個人事業主の開業日はいつがいい?損しない決め方やと縁起の良いおすすめの日

個人事業主として開業する際、「開業日はいつにすべきか?」と迷う方は多いものです。実は、開業日によって税金や保険料の負担が変わる場合もあり、少しの違いが大きな損得につながることも。また、「縁起の良い日」を選んでスタートしたいという方も少なくありません。本記事では、損をしないための開業日の決め方と、六曜や一粒万倍日など縁起の良いおすすめの日について、実務と気持ちの両面からわかりやすく解説します。

開業日とは?個人事業主にとっての意味と重要性

開業日とは?個人事業主にとっての意味と重要性

個人事業主としてビジネスをスタートする際、意外と迷いがちなのが「開業日」です。開業日は単なる記念日ではなく、税務処理や申告、補助金申請、保険手続きにまで関わる非常に重要な日付です。実際に、「いつを開業日にするべきか?」と悩む個人事業主も多く、税理士など専門家に相談する人も少なくありません。

ここでは、そもそも開業日とは何か、また実際の事業開始日との違い、そして帳簿管理や確定申告への影響について解説します。開業日の「決め方」だけでなく、「なぜ重要なのか」を理解することで、自分にとって損のない、そしておすすめの開業日を選ぶヒントが得られます。

開業日=開業届に記載する日付

個人事業主の「開業日」とは、税務署に提出する開業届(正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」)に記載する日付のことを指します。この日をもって正式に「個人事業主」として活動を開始したことになります。

ただし、この開業日は「いつから事業を開始したか」を自己申告する形式で、厳密な証明書類を求められるわけではありません。そのため、ある程度柔軟に設定することが可能です。たとえば、実際の営業開始日から数日前に設定したり、逆に後日にずらしたりすることもできます。

この自由度を活かし、「縁起の良い日」や「節税メリットのあるタイミング」に合わせて開業日を設定することが、個人事業主にとってのおすすめの選び方といえるでしょう。

実際の事業開始日との違いはある?

「開業日」と「実際の事業開始日」が一致していなければならないというルールはありません。たとえば、開業前に準備として事務所を借りたり、パソコンを購入したりするケースもあります。そうした準備期間を経て、顧客対応や売上が発生しはじめた日を開業日とすることも可能です。

一方で、事業開始前に開業届を出すことはできません。あくまで「事業の開始日以降」に提出する必要があります。とはいえ、開業日を多少遡って設定することは一般的であり、税務署でも認められています。実務的には、最初の売上日や契約日、あるいは開業準備の出費が発生した日などを基準にすることが多く見られます。

つまり、開業日は柔軟に決められるからこそ、事業の全体像を見ながら自分にとって最も都合の良いタイミング=おすすめの開業日を選ぶことが重要になります。

参考:開業日はいつにすべき?決め方や開業届を提出するメリットも解説

開業日は帳簿や申告に影響する

開業日は帳簿や申告に影響する

開業日は、単に「いつから働き始めたか」の記録にとどまらず、税務申告や会計処理、各種届出の起算点として大きな影響を及ぼします

たとえば、青色申告を希望する個人事業主は、開業日から原則2か月以内に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。この2か月という期限は開業日を基準としてカウントされるため、開業日をいつに設定するかで申請期限も変わってくるのです。

また、開業日よりも前に発生した支出は「開業費」として扱う必要があります。これにより、開業日以降の支出と帳簿の区分が変わるため、開業日の記載があいまいだと経費処理が煩雑になる可能性もあるのです。

さらに、個人事業税の「事業主控除」は月割計算されるため、開業月が遅ければ控除額が少なくなり、結果として納税額が増えるケースもあります。こうした理由から、開業日は戦略的に設定するべき日であり、ただの記念日や思いつきで決めるのは避けたいところです。

損しない開業日の決め方とは?押さえておくべき3つの観点

損しない開業日の決め方とは?押さえておくべき3つの観点

個人事業主が開業日を決めるにあたって、「いつでもいい」と考えるのは大きな誤解です。実際の事業スタートと同様に、開業日は税金・経費・手続きの起点になる重要な日付です。タイミングによっては節税できることもあれば、逆に損をしてしまう可能性もあります。

