視点から解説します。

青色申告ができず節税の機会を逃す

開業届を提出しない最大のデメリットは、「青色申告ができないこと」です。青色申告をするには、開業届とともに「青色申告承認申請書」を提出する必要があり、開業届が出されていないと、そもそも青色申告を選ぶことができません。

青色申告には、以下のような節税上のメリットがあります。

  • 最大65万円の青色申告特別控除
  • 赤字の3年間繰り越しが可能
  • 家族への給与を専従者給与として経費計上可能
  • 少額減価償却資産の特例(30万円未満の資産を一括経費)

これらの特典は、すべて青色申告をしていることが前提です。白色申告では、これらの控除・特例を受けられないため、結果的に納税額が高くなり、節税のチャンスを逃してしまいます。

個人事業主として利益を最大限確保したいのであれば、開業届を出し、青色申告による節税効果を積極的に活用すべきでしょう。

屋号口座が作れない・ビジネスカード審査に不利

開業届を提出していない場合、金融機関で「屋号名義の銀行口座」を開設することが難しくなります。通常、屋号付き口座を開設するには、開業届の控え(写し)の提出が必要とされるため、届出をしていない個人事業主は、事業専用の口座を作ることができません。

屋号口座が持てないことで、次のようなデメリットが生じます。

  • 取引先からの信頼を得にくくなる
  • プライベート口座と事業口座が混在し、経理処理が煩雑になる
  • 事業名での請求や支払いができず、信用性が下がる

また、法人用・事業者向けのクレジットカード(ビジネスカード)を作成する際にも、開業届が提出されていないと審査で不利になります。多くのカード会社は、申込時に開業届の提出を求めており、それがない場合には「事業実態が不明」と見なされ、発行を断られるケースもあるのです。

事業運営をスムーズに進めるためにも、開業届を提出し、屋号口座やビジネスカードの取得準備を整えることは重要です。

自分が事業主である証明が難しくなる

個人事業主が開業届を提出していない場合、対外的に「自分は事業主である」と証明する手段が非常に限られてしまいます。

たとえば、以下のような場面で開業届の控えが証明書類として必要になります。

  • 賃貸契約で事業用途の利用を申し出る場合
  • 保育園の入園申請で就労証明を求められる場合
  • 補助金・助成金申請時の事業証明
  • フリーランスとして業務委託契約を結ぶ際の信用確認
  • 業界団体や商工会への加入申請

これらの場面で「事業主である証明書類」として最も一般的に利用されるのが、開業届の控えです。開業届を出していないと、本人の申告や収入証明だけでは信用力が弱くなり、手続きや審査において不利になる可能性があります。

特にフリーランスや在宅ワーカーのようにオフィスを持たない働き方の場合、開業届の提出は「社会的信用力を高める手段」としても大きな意味を持ちます。

将来的な法人成りや融資申請で不利になる

将来的に法人化(法人成り)を検討している場合にも、開業届を提出していないことで不利になることがあります。法人成りの際には、個人事業時代の売上・経費・実績などが、事業継続性や信用の証明として求められます。

開業届を出していれば、税務署への届出履歴が残り、青色申告書や帳簿との整合性も取れるため、スムーズに法人成りの準備が進められます。しかし、開業届を出していないと、過去の事業実績が明確に証明できず、融資審査や法人登記の際に説明が求められるケースもあります。

また、日本政策金融公庫や銀行などに事業融資を申し込む際にも、開業届の控えが「開業証明書類」として求められるのが一般的です。提出していない場合、「本当に事業を行っているのか」「収入の継続性があるのか」と疑問視され、審査が通りにくくなる可能性があります。

個人事業主としてのスタートを将来的なステップアップにつなげるためにも、開業届の提出は早めに行っておくのが賢明です。

参考:開業届を出すデメリットと、出さないデメリットを比較解説!

