個人事業主は社会保険に加入できない?加入できる保険や加入方法を解説

個人事業主として働く場合、「会社員のように社会保険には入れないの?」と疑問に思う方も多いでしょう。実際には、厚生年金や健康保険などの「社会保険」は原則として会社員や法人の役員が対象であり、個人事業主は加入できないケースが一般的です。ただし、その代わりに国民健康保険や国民年金といった制度に加入する必要があります。本記事では、個人事業主が加入できる保険の種類や加入方法についてわかりやすく解説します。

個人事業主は社会保険に加入できない?

個人事業主は社会保険に加入できない?

個人事業主として独立すると、社会保険の扱いが大きく変わります。会社員時代には自動的に加入していた社会保険制度も、個人事業主になった途端に対象外になる場合が多く、知らずに放置してしまうと将来的な保障に大きな差が出てしまいます。本章では、個人事業主と社会保険の関係性、特に会社員との違いや、加入できない社会保険の種類について詳しく解説します。

会社員との大きな違いとは

まず押さえておくべきは、会社員と個人事業主では加入できる社会保険の仕組みがまったく異なるという点です。

会社員の場合、健康保険や厚生年金保険、雇用保険、労災保険といった「社会保険のフルセット」に企業が自動的に加入手続きを行い、保険料の半分を負担してくれます。つまり、給与から天引きされる保険料には、会社が支払っている分も含まれているのです。

一方、個人事業主には雇用主が存在しないため、これらの社会保険に「原則として加入できない」という制約があります。特に「厚生年金」や「協会けんぽ」など、会社員の生活を支える保険制度は、個人事業主本人には適用されません。

代わりに、国民年金や国民健康保険といった自営業者向けの制度に個人で加入する必要があります。保険料も全額自己負担となり、保障内容も会社員と比べて手薄になる傾向にあります。

また、会社員であれば「扶養控除」や「傷病手当金」などの各種制度も利用できますが、個人事業主の場合、そうした制度の対象外となるケースが多い点も注意が必要です。

つまり、個人事業主は保険制度の選択から支払い、保障内容の管理までをすべて自己責任で行う必要があるのです。

加入できない社会保険の種類(厚生年金・雇用保険・労災保険)

個人事業主が原則として加入できない社会保険には、以下の3つがあります。

1. 厚生年金保険

厚生年金は、会社などの法人に勤める被用者を対象とした年金制度です。個人事業主は基本的に対象外となり、代わりに国民年金(基礎年金)に加入することになります。
厚生年金は保険料が高い代わりに、将来の年金受給額が大きく、障害年金や遺族年金の支給額も充実しています。そのため、老後資金を十分に準備するには、個人事業主にとっては別途「iDeCo」や「国民年金基金」などの活用が重要になります。

2. 雇用保険

雇用保険は、失業時の生活を保障する制度ですが、雇われる立場(労働者)でなければ加入できません。つまり、事業主本人は対象外です。
このため、個人事業主が廃業しても、失業保険(基本手当)を受け取ることはできません。ただし、従業員を雇用していれば、従業員には雇用保険を適用する義務が生じます。

3. 労災保険

労災保険も原則として、労働者を保護する制度であり、個人事業主本人は対象外です。事業中のケガや事故についても、公的な労災補償は受けられません。

ただし、「特別加入制度」を活用すれば、個人事業主でも労災保険に加入できるケースがあります。建設業や運送業など、危険を伴う業種で個人事業主として働いている場合、事業者団体などを通じて申請することで、特別加入が認められることがあります。

参考:個人事業主が加入できる社会保険は?条件や従業員を雇う場合も解説

個人事業主が加入できる公的保険とは?

個人事業主が加入できる公的保険とは?

個人事業主は厚生年金や健康保険(協会けんぽ)、雇用保険などの社会保険に原則として加入できませんが、代わりに自営業者向けの公的保険制度に加入する義務があります。これらは、国が運営する制度であり、加入することで最低限の医療保障や老後の年金、介護保障などを確保できます。

本章では、個人事業主が加入できる公的保険について、それぞれの特徴や保険料、加入の仕組みを詳しく解説します。

国民健康保険

国民健康保険(こくほ)は、会社員が加入する健康保険の代わりに、個人事業主やフリーランスなどの自営業者が加入する医療保険制度です。各市区町村が運営しており、住民票のある自治体で手続きを行うことで加入できます。

