12月開業した個人事業主の確定申告は?ポイントと注意点を解説

12月に開業した個人事業主でも、翌年の確定申告は原則必要です。「1か月だけの売上でも申告が必要?」「経費はどう計上すればいい?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。短期間の事業でも適切に申告することで、青色申告の特典や各種控除を活用できる可能性があります。本記事では、12月開業の場合の確定申告のポイントや注意点を、初めての方にもわかりやすく解説します。

12月開業でも確定申告は必要?

12月開業でも確定申告は必要?

個人事業主として12月に開業した場合でも、原則として確定申告は必要です。「12月だけしか事業をしていないのに?」と疑問を感じる方も多いですが、たとえ1か月でも開業し、売上や経費が発生していれば、それはれっきとした事業活動です。したがって、他の月に開業した個人事業主と同様に、所得税の確定申告を行う義務が生じます

特に12月開業は、確定申告の準備期間が短く、見落としやすいポイントがいくつかあります。本記事では、確定申告が必要な条件や、12月開業特有の注意点について解説していきます。

確定申告が必要となる条件

まず、個人事業主に確定申告が必要となる基本条件をおさらいしておきましょう。

所得税の確定申告は、以下のいずれかに該当する場合に必要です。

  • 年間の事業所得が48万円を超える場合
  • 青色申告をする場合(所得額に関係なく提出が必要)
  • 他の所得と合算して税金が発生する場合

12月開業の個人事業主であっても、事業所得(売上−経費)が48万円を超える場合は、必ず確定申告が必要です。逆にいえば、所得が48万円以下で、なおかつ白色申告を選ぶ場合には、申告義務は発生しません。

ただし、所得が少ない場合でも確定申告をしておくべき理由があります。

所得が少なくても提出すべきケース

12月開業で「売上も少ないし、確定申告はいらないかな」と判断するのは危険です。所得が48万円以下でも、以下のような確定申告をすべきケースがあります。

青色申告を希望する場合

12月に開業し、翌年以降に青色申告特別控除(最大65万円)を受けたいなら、開業初年度であっても「青色申告承認申請書」を提出しておく必要があります。この申請書の提出期限は原則、開業から2か月以内です。12月開業の場合、申請期限が翌年の2月頭になるため、うっかり忘れないよう注意が必要です。

還付申告をしたい場合

所得税の還付を受けたい場合も、たとえ所得が少なくても確定申告を行う必要があります。たとえば、開業にあたり初期費用(パソコンや備品など)を支出して赤字となった場合、その損失は「純損失」として翌年以降に繰り越せます(青色申告をしている場合)。これにより、翌年以降の所得と相殺でき、節税につながります。

国民健康保険料や住民税の算定基準として

確定申告をしていないと、前年所得が不明なまま「推定課税」されるケースがあります。これにより、住民税や国民健康保険料が不当に高くなるリスクがあります。所得が少ないからこそ、申告をして「所得が少なかったこと」を証明しておくことが重要なのです。

開業初年度は特に注意が必要

12月に開業した場合、実質的な事業活動はわずか1か月となります。そのため、開業届や青色申告承認申請書の提出期限、帳簿の準備、必要書類の収集といった手続きを短期間で行わなければなりません。

また、12月中の売上が翌年1月に入金されるケースも多く、売上や経費の計上時期に関する正確な理解が必要です。例えば、12月に納品した業務の報酬が翌年1月に振り込まれた場合でも、売上としては12月分に計上する必要があります。これは「実現主義」と呼ばれる会計原則に基づいており、年をまたぐ処理を間違えると、申告ミスとして税務署から指摘を受ける可能性もあります。

さらに、開業初年度は経費が先行して赤字になるケースが多く、その場合でも帳簿を正しくつけ、領収書を保管しておくことが重要です。青色申告を選ぶ場合は、複式簿記や決算書の作成が必要になり、記帳ソフトの導入や専門家のサポートも検討すべきでしょう。