開業届の提出方法と手順

開業届の提出方法と手順

個人事業主として事業を始める際、開業届の提出は重要な第一歩です。提出自体は決して難しくなく、正しい手順を理解しておけばスムーズに進められます。この章では、開業届を提出するための必要書類や提出方法、提出期限などについて具体的に解説します。

提出に必要な書類と記載内容

開業届を提出する際に使用するのは、国税庁が定める「個人事業の開業・廃業等届出書」です。この書類は税務署の窓口でもらえるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。

記載する主な内容は以下の通りです。

  • 納税地(住民票のある住所または事業所所在地)
  • 氏名・生年月日・個人番号(マイナンバー)
  • 職業(例:デザイナー、ライター、コンサルタント など)
  • 屋号(任意)
  • 開業日
  • 事業の概要
  • 青色申告承認申請書の提出予定の有無

記入内容は正確かつ明確に記載する必要があります。特に「開業日」や「職業」は、後々の税務手続きや扶養判定にも関わるため、慎重に選びましょう。

税務署への提出方法(持参・郵送・e-Tax)

開業届の提出方法は、以下の3つから選べます。

  1. 税務署に直接持参する
    最寄りの税務署に行き、窓口で提出します。控えを1部持参すれば、その場で収受印を押した「受領書控え」を受け取れます。ビジネス用途で屋号口座を開設する際などに、この控えが必要になる場合があるため、必ず控えを準備しましょう。
  2. 郵送で提出する
    記入済みの開業届と返信用封筒(切手貼付済み)を同封し、税務署へ郵送します。控えを返送してもらいたい場合は、控えのコピーと返信用封筒を忘れずに同封してください。
  3. e-Tax(電子申告)で提出する
    マイナンバーカードとICカードリーダー、またはマイナンバーカード方式に対応したスマホを使って、国税庁のe-Taxシステムからオンラインで提出できます。時間や場所に縛られず、24時間いつでも申請可能なのがメリットです。

手軽に済ませたい場合は、freee開業やマネーフォワード開業届などの無料ツールを利用すれば、必要書類を自動作成し、e-Tax連携まで簡単に完了できます。

提出期限と開業日の決め方のポイント

開業届の提出期限は、開業日から1か月以内と定められています。この「開業日」とは、事業の準備を始めた日ではなく、「実際に収入が発生した日」「事業活動を開始した日」などが該当します。

ただし、開業日は申告者が自由に設定できるため、実際の活動開始日よりも前倒し・後ろ倒しすることも可能です。例えば、設備の購入や事業用サイトの公開日などを基準とする人もいます。

また、青色申告を希望する場合は、「開業日から2か月以内」または「その年の3月15日まで」のいずれか早い日までに「青色申告承認申請書」を提出しなければなりません。開業日を年末に設定すると、この期限がタイトになるため、開業日の選定には注意が必要です。

開業届以外に一緒に提出すべき書類(青色申告承認申請書など)

開業届とあわせて、以下の書類も提出すると税務手続きがスムーズになります。

  • 青色申告承認申請書
    青色申告をするには、原則として開業日から2か月以内にこの書類を提出する必要があります。65万円控除を受けたい場合は、複式簿記による帳簿作成が必要になります。
  • 給与支払事務所等の開設届出書
    家族や従業員に給与を支払う場合に提出が必要です。源泉所得税の納付義務が生じる場合があります。
  • 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
    給与を支払う際、年2回の納付で済むようにするための申請書です。
  • 消費税課税事業者選択届出書・適格請求書発行事業者の登録申請書(インボイス制度関連)
    将来的に課税事業者やインボイス登録を希望する場合には、こちらの書類も検討しましょう。

開業届だけでなく、これらの届出も合わせて行っておくことで、後から慌てずに済みます。必要書類は人によって異なるため、事業内容に応じて事前に確認しておくことが大切です。

参考:開業届を出すメリット・デメリットと提出方法について

開業届に関するよくある質問

開業届に関するよくある質問

開業届の提出については、個人事業主や副業従事者の間で多くの疑問が寄せられています。この章では、実際によくある4つの質問に対し、個人事業主の立場から分かりやすく回答していきます。

副業でも開業届は必要?