では、どのように開業日を選べば損をしないのか?ここでは、開業日の設定において必ずチェックしておきたい3つの視点(節税・経費処理・青色申告)を解説します。開業日を決める際の参考として、ぜひご自身にとっておすすめのタイミングを見極めてください。

節税面での有利・不利をチェック

個人事業主にとって、開業日はその年の所得税・住民税・個人事業税などの計算に影響する重要な起点です。中でも注意すべきなのが、個人事業税における事業主控除の取り扱いです。

個人事業税では、年間290万円の事業主控除が設けられていますが、この控除額は月割りで按分されます。つまり、開業月が遅ければ遅いほど、適用される控除額が減ってしまうというわけです。

たとえば、1月に開業すれば12か月分の控除=290万円すべてが適用されますが、7月開業であれば6か月分、つまり145万円しか控除されません。結果として、課税所得が増えて税負担が増加する可能性があるため注意が必要です。

このような背景から、節税の観点ではできるだけ早めの開業日設定がおすすめです。特にすでに売上が発生している、準備が整っているという個人事業主は、年の前半の開業日を選ぶことで節税メリットを最大化できます。

開業費の取り扱いと損金計上のタイミング

もうひとつ開業日を決めるうえで重要なのが、「開業費」の取り扱いです。開業費とは、開業日前にかかった支出のうち、事業に直接関係するものを指します。たとえば、名刺作成費、打ち合わせに使った交通費、パソコンやソフトの購入代金などが該当します。

この開業費は、税務上「繰延資産」として計上でき、任意のタイミングで損金(経費)として計上可能です。つまり、開業費を多く計上できる状態にしておけば、事業が黒字化したタイミングでまとめて経費にすることで節税につなげられます。

ただし、ここでポイントとなるのが「開業日よりも前に発生した費用しか、開業費として扱えない」というルールです。開業日以降に発生した支出は、通常の必要経費として処理されます。つまり、開業日を早く設定しすぎると、準備段階の支出が開業費として認められなくなる可能性があるのです。

このため、開業日にあわせて事前に支出の内容と時期を整理しておくことが重要です。初期投資が大きい場合は、ある程度の準備を終えてから開業日を設定することで、より多くの支出を開業費として認めてもらいやすくなります。

準備段階で出費が多い個人事業主ほど、「いつ開業日を設定するか」で経費計上のタイミングが変わり、結果として損得が生まれるのです。この点でも、開業日の決定は慎重に行うことをおすすめします。

参考:個人事業主になるタイミングは?開業日の決め方や出さないリスクについて

青色申告の申請期限との兼ね合い

個人事業主が節税を最大限に活かす方法のひとつが「青色申告」です。青色申告を選択すると、最大65万円の特別控除や、赤字の繰り越し家族への給与を経費として計上できるなど、非常に大きな税制優遇を受けることができます。

しかし、この青色申告を利用するには、事前に「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があり、その期限は開業日から2か月以内です。この提出が間に合わないと、その年は白色申告しか選べなくなってしまいます。

そのため、開業日を設定する際には、青色申告を視野に入れているかどうか、申請までに2か月の猶予があるかどうかを事前に確認しておくことが重要です。たとえば、年末近くに開業日を設定すると、年内に申請しなければならず、時間が足りなくなるケースがあります。

また、税務署が混雑する時期(2月〜3月の確定申告シーズン)は、窓口対応や処理が遅れることもあるため、早めの準備が欠かせません。確実に青色申告のメリットを受けたい場合は、開業日を「年の前半」に設定するのが無難かつおすすめです。

freeeやマネーフォワードなどの会計ソフトを活用すれば、申請書類の作成からe-Tax提出までスムーズに行えるため、開業日の設定とあわせて準備を進めるとよいでしょう。

開業日は、単なるスタート日ではなく、税務戦略や経費処理、申告準備すべての基準となる大切な日付です。今回紹介した3つの観点をもとに、個人事業主として損をしない開業日をしっかり見極めましょう。

参考:個人事業主の開業日はどう選ぶ?損しない決め方と申請のポイント

縁起の良い日を開業日にしたいなら?おすすめの吉日カレンダー

縁起の良い日を開業日にしたいなら?おすすめの吉日カレンダー

個人事業主としての一歩を踏み出す開業日には、事務的な意味だけでなく、「縁起」や「運気」を意識する方も少なくありません。ビジネスは一種の勝負ごとでもあり、スタートにふさわしい良い日を選びたいという想いはごく自然なものです。

