個人事業主が開業届を出す際に必要なものとは?どこに出すのか、注意点も解説

個人事業主として正式に事業を始めるには、「開業届」の提出が必要です。しかし、初めての手続きでは「何を準備すればいいの?」「どこに提出するの?」と不安に感じる方も多いでしょう。開業届の提出には、必要書類や本人確認書類の準備、提出先の税務署の確認など、いくつかのポイントを押さえることが大切です。本記事では、開業届を出す際に必要なものや提出先、注意すべき点についてわかりやすく解説します。
個人事業主にとっての開業届とは?

個人でビジネスを始める際、「開業届」という言葉を耳にする方は多いでしょう。開業届は、個人事業主として事業を始めたことを税務署に届け出るための重要な書類です。開業届の提出は法律で義務付けられており、今後の税務処理や社会的信用にも関わるため、開業前後の手続きのなかでも特に重要なステップといえます。
ここでは、開業届の基本的な内容とともに、誰が・いつ・なぜ提出すべきか、提出しないとどうなるのかをわかりやすく解説します。
開業届とは何か
開業届とは、正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、事業を開始したことを税務署に報告するための書類です。個人事業主が事業を開始した日から1か月以内に所轄の税務署へ提出することが義務とされています(所得税法第229条に基づく)。
この届出をすることで、税務署は「この人が個人で事業を開始した」という情報を把握でき、以後の所得税や消費税などの課税手続きが適切に行われるようになります。開業届の提出自体には費用はかかりませんし、用紙も税務署や国税庁のウェブサイトから無料で入手可能です。
開業届には以下のような情報を記載します。
- 氏名・住所・生年月日・マイナンバー
- 納税地や事業所の所在地
- 屋号(あれば)
- 事業の概要や所得の種類
- 開業日 など
この情報をもとに税務署は個人事業主としての活動内容を登録し、青色申告の申請や消費税の課税事業者選択などの各種税務処理が可能になります。
参考:開業届とは?書き方や必要書類、提出するメリットなどを徹底解説【記入例付】
提出が必要な人とタイミング

開業届の提出が必要なのは、個人で継続的に収益を得る目的で事業を開始する人です。いわゆる「フリーランス」「自営業」「副業をしている会社員」であっても、以下のような条件に当てはまる場合は開業届の提出が推奨されます。
開業届の提出が必要な主なケース
- 専業で個人事業を開始する場合(例:Webデザイン、ライター、整体師など)
- 副業として継続的な事業収入がある場合(例:アフィリエイト、物販、コンサル業)
- 複数の取引先と業務委託契約を結んで収入を得ている場合
逆に、たとえばアルバイトやパート、年に数回の単発の収入といった「継続性のない一時的な活動」の場合は、原則として開業届を提出する必要はありません。
提出のタイミングは「事業開始日から1か月以内」
開業届は、事業を開始した日から1か月以内に提出することが法律で定められています。たとえば、フリーランスとして初めてクライアントと契約を結び、業務をスタートした日が「開業日」となります。
ただし、厳密な日付の証明は不要なため、自身で「事業を開始した」と判断できる日を基準にすることが一般的です。提出が遅れても罰則が科されるわけではありませんが、次に紹介するデメリットが発生する可能性があるため、早めの対応が望ましいです。
参考:個人事業主の開業時にやることをリスト化!開業後に必要な準備も紹介
提出しないとどうなる?