副業として個人事業を行っている場合でも、継続的な収益を目的とした活動であれば、開業届を提出することが推奨されます

例えば、平日は会社勤めをしながら、休日にWebデザインやライティング業務を受注して報酬を得ているようなケースでは、税務上「事業所得」とみなされる可能性があります。その場合、青色申告による節税を受けるためにも、開業届の提出が必要です。

一方で、単発の副収入や不定期なフリーマーケット出品など、継続性がない活動は「雑所得」として扱われ、開業届は必須ではありません。ただし、将来的に収益が増えたり、活動が継続的になったりする場合には、早めに開業届を提出しておくとよいでしょう。

開業届は会社にバレる?

開業届を提出しても、税務署から勤務先へ通知が行くことはありません。そのため、基本的に会社にバレることはありませんが、いくつか注意点があります。

住民税の通知から発覚する場合がある

副業による所得がある場合、住民税の額が本業の給与と一致しなくなることがあります。住民税が給与天引き(特別徴収)されている場合、会社の経理担当者が気付く可能性があります。これを防ぐには、確定申告時に「住民税を自分で納付(普通徴収)」に設定しましょう。

インボイス登録や口座名義が目に触れるケースもある

取引先や金融機関に会社名と副業名義が混在した書類を提出することで、偶然発覚することもあります。

副業禁止規定がある会社の場合は、事前に就業規則を確認し、必要に応じて相談することも検討してください。

過去にさかのぼって提出できる?

開業届は、過去にさかのぼって提出することが可能です。たとえば、すでに個人事業として活動を開始していたが、提出を忘れていた場合でも、実際の開業日を遡って申請することができます。

ただし、青色申告を希望する場合には注意が必要です。青色申告は「申請書を提出した日以降」の分しか適用されないため、さかのぼって青色申告を利用することはできません。

そのため、できるだけ早めに開業届と併せて青色申告承認申請書を提出しておくことが、税務上のメリットを最大限に活かすためのポイントです。

売上ゼロ・収入なしでも提出すべき?

事業開始直後や準備段階では、売上がゼロということも珍しくありません。しかし、売上や収入の有無にかかわらず、将来的に継続的な事業として行う意志があれば、開業届を提出すべきです

開業届を提出しておけば、売上がゼロでも開業日以降に発生した経費を計上でき、赤字であっても青色申告による繰越控除の対象にできます。また、補助金や助成金への申請、屋号口座の開設、各種ビジネスサービスの利用にも役立ちます。

「まだ売上がないから」と開業届の提出を先延ばしにすると、節税や制度活用のチャンスを逃してしまう可能性があるため、事業を始める意思が明確であれば、早めに提出するのがベストです。

参考:開業届は収入0円でも提出すべき?メリットや提出方法も併せて解説!

まとめ:開業届の提出で得られるメリットを活かそう

まとめ:開業届の提出で得られるメリットを活かそう

個人事業主としての第一歩となる「開業届」の提出には、多くの実務的・制度的なメリットがあります。青色申告による節税効果をはじめ、赤字の繰り越しや屋号口座の開設、補助金申請、信用力の向上など、開業届を提出することで得られる恩恵は非常に大きなものです。

一方で、扶養の制限や失業給付の対象外となるリスク、帳簿作成の手間といった注意点も存在します。しかし、それらの点を理解し、計画的に対処すれば、開業届の提出は個人事業主としての活動をより円滑かつ有利に進める大きな武器となります。

「まだ売上が少ないから」「副業だから」といった理由で提出を見送るのではなく、将来的な発展や制度活用の可能性を視野に入れて、前向きに開業届の提出を検討してみましょう。事業を継続的に成長させるためには、こうした小さな一歩が非常に重要なのです。

参考:開業届のメリット・デメリットとは?注意点やよくある疑問を解説