主な保障内容

  • 病院での診察や入院費用の自己負担が3割(年齢等により異なる)
  • 出産育児一時金、葬祭費などの給付
  • 高額療養費制度による医療費の補助

保険料の計算方法

保険料は所得に応じて決まり、以下のような項目で構成されます。

  • 所得割:前年の所得に応じて決定
  • 均等割:加入者数に応じて課される定額
  • 平等割:世帯単位で課される定額

そのため、年収が高くなるほど保険料も高額になる傾向にあります

なお、会社員時代の健康保険を任意継続するという選択肢もありますが、基本的には国民健康保険への加入が主流です。

国民年金

会社員が厚生年金に加入するのに対し、個人事業主は国民年金(基礎年金)に加入します。これは、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人に加入義務がある「基礎的な年金制度」です。

主な保障内容

  • 老後の年金(老齢基礎年金)
  • 障害を負ったときの障害基礎年金
  • 遺族に支給される遺族基礎年金

保険料と支払い方法

2025年度の保険料は月額16,980円(予定)で、全額を自己負担します。納付方法には口座振替やクレジットカード払いがあり、前納による割引制度も利用可能です。

任意加入制度

60歳以降でも老齢年金の受給資格を得るためや、年金額を増やす目的で「任意加入」できる制度もあります。

また、将来の年金受給額を補うため、国民年金基金やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった制度を併用するのも有効です。

介護保険(40歳以上が対象)

介護保険は、40歳以上のすべての人が加入対象となる公的保険制度で、個人事業主も例外ではありません。

対象者と仕組み

  • 第1号被保険者:65歳以上
  • 第2号被保険者:40歳〜64歳(医療保険加入者)

個人事業主が40歳以上になり、国民健康保険に加入している場合、自動的に介護保険料も徴収されます。

主なサービス

  • 要介護・要支援状態になった際の訪問介護、デイサービス、施設入所支援など
  • 高額介護サービス費支給制度などの補助

保険料は健康保険料と合算で請求されるため、市区町村から送付される通知書で確認可能です。

国民健康保険組合・任意継続制度との違い

国民健康保険以外にも、個人事業主が加入できる選択肢として「国民健康保険組合」「任意継続制度」があります。それぞれの違いを比較してみましょう。

国民健康保険組合とは?

業種ごとに組織された団体が運営する健康保険制度で、以下のような職業に従事する個人事業主が対象です。

  • 美容師:東京美容国民健康保険組合
  • 漫画家・作家:文芸美術国民健康保険組合 など

【特徴】

  • 組合ごとに保険料や給付内容が異なる
  • 一般的に保険料が自治体運営の国保より安いこともある
  • 加入には組合の承認や条件あり

任意継続制度とは?

会社を退職した後も、最大2年間、以前の健康保険(協会けんぽ等)を継続できる制度です。

【特徴】

  • 会社負担分も自己負担となるため、保険料は退職前の約2倍
  • 原則、退職翌日から20日以内に申請が必要
  • 2年経過後は自動的に終了

任意継続制度は、国民健康保険よりも保険料が安くなるケースもありますが、加入には期限と条件があります。フリーランスや個人事業主として継続的に活動する予定であれば、将来的には国民健康保険や組合への切り替えを検討することが一般的です。

個人事業主は、会社員と違い、社会保険制度への加入が義務付けられていない分、自らの判断で保険を選び、適切に手続きする必要があります。医療・年金・介護の公的保障をしっかり整備することで、将来の生活の安定につながるだけでなく、万が一のときのリスクを軽減できます。

参考:個人事業主が加入する社会保険はどれ? 種類と加入方法やメリットも解説

家族の扶養に入れるケースもある?

家族の扶養に入れるケースもある?

個人事業主として独立したものの、開業直後で収入が不安定な場合や、所得が一定以下である場合、配偶者の健康保険の「扶養」に入ることができる可能性があります。この制度をうまく活用すれば、個人事業主自身が国民健康保険に加入せずとも、医療保険の保障を受けられるというメリットがあります。

ここでは、扶養に入れる条件や、実際に扶養されることによるメリット・注意点について解説します。

配偶者の健康保険の扶養に入る条件

配偶者が会社員で健康保険(協会けんぽや組合健保など)に加入している場合、その健康保険制度では一定の条件を満たす家族を「扶養家族」として加入させることが可能です。

個人事業主でも、次のような条件を満たせば扶養に入れます。

主な扶養条件

  1. 年収130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)であること
    一般的には「年収=事業所得」であり、収入から経費を差し引いた金額が判断基準となります。
  2. 主に配偶者の収入で生活していること
    世帯全体の生活費の半分以上を配偶者が負担している必要があります。
  3. 被保険者と同居していること(別居でも仕送りがあれば可)
    住民票が同一であることが望ましいですが、別居でも生活費の仕送りがあれば対象になります。
  4. 継続的に130万円未満の所得であると見込まれること
    一時的な収入減ではなく、継続的な低収入であることが求められます。