開業届を提出しなかった場合、法律上の罰則は基本的にありません。しかし、個人事業主として得られる多くのメリットを享受できなくなるため、以下のような不利益を被る可能性があります。
1. 青色申告ができない
開業届を提出していないと、青色申告承認申請書も提出できません。青色申告には最大65万円の特別控除や、赤字の繰越控除、家族への給与を経費にできるなどの税制上の大きなメリットがあります。開業届を出していなければ、これらの特典は一切利用できません。
2. 屋号付き口座の開設ができない
事業専用の銀行口座(屋号名義口座)を開設するには、開業届の控えが必要です。提出していない場合、屋号付きの口座は作れず、事業とプライベートの資金管理が煩雑になるリスクがあります。
3. 融資・補助金の審査に通らない
開業届の提出は、第三者に「個人事業主として活動している証明」となります。補助金や助成金の申請、金融機関からの融資など、事業に関わる多くの手続きでは、開業届の控えが提出要件になることも少なくありません。
4. 税務署からの問い合わせや指摘リスク
開業届を出していないまま高額の事業所得が発生すると、税務署から確認の連絡が入る場合があります。確定申告時に事業所得として申告するにも関わらず、開業届が未提出であると、事業の実態を証明するよう求められる可能性もあります。
開業届の提出に必要なもの一覧
個人事業主として事業をスタートさせるには、税務署への開業届の提出が第一歩です。しかし、「開業届を出すには何が必要なのか?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
実際には、用意する書類はそこまで多くありませんが、ケースによって必要な提出物が追加されることもあります。ここでは、開業届の提出時に必要な基本書類と、青色申告や従業員の雇用などの状況に応じて提出すべき関連書類について、順を追って解説します。
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)
開業届の中心となるのが、「個人事業の開業・廃業等届出書」という書類です。国税庁が定めた様式で、開業届と呼ばれるものの正式名称はこちらです。
この書類には、以下のような情報を記載します。
- 氏名・住所・生年月日
- マイナンバー(個人番号)
- 事業所の所在地
- 事業の概要(例:Webサイト制作、物販など)
- 所得の種類(事業所得、雑所得など)
- 屋号(任意)
- 開業日
- 青色申告承認申請書の提出有無 など
開業届の入手方法
開業届は以下のいずれかの方法で取得できます。
- 税務署の窓口で直接もらう
- 国税庁のWebサイトからダウンロード(PDF)
- freeeなどの開業届作成サービスを利用して自動生成
用紙は1枚で、記入項目も比較的シンプルです。手書きでも入力ソフトでもOKですが、間違いを減らすためにもfreeeやマネーフォワードのようなツールを使うのがおすすめです。
本人確認書類とマイナンバーがわかるもの
開業届を提出する際には、本人確認書類とマイナンバー(個人番号)が確認できる書類も一緒に提出します。これは郵送やe-Taxでの提出時に特に重要です。
必要なものの組み合わせ例
マイナンバーカードがあれば1枚で両方の確認が可能です。それ以外のケースでは、たとえば「運転免許証+マイナンバー通知カード」のように、2種類の書類を組み合わせて提出する必要があります。
印鑑(必要な場合)
開業届の提出には印鑑が必要となる場合があります。特に、窓口で紙の開業届を手書きで提出する場合には、署名の横に押印を求められることがあります。
ただし、現在の税務行政では印鑑の省略が進んでおり、印鑑の押印は必須ではないケースも増えています。e-Taxでの電子提出時には署名・捺印の代わりに電子署名が使用されるため、印鑑は不要です。
とはいえ、今後の事業で印鑑を使う場面は多いため、屋号入りの印鑑を作成しておくと便利です。銀行口座の開設や取引先との契約などにも活用できます。
その他の提出書類(状況別)
基本的に「開業届」と「本人確認書類」で提出は完了しますが、以下のようなケースに該当する場合は、追加で別の書類を一緒に提出することが推奨されます。
青色申告承認申請書
「青色申告で節税をしたい」と考える個人事業主にとって、非常に重要な書類がこの青色申告承認申請書です。最大65万円の特別控除が受けられるほか、赤字の繰越や家族への給与を経費にできるなどのメリットがあります。
この書類は、開業届と同時に提出するのが一般的ですが、事業開始日から2か月以内であれば後から提出も可能です。
例:4月1日に開業 → 6月1日までに提出すればOK
一方、2か月を過ぎると青色申告が認められず、その年は白色申告扱いになりますので、注意が必要です。
青色事業専従者給与に関する届出書
配偶者や家族を従業員として雇い、その給与を経費として計上したい場合は、この青色事業専従者給与に関する届出書の提出が必要です。