参考:12月開業の個人事業主の確定申告は?注意点もあわせて解説

開業届と青色申告承認申請書の提出タイミング

開業届と青色申告承認申請書の提出タイミング

個人事業主として12月に開業した場合、まず押さえておくべきなのが「開業届」と「青色申告承認申請書」の提出タイミングです。確定申告を有利に進めるうえで、この2つの提出時期を把握しておくことは非常に重要です。特に12月開業は年末ギリギリになるため、申請の猶予が短く、見落としが発生しやすいタイミングでもあります。

ここでは、「開業届」「青色申告承認申請書」それぞれの提出期限と注意点、12月開業時の特有の扱いについて詳しく解説します。

開業届はいつまでに提出すべき?

個人事業主が事業を始めた際には、「個人事業の開業・廃業等届出書」(いわゆる開業届)を税務署へ提出する必要があります。これは、税務署に「事業を開始しました」と正式に知らせるための書類で、確定申告の前提ともなる手続きです。

開業届の提出期限は「開業から1か月以内」

原則として、開業届は事業を開始した日から1か月以内に提出する必要があります。つまり、12月1日に開業した場合は、翌年の1月1日までに提出が必要となります。万が一この期限を過ぎたとしても、罰則などはありませんが、青色申告の申請や社会的信用の面で不利益を被る可能性があります

たとえば、青色申告承認申請書を提出するには、原則として「開業届が出されていること」が前提です。また、融資の申請や屋号入りの口座開設などにおいても、開業届の控えが必要になるケースがあるため、早めの提出が安心です。

提出方法は3つ

  • 税務署へ直接持参
  • 郵送(控え返送用封筒を同封)
  • e-Taxを使ってオンライン提出

最近ではfreeeやマネーフォワードといった開業支援サービスを利用して、スマホやPCから簡単に開業届を作成・提出することも可能です。12月の忙しい時期だからこそ、こうしたサービスを活用して効率的に手続きするのがおすすめです。

参考:開業届を出してから2ヵ月過ぎたけど青色申告できる?例外も解説

青色申告承認申請書の提出期限と注意点

青色申告承認申請書の提出期限と注意点

個人事業主として青色申告を行いたい場合には、「青色申告承認申請書」を別途税務署に提出する必要があります。この申請を行わなければ、自動的に白色申告となり、青色申告の数々の特典(最大65万円控除や赤字の繰越など)を受けることができません。

提出期限は「開業日から2か月以内」

青色申告承認申請書の提出期限は、開業日から2か月以内です。たとえば12月15日に開業した場合は、翌年の2月14日までに提出する必要があります。この期限を過ぎてしまうと、その年は青色申告ができず、翌年からの適用になります。

注意点:開業届と同時に出すのが理想

開業届と青色申告承認申請書は同時に提出するのが最もスムーズで確実です。提出先はどちらも所轄の税務署であり、書類の内容も連動しているため、まとめて処理することで記載ミスや記入漏れを防ぎやすくなります。

また、開業届を出さずに青色申告承認申請書だけ提出しても、申請が受理されない可能性があるため、必ず開業届を先に、もしくは同時に提出するようにしましょう。

12月開業だと青色申告は翌年から?

結論から言えば、12月開業でも期限内に申請すれば当年分から青色申告が可能です。たとえば、2024年12月10日に開業し、2025年2月9日までに青色申告承認申請書を提出した場合、2024年分の確定申告を青色申告で行えます

しかし、ここで問題になるのが、「開業から確定申告までの準備期間の短さ」です。12月開業の場合、記帳の期間が短く、開業準備や年末処理が重なるため、記帳ルールを把握していないと青色申告の条件(複式簿記での帳簿付けなど)を満たせない可能性があります。

青色申告をあきらめる前に

「まだ何も記帳してないから青色は無理」と思わず、確定申告ソフトや記帳代行サービスを活用することで、年末開業でも青色申告は十分に可能です。開業直後からfreeeや弥生などの会計ソフトを導入しておけば、日々の取引を自動で仕訳・帳簿化してくれるため、短期間でも正確な帳簿を作成できます。