特に開業届を提出する日や、ホームページの公開日、ショップのオープン日などは、今後の事業運営の象徴的な日として記憶にも残ります。ここでは、暦上の縁起に注目しながら、個人事業主におすすめの開業日選びのポイントと2025年の吉日一覧をご紹介します。

開業日に人気の縁起日一覧

開業日を縁起の良い日にしたいと考える個人事業主にとって、押さえておきたいのが「暦の吉日」です。とくに開業日として選ばれることが多いのは以下の3つです。

一粒万倍日

「一粒の籾(もみ)が万倍に実る稲穂になる」という意味を持つ、一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)。努力や投資が将来大きな実りとなって返ってくる日とされており、新たな事業を始めるには最適な日とされています。

開業日として非常に人気が高く、金運アップにも通じることから、口座開設や法人カードの申込日としても選ばれることが多いです。

天赦日

天赦日(てんしゃにち)は、日本の暦の中でも最上級の吉日とされる日です。「天がすべてを赦す(ゆるす)」日とされ、あらゆる障害が取り払われるとされています。

一年に数回しかない貴重な日で、個人事業主が開業届を出す日、ビジネスの立ち上げ日としては非常におすすめです。迷ったときは、まず天赦日がいつかを調べてみるとよいでしょう。

寅の日

寅の日(とらのひ)は「金運招来日」とされ、特に金銭に関わるスタートに良いとされています。寅は「千里を行って千里を帰る」と言われ、出ていったお金も戻ってくる日とされるため、開業費や初期投資を使う場面に最適です。

金運アップを狙うなら、寅の日に開業届を出したり、大きな取引を始めるのもおすすめです。

六曜で選ぶおすすめの日

日本ではカレンダーに記載されている「六曜(ろくよう)」をもとに縁起を判断する習慣があります。以下では、特に開業日におすすめされる六曜について解説します。

大安(たいあん)

六曜の中でも最も有名なのが「大安」。文字通り「大いに安し」という意味があり、何事にも吉とされる日です。開業日や契約日、引っ越し日として人気があり、個人事業主のスタートにもおすすめです。

ただし、大安は多くの人が選ぶ日でもあるため、提出窓口が混雑することもある点には注意が必要です。

友引(ともびき)

友引は「勝負なしの日」とされ、午前と夕方は吉、正午のみ凶とされています。冠婚葬祭では避けられることもありますが、開業日に関しては無難な日とされています。午後や夕方に提出や契約などを予定しているなら、選択肢として十分おすすめです。

先勝(せんしょう)

「先んずれば勝つ」という意味がある先勝。午前中が吉、午後が凶とされているため、開業届を午前中に提出する予定であれば、事業の勢いを後押しする日として選ばれることもあります。

2025年のおすすめ開業日

ここでは、2025年において縁起の良い日が重なるおすすめの開業日を、月別にご紹介します。一粒万倍日や天赦日が重なる日は特に開業に適しており、競争率も高いため、事前準備を早めに進めることをおすすめします。

月別:1月〜12月の吉日一覧

開業におすすめの吉日(重なる日や人気日)
1月1月1日(天赦日+一粒万倍日)、1月18日(一粒万倍日)、1月30日(大安+寅の日)
2月2月4日(立春+大安)、2月12日(一粒万倍日)、2月25日(天赦日)
3月3月3日(大安+一粒万倍日)、3月27日(天赦日)
4月4月4日(寅の日)、4月10日(大安+一粒万倍日)
5月5月16日(天赦日)、5月27日(寅の日)
6月6月2日(大安+一粒万倍日)、6月30日(夏越の祓+大安)
7月7月1日(一粒万倍日)、7月29日(天赦日+一粒万倍日)※年内最強日候補
8月8月6日(大安)、8月14日(寅の日+大安)
9月9月10日(一粒万倍日)、9月22日(大安+天赦日)
10月10月5日(寅の日)、10月21日(大安)
11月11月8日(一粒万倍日)、11月24日(天赦日)
12月12月3日(大安)、12月26日(大安+一粒万倍日)