この届出書を提出しないと、たとえ家族に給与を支払っても、経費として認められないことになります。事業規模がある程度大きくなる場合は、節税面でも大きな差が出るので忘れずに提出しましょう。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
事業主が従業員を雇用し給与を支払う場合は、源泉徴収義務者となり、給与から所得税を差し引いて税務署に納める義務があります。
この納付は原則として毎月行う必要がありますが、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することで、半年に1回の納付に変更できるという特例が利用できます。提出することで事務負担が大幅に軽減されるため、従業員を雇う予定がある場合はぜひ活用しましょう。
事業開始等申告書(都道府県税事務所提出)
開業届とは別に、都道府県税事務所に対して「個人事業税」のための届出も必要となる場合があります。それが「事業開始等申告書」です。
この書類の提出先は都道府県ごとに異なるため、地元の税事務所のWebサイトや電話での確認が必要です。提出のタイミングや様式も地域差があるため注意しましょう。
なお、所得が一定額を超えると「個人事業税」が課される可能性があり、業種によっても異なるため、事前に調べておくと安心です。
上記のように、開業届の提出にあたっては「基本の提出物」と「ケースによって必要となる追加書類」をしっかりと区別して準備することが大切です。開業直後のミスや漏れを防ぐためにも、事前にチェックリストを作成しておくとスムーズです。
参考:個人事業主の開業届に必要な書類とは?これを読めば今すぐできる手続きの流れ
開業届の提出先と提出方法

個人事業主として開業届を準備した後は、いよいよ提出のステップに移ります。しかし、「どこに提出すればいいのか」「どの方法が最も簡単なのか」など、初めての人にとっては不安が多い部分でもあります。
この章では、開業届の提出先と提出方法、さらに控えの受け取りや提出期限について詳しく解説します。
提出先は所轄の税務署
開業届の提出先は、事業主本人の納税地を管轄する税務署です。納税地とは、以下のいずれかに該当する住所です。
- 自宅の住所(多くの個人事業主はこれに該当)
- 事業所・店舗などの所在地(自宅と別の場合)
提出先の税務署がわからない場合は、国税庁の「税務署の所在地などを知りたい方」ページで、郵便番号から調べることができます。
開業届は原則として、所轄税務署に直接提出、郵送、またはオンライン(e-Tax)で提出します。次に、それぞれの提出方法を見ていきましょう。
提出方法は3種類
開業届の提出には、次の3つの方法があります。
税務署窓口での提出
最も基本的な方法が、税務署の窓口へ開業届を直接持参する方法です。
【メリット】
- その場で不備のチェックをしてもらえる
- 控えに「収受印(受付印)」をもらえる
【デメリット】
- 税務署の開庁時間内(平日8:30〜17:00)に行く必要がある
- 混雑する場合がある
持参する際は、記入済みの開業届(2部)と本人確認書類、マイナンバー確認書類、印鑑(必要な場合)を持参しましょう。1部は税務署保管用、もう1部は収受印を押した「控え」として返却されます。これは後々の銀行口座開設や融資申請などに使うことがあるため、必ず保管してください。
郵送での提出
仕事などで平日に時間が取れない場合には、郵送での提出が便利です。以下の手順で行います。
【準備するもの】
- 開業届(記入済みの原本+控え用のコピーまたは2部)
- 本人確認書類のコピー
- マイナンバー確認書類のコピー
- 返信用封筒(切手を貼付し、住所を記載)
郵送先は、所轄の税務署宛です。控えを返送してもらうために、返信用封筒を必ず同封しましょう。控えには収受印が押され、正式な受領証明となります。
【注意点】
- 記入漏れや不備があると返送される可能性があるため、事前に内容をよく確認しておきましょう。
e-Tax(オンライン)での提出
近年利用者が増えているのが、国税庁の電子申告システム「e-Tax」によるオンライン提出です。パソコンまたはスマートフォンから24時間いつでも手続き可能で、物理的な移動や郵送の手間がありません。
e-Taxでの提出には以下の2通りがあります。
- マイナンバーカード方式(マイナンバーカードとICカードリーダーが必要)
- ID・パスワード方式(税務署で発行されたe-Tax用IDを使用)
マイナンバーカード方式では、控えをPDFとして保存できます。ただし、電子データには収受印が押されないため、紙の控えが必要な場面では使いづらいというケースもあります。そのため、今後控えの提示が必要な予定がある人は、紙での提出の方が安心です。
【補足】 freee開業やマネーフォワード開業といった開業支援サービスを利用すると、必要情報を入力するだけでe-Tax提出まで一括で行えるため、初めての人にもおすすめです。
提出期限と控えの扱い