さらに、青色申告は翌年以降にも大きな節税効果をもたらすため、「今年は白色でいいや」と判断するのはもったいないことも。長期的な視点で青色申告の活用を検討することが大切です。

12月に開業した個人事業主は、開業届や青色申告承認申請書の提出タイミングをしっかり把握し、早めに準備を進めましょう。短期間であっても、適切な手続きを行うことで、節税メリットや信用力の向上といった大きな効果を得られる可能性があります。

参考:青色申告の申請はいつまで?申請方法や期限、メリットを解説

売上・経費の計上タイミングと年末処理

売上・経費の計上タイミングと年末処理

個人事業主として12月に開業した場合、確定申告において注意すべきポイントの一つが「売上と経費の計上タイミング」です。特に、年末をまたぐ形で報酬の支払いや経費の発生があった場合、その扱いを誤ると所得の計算ミスや税務署からの指摘を受ける可能性があります。

売上や経費の記帳・申告にあたっては、個人事業主は原則として「発生主義」や「実現主義」といったルールに従う必要があります。本章では、12月開業の個人事業主が年末に注意すべき売上・経費の処理方法と、源泉徴収の記載上の注意点について詳しく解説します。

12月の売上が翌年1月に入金された場合の扱い

「12月に仕事を完了したけど、報酬の振込が翌年1月になった」というケースは非常に多くの個人事業主にとって身近な問題です。このようなケースでは、入金日ではなく“売上の計上日”が重要になります

売上は「請求書の日付」や「業務完了日」で判断する

個人事業主の確定申告においては、現金主義ではなく実現主義(発生主義)が原則です。これは、「実際にお金を受け取った日」ではなく、「売上が発生した日」を基準に計上するという考え方です。

たとえば、

  • 12月25日に納品
  • 12月26日に請求書発行
  • 1月10日に振込

という流れであれば、この売上は“12月分”として処理しなければなりません。
確定申告では、対象期間が1月1日〜12月31日までとなるため、たとえ入金が翌年になっていても、事業活動が完了していれば前年度の収入とする必要があります。

参考:確定申告で12月の報酬が1月支払いの時、フリーランスの対応は?

売上の証拠となる資料の保管が重要

売上の証拠となる資料の保管が重要

申告時にトラブルを避けるためにも、納品書・請求書・契約書・業務日報など、売上が発生したことを証明できる書類をしっかり保管しておきましょう。freee会計やマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを使えば、請求書の発行から記帳まで自動連携が可能なので、年末の記帳作業がぐっと楽になります。

経費の発生日と支払日がまたがる場合の処理方法

経費についても、売上と同様に「支払日」ではなく「経費が発生した日」で計上するのが基本です。たとえば12月に注文・納品され、実際の支払いが1月になった場合でも、その経費は12月分として計上します

例:ソフトウェア購入費用やリース料など

12月中に

  • ソフトウェアを導入した
  • 事業用のパソコンを購入した
  • リース契約を結んだ

こうした支出は、使用開始日や納品日が基準になります。支払いが翌年であっても、契約書や請求書の内容によっては、前年度の必要経費として処理可能です。

領収書・納品書の確認を忘れずに

計上の根拠となるのは、

  • 領収書
  • 請求書
  • 契約書
  • 発注書 

などです。これらを確認し、記載された日付がいつかを判断基準としましょう。

未払金・未払費用での処理

支払いが翌年になるものは「未払金」または「未払費用」として記帳し、対応する支払いがあった際に帳簿上で相殺します。青色申告で複式簿記を採用している個人事業主は、こうした仕訳を正しく行う必要があります。

源泉徴収の取り扱いと記載の注意点

個人事業主が取引先から報酬を受け取る際、源泉徴収されるケースがあります。たとえば原稿料や講演料、デザイン業務などに対しては、報酬からあらかじめ税金(所得税)が差し引かれて振り込まれることがあります。