扶養の可否は、配偶者が加入している健康保険組合や協会けんぽが審査するため、事業収入や経費、帳簿などの提出を求められることがあります。そのため、日頃からの記帳や証憑の整理も重要になります。

扶養に入るメリットと注意点

扶養に入るメリット

扶養に入る最大のメリットは、自ら保険料を支払う必要がなくなることです。国民健康保険は個人で保険料を全額負担するため、年間数十万円かかることも珍しくありませんが、配偶者の扶養に入れば保険料の負担はゼロで同等の医療サービスを受けることが可能です。

また、介護保険や出産育児一時金、高額療養費制度など、会社員と同じく健康保険制度の各種給付も対象となります。

注意点・デメリット

ただし、扶養に入るには以下のような注意点もあります。

  • 収入が増えると即時に扶養から外れる可能性がある
    収入が130万円を超えると扶養条件を満たさなくなり、国民健康保険への切り替えが必要になります。突発的な売上や臨時収入でも対象となる可能性があるため、注意が必要です。
  • 審査が厳しくなっている傾向がある
    健康保険組合によっては、収入の継続性や帳簿の明確さを厳しくチェックしており、審査の結果「扶養に入れない」と判断されることもあります。
  • 将来の年金額に影響する
    扶養に入っている間は国民年金第3号被保険者として扱われ、年金保険料の支払い義務はありませんが、自分で国民年金を納めるよりも将来の受給額は低くなる可能性があるため、老後資金の準備が必要です。

このように、個人事業主が配偶者の健康保険の扶養に入ることで、経済的な負担を抑えられる一方で、収入や事業規模によっては制度の利用が制限されることもあります。特に開業初期や副業レベルでの事業活動では、扶養制度の活用も視野に入れながら、社会保険とのバランスを検討することが大切です

参考:個人事業主は社会保険に加入できない?加入できる保険や経費計上について解説

保険料は経費になる?税務上の取り扱いを解説

保険料は経費になる?税務上の取り扱いを解説

個人事業主にとって、「どこまで保険料を経費にできるのか」は節税に直結する重要なテーマです。事業運営の中で多くの出費が発生する中、保険料も大きな支出項目のひとつです。しかし、すべての保険料が経費になるわけではなく、支払先や用途、加入者の立場によって税務上の扱いが異なります

本章では、個人事業主自身の社会保険料と、従業員の社会保険料に分けて、経費としての扱いや、活用できる所得控除の制度について詳しく解説します。

個人事業主自身の保険料は経費にならない

まず押さえておくべき大前提として、個人事業主自身が支払う「国民健康保険料」「国民年金保険料」「介護保険料」などの公的保険料は、原則として経費にはできません

これは、事業に直接関係する支出ではなく、「生活費の一部」と見なされるためです。所得税法上、事業に必要な支出のみが必要経費として認められるため、自分自身や家族の生活保障を目的とした保険料は、帳簿上「経費」に計上してはいけません。

もし、個人事業主が誤ってこれらを「保険料」や「福利厚生費」などの勘定科目で仕訳し、経費処理してしまうと、税務調査で否認され、修正申告や追徴課税の対象となるリスクがあります。

たとえば、以下のような保険料は経費計上できません。

  • 自身の国民健康保険料
  • 自身の国民年金保険料
  • 自身の介護保険料
  • 自身名義で加入している医療保険、生命保険(特約を含む)

ただし、これらの保険料は「経費」にはできないものの、「所得控除」として課税所得を減らすことが可能です。次にその方法を見ていきましょう。

所得控除として活用する方法

個人事業主が支払う社会保険料は、経費としては認められませんが、確定申告で「社会保険料控除」や「生命保険料控除」などの所得控除として適用できます。これは、課税対象となる所得から一定額を差し引くことで、所得税・住民税の負担を軽減する仕組みです。

社会保険料控除の対象

次のような保険料は、1年分すべてが社会保険料控除の対象となります。

  • 国民健康保険料
  • 国民年金保険料(付加年金含む)
  • 介護保険料
  • 国民年金基金の掛金
  • iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金

また、本人分だけでなく家族の保険料を支払った場合でも、生活を一にしている家族であれば控除の対象に含めることができます

所得控除の方法

確定申告書の「所得控除」欄に、支払った保険料の総額を記入し、証明書(納付通知書や年末に届く控除証明書など)を添付して提出します。

たとえば、年間30万円の国民年金保険料を支払っていた場合、その30万円を所得から差し引けるため、税率10%の人であれば約3万円の節税効果があります。

注意点としては、控除証明書の保管・添付忘れが原因で控除が受けられないケースがあるため、郵送された証明書は必ず保管し、e-Tax等での入力にも正確に反映させる必要があります