開業届は、事業を開始した日から1か月以内に提出することが法律で義務付けられています(所得税法229条)。遅れて提出したからといって罰金が発生することはありませんが、青色申告承認申請書の提出期限にも影響するため、なるべく早めに手続きを済ませましょう。
控えの受け取りと保管が重要
開業届を提出すると、控え(提出内容の写し)に税務署の「収受印(受付印)」が押されたものが返却されます。これが個人事業主としての活動を証明する公的な書類となり、次のような場面で必要となることがあります。
- 屋号付きの銀行口座の開設
- クレジットカードやリース契約の申請
- 補助金や助成金の申請
- オフィスや店舗の賃貸契約
そのため、控えは必ず受け取り、原本を大切に保管し、念のためコピーやスキャンデータも保存しておくと安心です。
参考:開業届に必要なものとは?書き方や提出方法などくわしく解説
開業届の書き方と作成のポイント

開業届は、個人事業主として事業を始める際に最初に提出する重要な書類です。しかし、いざ書こうとすると「何を書けばいいのか分からない」「どの項目をどう埋めればいいのか不安」と感じる人も多いでしょう。
ここでは、開業届に記入する主な項目の説明から、よくあるミスや注意点、さらに便利な無料作成ツールの活用方法まで、スムーズに作成できるポイントを解説します。
開業届に記入する主な項目
開業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書)は、A4サイズ1枚の用紙に基本的な事業情報を記載するだけのシンプルな構成です。主に記入する項目は以下の通りです。
氏名・住所・生年月日・マイナンバー
個人事業主本人の基本情報を記載します。マイナンバーは12桁の個人番号ですので、正確に記入しましょう。
納税地
通常は自宅の住所を記載します。事務所や店舗がある場合は、その所在地も記載します。
屋号
屋号は事業の名前にあたります。必須ではありませんが、事業用の銀行口座を開設する際などに役立つため、決まっている場合は記入しておきましょう。
職業・事業の概要
「Webデザイナー」「ライター」「ハンドメイド制作・販売」など、事業の内容を具体的かつ簡潔に記載します。事業概要は30〜40文字程度で、どのようなサービスを提供するかを明確に記載するのが理想です。
所得の種類
「事業所得」「不動産所得」「山林所得」のいずれかにチェックを入れます。個人事業主であれば通常は「事業所得」にチェックを入れます。
開業・廃業等日
事業を開始した日付を記入します。初めて取引が発生した日、請求書を発行した日、準備が整った日などを基準にします。明確な定義はないため、自分で判断して問題ありません。
青色申告承認申請書の提出有無
青色申告を希望する場合は「有」にチェックし、別途「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
よくある間違いと注意点
開業届は比較的簡単な書類ですが、初めて提出する場合にありがちなミスも存在します。以下に代表的な注意点をまとめました。
開業日を曖昧にする
「いつから開業したか」は、青色申告の期限や税務上の判断に関わります。明確な日付が分からない場合は、請求書の発行日や初回の売上日など、客観的に説明できる日を選びましょう。
所得の種類の選択ミス
副業で少額の収入がある場合、「雑所得」と混同しがちです。継続して収益を得る意思があり、事業として活動するなら「事業所得」に該当します。
記入漏れや誤字脱字
特にマイナンバーや住所に誤りがあると、再提出を求められることがあります。記入後は必ず見直しを行いましょう。
屋号と事業の実態がかけ離れている
屋号はある程度自由に決められますが、実際の事業内容と乖離しすぎていると、審査や補助金申請などで不利になる場合があります。
無料で作成できるサービスの活用(freeeなど)
開業届は手書きでも提出可能ですが、無料で使えるオンラインサービスを利用すると、初心者でも簡単に作成できます。代表的なサービスを紹介します。
freee開業
freee開業は、会計ソフトfreeeが提供する開業届作成支援ツールです。画面に沿って質問に答える形式で、必要な情報を入力するだけで開業届を自動生成できます。
- 青色申告承認申請書や源泉所得税の特例申請書も同時に作成可能
- e-Tax対応でオンライン提出もサポート
- スマートフォンからも操作可能
マネーフォワード クラウド開業
会計ソフト「マネーフォワード クラウド」の開業サポート機能も、freeeと同様に便利です。質問形式で書類が自動作成され、開業届に加えて必要な関連書類もまとめて準備できます。
J-Net21「創業・開業ツール」
中小企業基盤整備機構が提供するJ-Net21では、開業手続きに関するガイドラインや記入例が豊富に用意されています。書き方の参考として非常に役立つサイトです。
これらのサービスを利用すれば、記入ミスや記載漏れを防げるだけでなく、PDF出力や印刷もスムーズに行えるため、非常に効率的です。