源泉徴収された報酬も「総額」で売上に計上

確定申告においては、源泉徴収後の「手取り額」ではなく、源泉徴収される前の「支払金額(総額)」を売上として計上する必要があります

たとえば、

  • 報酬:100,000円
  • 源泉徴収税:10,210円(10.21%)
  • 実際の振込額:89,790円

という場合は、売上として100,000円を計上し、源泉徴収税10,210円を「所得税預かり金」として帳簿に記載します。

年末に受け取った源泉徴収票は確定申告に必須

12月に開業し、12月中に報酬を受け取って源泉徴収された場合、その内容を証明する「支払調書」や「源泉徴収票」が必要になります。これらの書類を添付または入力しないと、源泉徴収された税額が還付されない可能性があります。

取引先に発行を依頼し、忘れずに保管しておきましょう。

参考:12月から個人事業主として開業した場合の確定申告について

確定申告の種類と必要書類

確定申告の種類と必要書類

個人事業主として事業を始めた場合、毎年必要になるのが確定申告です。特に12月開業となると、申告までの準備期間が短いため、「申告の種類はどれを選ぶべきか?」「必要書類は何をそろえればいいのか?」と戸惑う方も少なくありません。

個人事業主の確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類があり、それぞれに申請条件や提出書類が異なります。ここでは、両者の違いや、開業初年度の青色申告の可否、確定申告に必要な書類の一覧まで、初めての方でも分かりやすく解説します。

青色申告と白色申告の違い

個人事業主が行う確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類があり、それぞれの大きな違いは控除の有無と記帳の方法にあります。

青色申告の特徴

青色申告は、「青色申告承認申請書」を税務署に提出した人のみが選べる制度で、以下のようなメリットがあります。

  • 最大65万円の青色申告特別控除(複式簿記で帳簿を作成し、期限内に申告した場合)
  • 赤字の繰越控除(最大3年間)が可能
  • 専従者給与(家族に支払った給与)を必要経費にできる
  • 減価償却資産の30万円未満一括経費計上 など

その一方で、複式簿記による帳簿の作成や、青色申告決算書の提出など、手間がかかる点もあります。

白色申告の特徴

白色申告は、青色申告を選ばなかった個人事業主が行う申告方法です。以前は記帳の義務がなかったものの、現在では白色申告でも記帳と帳簿の保存義務があります

控除はないものの、簡易な帳簿で済むため、「売上が少ない」「経費がほとんどない」という事業主には手間が少ない方法です。

開業1年目でも青色申告を選べる?

結論から言えば、開業1年目でも条件を満たせば青色申告は可能です。

ただし、青色申告を行うには、「青色申告承認申請書」を事前に税務署へ提出しておく必要があります。

提出期限に要注意

開業1年目の場合、青色申告承認申請書の提出期限は「開業日から2ヶ月以内」となります。

たとえば12月15日に開業した場合は、翌年の2月14日までに申請書を提出すれば、その年(開業年)から青色申告が可能です。

しかし、開業届を出すのが遅れて2か月以上経ってしまった場合、その年の青色申告は適用されず、翌年からの適用になります。

記帳・帳簿作成の準備も忘れずに

青色申告は、提出さえすれば自動的に適用されるわけではなく、条件を満たした帳簿づけと申告書類の作成が必要です。

  • 複式簿記による記帳(最大65万円控除の場合)
  • 総勘定元帳・仕訳帳などの作成
  • 青色申告決算書の作成と添付

記帳が不安な方は、freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを活用することで、初心者でも青色申告に対応した帳簿を簡単に作成できます。

参考:【個人事業主・フリーランス向け】年の途中で開業した場合の確定申告を税理士に依頼する場合に準備する資料14選

確定申告に必要な書類一覧

確定申告に必要な書類一覧

確定申告を行う際、個人事業主が準備すべき書類は申告方法(青色 or 白色)や所得状況によって若干異なりますが、基本的には以下のような書類が必要になります。

基本の書類

  • 確定申告書B(所得税の申告に使用)
  • 収支内訳書(白色申告の場合)
  • 青色申告決算書(青色申告の場合)
  • 開業届の控え(確認用)
  • 本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)