※上記は各種暦を参考にした一般的な吉日です。最終的には事業の状況やタイミングも踏まえて検討しましょう。

縁起を担ぐかどうかは人それぞれですが、ビジネスをスタートする上で「良い日」を選ぶことは、モチベーションの向上や関係者へのポジティブな印象にもつながります。とくに店舗開業やサービス開始など、対外的な意味を持つ開業日であれば、吉日の活用は非常に有効です。

参考:会社設立に縁起の良い日や六曜との関係|2025年吉日カレンダー

開業届の提出タイミングと開業日の関係

開業届の提出タイミングと開業日の関係

個人事業主として正式に事業を始めるには、税務署への「開業届」の提出が不可欠です。この書類には「開業日」を記載する欄があり、そこに記入する日付こそが、自身の事業開始の起点となる日です。

しかし、開業届はいつまでに出せばよいのか?過去の出来事を開業日として指定しても問題ないのか?未来の日付を開業日にして計画的に提出できるのか?
この記事では、こうした実務的な疑問に答えながら、個人事業主として損をしない開業日と提出タイミングの考え方を詳しく解説します。

開業届の提出期限は「開業日から1か月以内」

個人事業主として開業する場合、原則として開業日から1か月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を提出する必要があります(所得税法第229条)。提出先は納税地を所轄する税務署です。

この1か月という期間は「義務」ではあるものの、実際には提出が1か月を過ぎたからといって罰則が科されることはありません。ただし、提出が遅れることで生じるデメリットもあるため、注意が必要です。

たとえば、青色申告承認申請書を同時に提出する予定がある場合は、開業日から2か月以内の提出が必要です。つまり、開業届が遅れると、それに伴って青色申告の申請期限も逃してしまい、白色申告しか選べなくなる可能性があります。

さらに、屋号付き口座の開設や事業融資の申請、各種補助金の申請などで「開業届の控え」が必要になるケースも多く、早めの提出は実務面でも非常に重要です。

おすすめは、開業日を決めたら遅くとも2週間以内には開業届の準備を始めること。e-Taxやfreee開業などのオンラインサービスを活用すれば、郵送や窓口に行かずに済むため、スムーズな対応が可能です。

過去の日付を開業日にできる?

結論から言えば、開業届に記載する「開業日」は、ある程度過去の日付に遡ることが可能です。実際、多くの個人事業主が、事業開始から数週間、あるいは数か月後に開業届を提出しており、その際に遡って開業日を指定しています。

たとえば、「最初に請求書を発行した日」「最初の取引が成立した日」「初期投資を行った日」などを開業日とするのが一般的です。開業準備の支出が多かった場合には、それらを「開業費」として経費に計上することもできるため、税務上もメリットがあります

ただし、あまりに長期間を遡ると、税務署側から内容の確認を求められることがあります。目安としては3か月程度までが実務上スムーズとされており、それ以上遡る場合は、支出内容や業務履歴の記録を明確にしておくことが大切です。

また、開業日を過去にすることで、個人事業税の「事業主控除」が少なくなってしまうこともあるため注意が必要です。事業主控除は月割りで計算されるため、たとえば1月開業よりも4月開業の方が、納税額が少なくなる場合もあります。

このように、「過去の日付」を開業日として選ぶ場合は、経費処理や控除、青色申告の申請期限といった税務面とのバランスを見ながら決めることがポイントです。

未来の日付の指定はできる?

一方で、「未来の日付を開業日にしたい」というケースもあります。たとえば、準備中の店舗のオープン日を開業日にしたい場合や、縁起の良い日にあわせて開業届を出したい場合などが考えられます。

しかし、原則として「開業届は、すでに事業を開始している(=実体のある)状態で提出するもの」です。そのため、事業を実際に始めていない段階で、未来の日付を開業日として開業届を出すことは避けるべきとされています。

例えば、全く業務を行っていない状態で「1か月後の天赦日を開業日として今すぐ提出」するのは本来の趣旨から外れており、税務署によっては受理されない可能性もあります。

ではどうするか?実務上のおすすめの方法は、事業の準備が整い、ある程度活動実態があるタイミングで開業日を設定し、その日以降すぐに開業届を提出するというものです。

たとえば、「●月●日に最初の取引が発生する予定」「この日からホームページが公開されて顧客対応を開始する」といった明確な根拠がある場合には、その日を開業日とし、届出を事前に準備しておくことは可能です。