参考:個人事業主になるには何が必要?開業届など各種の届け出や必要な手続きについてご紹介
開業届を出すメリット・デメリット

個人事業主としてビジネスを始める際に提出が求められる「開業届」。義務とされる書類である一方、提出することで得られるメリットも多く、逆に知らずに提出してしまうと後々困るようなデメリットも存在します。
この章では、開業届を提出することで得られる主なメリットと、知っておくべきリスクや注意点を整理してご紹介します。これから事業を始める方が、自分にとって開業届の提出が必要かどうかを判断する参考になります。
開業届を提出するメリット
開業届を提出することで、税務上・信用上・行政手続き上のさまざまな恩恵を受けることができます。とくに次の3つは、個人事業主にとって非常に大きなメリットです。
青色申告ができる
最も大きなメリットのひとつが、「青色申告」を選択できるようになることです。開業届を提出し、あわせて青色申告承認申請書を出すことで、青色申告による節税メリットを享受できます。
青色申告の主な特典は以下の通りです。
- 最大65万円の青色申告特別控除(電子申告または複式簿記+貸借対照表の提出が条件)
- 赤字の繰越が最大3年間可能
- 家族への給与を経費として計上できる(青色事業専従者給与)
- 減価償却の特例や貸倒引当金の計上も可能
白色申告ではこれらの恩恵を受けられないため、ある程度の事業規模や継続的な収入が見込まれる場合は、青色申告による節税効果は非常に大きいといえます。
屋号口座が開設できる
開業届には任意で「屋号」を記載する欄があります。この屋号を使って、事業専用の銀行口座(屋号口座)を開設することが可能になります。
屋号口座を持つことのメリットは次の通りです。
- 事業収入とプライベート収入を分けて管理できる
- 顧客や取引先からの信頼性が上がる(法人と見分けがつきやすい)
- 経費精算や確定申告がスムーズになる
屋号付き口座の開設には、金融機関によって開業届の控え(収受印付き)が求められることがあるため、開業届の提出は事実上必須といえます。
補助金・融資の申請が可能になる
開業届を提出することで、「個人事業主として公的に事業を行っている」ことの証明になります。これにより、以下のような行政支援制度への申請が可能になります。
- 日本政策金融公庫などの創業融資
- 各自治体の創業支援補助金や助成金
- 雇用関連の補助金制度
- 小規模企業共済などの加入制度
これらの制度では、開業届の控えが必要書類として指定されていることが多く、提出していなければ申請そのものができないというケースもあります。
とくに、開業初期に資金調達を必要とする個人事業主にとっては、開業届の提出がスタートラインになると言っても過言ではありません。
提出によるデメリットやリスク

一方で、開業届の提出によって生じるデメリットやリスクも理解しておく必要があります。事業開始後に「こんなはずじゃなかった」とならないように、以下の2点は特に注意が必要です。
扶養の外れる可能性
配偶者や親の健康保険の「扶養」に入っている場合、開業届を出すことで扶養から外れる可能性があります。健康保険や年金など、社会保険制度においては、「個人事業主=収入がある人」として扱われるためです。
扶養から外れる基準は制度によって異なりますが、以下のようなラインが一般的です。
- 健康保険の扶養:年収130万円以上(または収入が被保険者の半分以上)
- 配偶者控除:所得が48万円を超えると対象外
とくに注意が必要なのは、開業初年度で収入が少ないにもかかわらず扶養から外れてしまい、国民健康保険や国民年金の負担が増えるケースです。収入の見通しや保険制度のルールを確認した上で、開業届のタイミングを調整するのも一つの手です。
失業保険が受給できない場合
会社を退職して個人事業を始めるケースでは、失業保険(雇用保険の基本手当)の受給資格に影響が出ることがあります。原則として、ハローワークでは「就職の意思があること」「積極的に求職活動をしていること」が支給の条件となっており、開業届を出すことでこれらの条件を満たさなくなると判断されることがあるのです。
とくに注意が必要なのは、雇用保険受給中に開業届を提出した場合です。この場合、基本手当の支給が停止されるか、全額受け取れなくなることもあります。
なお、「再就職手当」や「起業準備手当」など、起業を支援する制度も一部ありますが、それらを活用する場合も開業届の提出時期や内容に注意が必要です。事前にハローワークで相談するのが確実です。
開業届の提出には、青色申告・口座開設・補助金申請などの大きなメリットがある一方、社会保険や失業給付といった生活面に影響を与える可能性もあります。
「今は副業レベルだから不要」と思っていても、収益が安定してくると提出が必要になる場面は必ず訪れます。事前に制度を理解したうえで、メリット・デメリットを比較検討し、自分にとって最適なタイミングで開業届を提出しましょう。