収入に関する資料

  • 請求書の控え
  • 報酬の入金明細
  • 源泉徴収票・支払調書(報酬を受け取った際に源泉徴収された場合)

経費に関する資料

  • 領収書
  • レシート
  • 契約書・納品書
  • 家事按分計算書(自宅兼事務所などの場合)

控除関係の書類

  • 国民健康保険料の支払証明書
  • 国民年金保険料の控除証明書
  • 生命保険・地震保険料の控除証明書
  • 医療費の領収書(医療費控除を受ける場合)
  • ふるさと納税の受領証明書またはワンストップ特例通知書

これらの書類は、原本を保管しておくことが基本です。電子申告(e-Tax)を利用する場合でも、内容の確認や税務調査の際に必要となるため、最低でも7年間の保管義務があることを覚えておきましょう。

12月開業ならではの注意点

個人事業主として12月に開業すると、事業開始から確定申告までの期間が非常に短くなるため、通常とは異なる注意点がいくつか存在します。特に、所得税・住民税・個人事業税の取り扱いや控除の月割りルールなど、知らないと損をする内容も多くあります。

また、12月は年末調整や経費処理などが集中する時期でもあるため、税務の準備が後回しになりがちです。そこでこの章では、12月開業の個人事業主が見落としがちな税金のポイントや、開業初年度でもできる節税対策について詳しく解説します。

所得税・住民税・事業税の注意点

12月開業の場合でも、1日でも事業を行えば、確定申告での所得税計算は必要です。仮に12月の1か月間しか事業をしていなくても、年間所得として申告が求められます。

所得税の取り扱い

所得税は、1月1日から12月31日までの所得に対して課税されます。12月に開業した個人事業主は、事業所得がその年の所得税計算に含まれます。短期間とはいえ、売上があれば課税対象になるため、経費や控除の正しい計上が重要です。

住民税の特徴に注意

住民税は、前年の所得に基づいて翌年6月から課税されます。つまり、12月開業で少しでも所得が発生していれば、翌年から住民税の納税義務が発生する可能性があります

ただし、所得が少ない場合や経費などで赤字となる場合は、住民税の申告を行うことで課税が免除・軽減されることもあります。住民税についても、確定申告を通じて正しく所得を報告することが重要です。

事業税の対象になるか?

個人事業税は、年間の事業所得が290万円を超えた場合に課税されます。12月開業で事業収入が少ない場合、多くのケースでは初年度の事業税は発生しません。

しかし、所得の計算方法を誤ると、本来不要な税金まで課税されてしまうこともあるため、正しい損益計算書の作成と申告が不可欠です。

個人事業税の月割り控除に関する注意

個人事業税の月割り控除に関する注意

個人事業税の計算には「事業主控除」という制度があり、年間290万円までの所得には課税されない仕組みになっています。ただし、12月開業のように1年未満の事業期間で開業した場合、この事業主控除が月割り計算になる点に注意が必要です。

控除額が1か月分になる

事業主控除は本来290万円ですが、これを12か月で割ったうえで、開業からの月数分しか適用されません。12月に開業した場合は、控除額は290万円÷12=約24万1,667円。つまり、1か月分しか控除が適用されないため、たとえ年間の所得が290万円以下でも、24万円を超えると課税対象になることがあります。

青色申告との併用で節税を

この控除の月割り制限をカバーするには、青色申告による赤字の繰越や経費計上の工夫が有効です。特に開業初年度は経費がかさみやすいため、正しく帳簿をつけることで、実際の利益を圧縮し、結果として個人事業税の課税を回避または軽減できるケースもあります。

参考:青色申告の期限はいつまで?青色申告承認申請書の提出期限も解説

節税のためにできる準備

12月開業は、期間の短さから「今さら準備しても遅い」と思われがちですが、むしろ限られた期間だからこそ効果的な節税対策がいくつか存在します

経費を漏れなく計上する

まず大切なのは、経費をもれなく把握・記帳することです。開業準備にかかった費用(名刺作成、パソコン購入、打ち合わせの交通費など)は「開業費」や「消耗品費」「通信費」などとして経費に計上できます。