また、freee開業などのツールを活用すれば、未来の日付で書類を作成しておき、開業日当日やその直後に提出することもできるため、縁起の良い日と実務を両立させることができます

開業届と開業日は密接に結びついており、その提出タイミングを間違えると、青色申告の適用を逃したり、控除が減ったり、経費計上で不利になったりする可能性があります。個人事業主として賢くスタートを切るには、「開業日」「届出日」「準備の完了日」それぞれを意識しながらスケジュールを立てることが重要です。

参考:開業届を提出するタイミングは? 期限や提出するメリットも解説

開業日を決める際の注意点

開業日を決める際の注意点

個人事業主としてのスタートを切る際に、「開業日は縁起の良い日にしたい」「年度内に間に合わせたい」といった希望を持つ方は多くいます。しかし、開業日は見た目や気持ちの問題だけでなく、税務や社会保障、行政手続きなどにも直接影響するため、慎重に決める必要があります。

とくに「いつ開業届を出すか」「開業日を何日に設定するか」は、個人事業主にとって大きな損得の分かれ目となることもあります。この章では、開業日を決める際に注意しておくべき3つの重要なポイントを詳しく解説します。

個人事業税の事業主控除は月割になる

個人事業税は、地方税として都道府県に納める税金で、一定の事業所得を得た個人事業主が対象になります。ここでポイントになるのが、事業主控除(年額290万円)が月割で計算されるという点です。

たとえば、1月に開業すれば12ヶ月分すべてが控除対象となり、290万円の全額控除が受けられます。しかし、7月に開業した場合は6ヶ月分=145万円の控除しか受けられません。これにより、課税所得が増加し、納税額が多くなる可能性があるのです。

つまり、同じ年間収入でも「開業日が早ければ早いほど税負担を抑えられる」仕組みになっているのが、個人事業税の特徴です。

なお、個人事業税の対象となるのは、事業所得が290万円を超えた場合(※都道府県によって細かい基準が異なることもあり)です。特に年の後半に開業を検討している方や、初年度から比較的高い利益が見込まれる方は、開業日を早めることで税負担を軽減できる可能性があります

したがって、節税の観点からも、開業日を設定する際は個人事業税の仕組みを理解し、なるべく月初・年初に近い日を選ぶことが「おすすめ」です。

参考:開業日はいつにすべきか個人事業税事業主控除の月割りに注意

失業手当・再就職手当の支給に影響する

失業手当・再就職手当の支給に影響する

退職後に個人事業主として独立を目指す方が注意すべきなのが、雇用保険(失業給付)との関係です。開業日をどこに設定するかによって、失業手当や再就職手当の受給資格が消滅してしまうリスクがあるため、慎重に判断しましょう。

基本的に、失業手当は「求職活動をしている=就職の意思がある人」に対して支給されるものであり、開業日を設定した時点で「就労した」と見なされ、給付が打ち切られる可能性が高いです。

また、再就職手当は「自己都合退職後に早期に再就職した人」へ支給される制度で、開業もその対象に含まれますが、要件として「ハローワークの紹介以外による就職で、かつ一定の期間内に開始した場合」などの条件があります。開業届を出すタイミングを誤ると、手当の申請が通らないことも。

このような制度上の制約があるため、ハローワークと連携しながら、開業届の提出日=開業日を慎重に選ぶ必要があります。場合によっては、「開業届は事業を開始してから提出する」という柔軟な解釈を活用して、開業日を調整することも有効です。

特に支給額が大きくなる可能性のある再就職手当を希望する場合は、ハローワークに事前相談のうえ、開業日を決めるのがおすすめです。

健康保険や扶養から外れるタイミングに注意

開業日が社会保険や扶養の取り扱いに影響を与えることも、個人事業主として押さえておきたい注意点です。会社員時代に配偶者の扶養に入っていた場合、個人事業主としての活動を開始した日=開業日を境に、扶養から外れるケースがあります。

とくに以下のような条件に該当する場合には、扶養の認定が取り消される可能性が高いです。

  • 開業届を提出した(=自営業者としての独立意思を示した)
  • 継続的に収入を得る事業を開始した
  • 年間収入見込みが130万円を超える

これにより、配偶者の健康保険から国民健康保険へと切り替える必要が出てくることがあります。また、所得の変化により住民税や国民年金の負担も増える可能性があるため、資金計画にも注意が必要です。