参考:個人事業主の開業届の提出に必要なものとは? 必要書類の出し方や注意点も解説
開業届とあわせてやるべき開業準備

開業届の提出は、個人事業主としての第一歩ですが、それだけで万全というわけではありません。スムーズに事業を始め、継続的に運営していくためには、開業届の提出とあわせて準備しておくべきことがいくつかあります。
ここでは、開業前後に行うべき代表的な準備項目として「会計ソフトの導入」「銀行口座・クレジットカードの用意」「許認可の確認」の3点について解説します。
会計ソフトの導入
事業を始めると、収入や経費の記録、領収書の管理、確定申告書の作成といった会計業務が発生します。これを手作業で行うのは非常に手間がかかるうえ、ミスの原因にもなりかねません。
そこでおすすめしたいのが、クラウド型の会計ソフトの導入です。代表的なサービスには以下のようなものがあります。
- freee会計:開業届の作成から会計、確定申告まで一気通貫で対応
- マネーフォワード クラウド確定申告:銀行やクレカとの連携がスムーズ
- 弥生会計 オンライン:初心者にもわかりやすいUIが魅力
会計ソフトを使えば、売上・仕入の記録や領収書の読み取り、帳簿の自動作成、青色申告書の提出まで効率的に行えます。開業後はもちろん、開業初日からの記録を残すためにも、開業届を提出するタイミングで導入しておくのが理想です。
銀行口座・クレジットカードの用意
事業用とプライベートの資金を混在させると、確定申告時の帳簿付けや経費処理が煩雑になります。そのため、事業専用の銀行口座とクレジットカードを開設しておくことを強くおすすめします。
銀行口座のポイント
- 屋号付き口座を作るには、開業届の控えが必要な場合がある
- ネットバンク(楽天銀行・住信SBIネット銀行・GMOあおぞらなど)は開設が早く、振込手数料も安い
クレジットカードのポイント
- 個人事業主向けのビジネスカードを作成しておくと経費管理がスムーズ
- 年会費無料・高ポイント還元率のカードも多数あり(例:三井住友カード ビジネスオーナーズなど)
これらを使い分けることで、経費と私的支出の区分が明確になり、会計処理や税務調査にも対応しやすくなります。
必要に応じた許認可の確認
業種によっては、開業届とは別に行政機関の許認可や登録が必要な場合があります。許認可を取得せずに営業を始めると、違法行為とみなされ罰則の対象になるケースもあるため、事前確認は非常に重要です。
主な許認可の例
開業前に自治体や所轄官庁のホームページ、または各種専門相談窓口で確認するのが確実です。許認可が必要な事業であるにも関わらず未取得のまま営業を開始した場合、罰則だけでなく信用失墜にもつながるため、必ず確認しましょう。
参考:開業届の提出に必要なものは?必要書類から出し方までの流れも解説
個人事業主の開業届に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、開業届に関してよく寄せられる3つの質問について、簡潔かつ実務的な視点で解説します。
開業届は副業でも出す必要がある?
ケースによりますが、副業であっても継続的かつ事業性がある収入を得ている場合は、開業届を提出することが推奨されます。
たとえば、以下のような副業は開業届の提出対象になる可能性が高いです。
- 月に数万円以上の報酬を受け取るWebライターやデザイナー
- ハンドメイド商品の販売やECショップ運営
- 業務委託契約を結んで継続的に報酬を得る副業
一方で、単発の収入や一時的な活動(たとえばフリマアプリで不用品を売るだけ)の場合は、開業届を出さなくても問題ありません。「事業としての継続性」があるかがポイントです。
控えを紛失したらどうすればいい?
開業届の控え(収受印付きのもの)を紛失した場合は、以下のような対応が可能です。
- 「開業届の写し(控え)」の再交付は原則として行われません。
- 代替手段として、所轄の税務署に「納税証明書(その2)」を申請することで、開業の事実を証明できます。
- もしくは、改めて「開業届」を再提出するという方法もありますが、税務上は二重登録になるおそれがあるため、事前に税務署へ相談するのが安心です。
重要な場面(屋号口座開設や補助金申請など)で提出を求められることが多いため、今後のためにPDFやコピーを保存しておくこともおすすめです。
開業日を遡って申請できる?
開業日を過去の日付にして開業届を提出すること自体は可能です。実際に事業を始めた日が明確であれば、その日を「開業日」として記入して問題ありません。
ただし、注意すべき点もあります。
- 青色申告を希望する場合、「開業日から2か月以内」に青色申告承認申請書を提出しないと適用が受けられません。
- 遡った日付にしても、税務署がそれを認めるかどうかは実態による(領収書・契約書・請求書などの記録が証拠となる)
そのため、できるだけ早く開業届を提出し、開業日も実態に基づいて正確に記載することが大切です。