経費が適切に計上されていれば、所得を抑えることができ、結果として所得税や住民税の節税につながります。

開業前の支出も「開業費」として計上可能

12月開業であっても、開業前にかかった準備費用(たとえば11月に購入した機材やソフトウェアなど)は、無形の「繰延資産(開業費)」として経費にすることができます。これを忘れずに申告することで、節税効果が高まります。

控除制度を最大限活用する

節税には各種控除制度の活用も不可欠です。以下のような控除は、個人事業主でも利用できます。

  • 基礎控除(48万円)
  • 青色申告特別控除(最大65万円)
  • 社会保険料控除(国民年金・健康保険)
  • 生命保険料控除
  • 医療費控除
  • 小規模企業共済等掛金控除

控除証明書や領収書を確実に保管しておき、e-Taxや会計ソフトを使って自動反映することで申告漏れを防ぐことができます。

よくある質問

よくある質問

Q. 所得が少ないけど申告しないとどうなる?

個人事業主として12月に開業した場合、「まだ収入が少ないから確定申告は不要では?」と思うかもしれません。しかし、たとえ所得が少なくても確定申告が必要になるケースがあります

たとえば、青色申告を希望する場合や、赤字を繰り越して翌年の節税に活かしたい場合には、確定申告の提出が必須です。さらに、住民税や国民健康保険料は前年の所得に基づいて決まるため、申告を行わないと「推定課税」されて本来よりも高い金額を請求されるリスクもあります。

また、所得が少なくても還付申告(源泉徴収税の還付など)ができるケースもあるため、確定申告をすることで損を防げる可能性があります。

Q. 開業届を出し忘れたら?

開業届は、個人事業主として事業を始めたことを税務署に報告するための重要な書類です。本来は、開業から1か月以内に提出することが推奨されていますが、提出が遅れたからといって罰則があるわけではありません

ただし、青色申告を希望する場合には注意が必要です。青色申告承認申請書の提出には、開業届の提出が前提となっているため、開業届を出していない状態では青色申告が認められないことがあります。

万が一出し忘れていた場合は、速やかに開業届を提出し、そのうえで青色申告承認申請書を所定の期限内に提出することで、翌年から青色申告が可能になります。

参考:開業届を出すタイミングはいつ?個人事業主必見!開業日の決め方やメリット解説

Q. 売上が翌年計上になってしまったらどうする?

12月に開業した個人事業主の間で多いミスの一つが、売上を「入金日」で記帳してしまうことです。たとえば、12月中に納品・請求した業務の報酬が翌年1月に入金された場合、これは「12月分の売上」として計上する必要があります。

確定申告における収入の認識基準は「現金主義」ではなく、「実現主義」が原則です。つまり、業務の完了日・請求日を基準として収入を計上する必要があります。入金ベースで記帳すると、売上の計上年度がズレてしまい、申告内容に誤りが生じます。

もし誤って翌年に売上を計上してしまった場合は、税務署に訂正申告(修正申告)を提出することで対応可能です。ただし、繰り返すと信頼性に影響するため、帳簿づけの時点で適切な会計処理を意識することが大切です。

12月開業でも早めの準備が安心

12月開業でも早めの準備が安心

12月に開業した個人事業主は、事業開始から確定申告までの期間が非常に短いため、提出期限や帳簿づけ、必要書類の準備などをスピーディーかつ正確に対応することが求められます

「12月だけの収入だから申告しなくていい」と思い込まず、売上の計上タイミングや青色申告の要件、各種控除の活用などをしっかり押さえておくことが重要です。また、少ない期間でも正しい経費計上や控除を行うことで、開業初年度から節税効果を最大化することも可能です。

特に青色申告を活用する場合は、提出期限の管理や複式簿記での記帳といったハードルがありますが、クラウド会計ソフトの活用や専門家への相談により、効率よく対応できます。

12月開業でも焦らずに、早めの準備と情報収集で、初めての確定申告を安心して迎えましょう。