特に開業日を年の後半に設定すると、月割計算での保険料負担が急増することもあるため、保険料や扶養条件のシミュレーションを行った上で開業日を決めるのが望ましいです。

なお、扶養に入っている状態で副業的に事業を始める場合、開業届を出すかどうかで状況が大きく変わります。たとえ収入が少額でも、開業届の提出=独立と見なされるリスクがあるため、扶養を維持したい場合は開業届の提出タイミングや開業日の設定に注意しましょう

個人事業主としての開業日は、ただのスタート日ではなく、税金・給付金・保険制度といった社会的な制度と密接に関わる重要な日です。単に縁起の良い日や、都合の良い日を選ぶだけでなく、自身の状況に応じて慎重に設定することが、長期的に見て損をしないためのカギとなります。

よくある質問

よくある質問

Q. 開業日前の支出は経費にできますか?

はい、開業日前に発生した支出でも、「開業準備のために必要だった」と合理的に説明できるものは「開業費」として経費に計上できます。たとえば、事務所の内装費、パソコンや什器の購入、名刺やホームページ制作費などが該当します。

ただし、開業費として認められるのは「開業日よりも前に発生した支出」に限られるため、開業日をいつに設定するかによって、経費として扱える範囲が変わります。あまり早く開業日を設定してしまうと、それ以前の支出が対象外になってしまうリスクがあるため、支出のタイミングを確認しながら、開業日を慎重に選ぶことをおすすめします。

Q. 縁起が良くても週末や祝日でも大丈夫?

はい、開業日として週末や祝日を設定することに問題はありません。開業日はあくまで「事業を開始した日」であり、税務署が開いているかどうかは関係ないため、土日祝でも自由に指定できます。

ただし、開業届を税務署に提出するのは平日しか対応していないため、週末や祝日を開業日に設定する場合は、事前に書類を準備し、翌営業日に提出するなどの対応が必要です。

縁起の良い日がたまたま日曜日や祝日であっても、そこを開業日として選ぶことは可能ですので、天赦日や一粒万倍日などの吉日を重視する方にも安心です

Q. 開業日をあとから変更できますか?

基本的に、一度提出した開業届の開業日を変更する制度は明確には設けられていません。しかし、実務上は「開業届を取り下げて再提出する」ことで、開業日の変更が可能です。

たとえば、誤って未来の日付を記載してしまった場合や、青色申告の期限に間に合わないことが判明した場合などに、再提出で修正するケースも見受けられます

ただし、再提出によって青色申告の承認申請期限が変わることもあるため、慎重にタイミングを見て行う必要があります。提出後に変更を希望する場合は、税務署や税理士に相談するのが安全です。

Q. プレオープンの売上は開業前扱い?

プレオープン期間中に発生した売上は、基本的には開業後の事業活動として扱うのが一般的です。そのため、開業日をプレオープン初日とするのが自然な流れになります。

仮に開業日をプレオープン前に設定していれば、もちろん売上は開業後の「事業所得」として計上します。一方で、開業日よりも前に売上が発生していると、税務署から説明を求められる可能性があります。そのため、プレオープンを予定している場合は、その開始日を開業日として設定するのがおすすめです

また、プレオープン前の支出(販促費や什器購入費など)は「開業費」として計上できる場合があるため、開業日との整合性を意識した帳簿付けが重要です

参考:開業届を提出するベストタイミングはいつ?ケース別に判断基準を紹介

自分にとってベストな開業日を選ぼう

自分にとってベストな開業日を選ぼう

個人事業主として開業する際の「開業日」は、単なるスタート日ではなく、税金・保険・経費・手当など多くの制度に関わる非常に重要な日です。縁起の良い日を選ぶこともモチベーションアップにつながりますが、節税や申請期限、社会保険制度との兼ね合いも含めて慎重に検討する必要があります。

ポイントは、「いつから収入があるか」「どのタイミングで支出が発生したか」「失業給付や扶養などの制度に影響が出るか」などを踏まえたうえで、実務と制度のバランスを取った日を開業日として選ぶことです。

縁起と実務、どちらも大切にしながら、あなた自身にとってベストな開業日を見つけて、スムーズで後悔のない事業スタートを切りましょう。