従業員分の社会保険料は経費になる

個人事業主が従業員を雇用している場合、その従業員の社会保険料(会社負担分)については、事業上の費用として「法定福利費」などの勘定科目で経費計上が可能です。

対象となる社会保険料には以下が含まれます。

  • 健康保険料(協会けんぽ・組合健保等)
  • 厚生年金保険料
  • 介護保険料(対象者のみ)
  • 雇用保険料(労働保険料の一部)
  • 労災保険料

これらの保険料は、事業を維持・発展させるために必要な支出であり、「事業遂行上の必要経費」として法人・個人を問わず認められています

経費計上時の注意点

  • 従業員の給与明細に保険料を明記すること
  • 法定福利費としてまとめて計上すること
  • 支払月と対象月がズレていても、発生主義に基づいて正しく処理すること

また、源泉徴収義務者となるため、年末調整や納付期限を守ることも必須です

なお、専従者(配偶者や親族)に給与を支払っており、青色申告を行っている場合でも、その給与に対応する社会保険料は個人事業主本人の社会保険料と同様に経費とはならず、控除の扱いになるケースが多いので、個別の確認が必要です。

以上のように、保険料の扱いは「誰に対するものか」「どの種類の保険か」によって経費処理か控除かが分かれます。正しく処理することで税務リスクを回避し、合法的に節税を行うことが可能です。保険料の取り扱いに不安がある場合は、税理士に相談することで適切なアドバイスを得ることができます。

参考:個人事業主でも社会保険に入れる!全国個人事業厚生会のサービスとは!?

民間保険でリスクに備えるには

民間保険でリスクに備えるには

個人事業主は社会保険制度の保障が限られているため、万が一の病気やケガ、就業不能、老後資金といったリスクに対しては自ら備える必要があります。特に、会社員のように傷病手当金や厚生年金、福利厚生制度の恩恵を受けられない分、民間保険や共済制度を上手に活用することが重要です。

ここでは、個人事業主が検討すべき代表的な民間保険として、「医療保険・就業不能保険」「定期保険・収入保障保険」、そして「老後資金対策となる制度」について解説します。

医療保険・就業不能保険

個人事業主は会社員と異なり、業務中・私生活中を問わず病気やケガで働けなくなった場合の収入補償がありません。こうしたリスクに備えるために有効なのが、以下の民間保険です。

医療保険

医療保険は、入院・手術などに対する給付金が受け取れる保険で、公的医療保険の自己負担部分や、差額ベッド代などの実費に備えることができます。短期入院に対応したタイプから、がん特化型、通院特化型まで様々なプランがあり、自分の健康リスクに応じて選べます。

就業不能保険(所得補償保険)

働けない期間が長期化した場合の収入を補うのが「就業不能保険」です。病気やケガで就業不能になった際に、毎月定額の給付金が一定期間支払われる仕組みで、個人事業主にとっては生活資金の確保に役立ちます。

とくに、子育てや住宅ローン返済などの固定費がある世帯では、公的な支援だけでは不足しがちな生活保障をカバーする役割を果たします。

定期保険・収入保障保険

個人事業主が万が一亡くなった場合、家族の生活を支える制度が会社員よりも手薄になります。遺族年金の支給額も限られるため、民間の生命保険で備えることが推奨されます。

定期保険

一定期間(たとえば10年や65歳まで)に死亡した場合に、あらかじめ決められた金額が一括で支払われる保険です。保険料は安価に抑えられ、万が一の保障を確保しながら、資金計画を立てやすいのがメリットです。

収入保障保険

定期保険と異なり、残された家族に毎月一定額を年金形式で支給するタイプの保険です。特に子育て世代の個人事業主におすすめで、残された配偶者や子どもが生活を続けていけるよう支援する役割を果たします。

これらの死亡保険は、「事業を引き継ぐ人がいない」「家族の生活を守りたい」という個人事業主にとって不可欠なリスクヘッジ手段となります。

iDeCo・小規模企業共済などの老後資金対策

将来の老後資金についても、個人事業主は自分で準備する必要があります。公的年金だけでは心もとない中、税制優遇のある積立制度を活用することで、節税しながら資産形成が可能です。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCoは、掛金を自ら拠出し、老後資金として運用する制度です。

  • 掛金は全額が所得控除の対象(節税効果が大きい)
  • 運用益が非課税
  • 60歳以降に年金または一時金として受け取り可能

事業所得が多い個人事業主ほど、iDeCoの節税効果は高くなるため、老後の備えと節税を両立できる選択肢として注目されています。

小規模企業共済

小規模企業共済は、個人事業主や中小企業経営者の「退職金制度」のような位置づけです。

  • 掛金(月1,000円〜70,000円)は全額が所得控除の対象
  • 廃業時や老齢時に共済金を一括または分割で受け取れる
  • 共済金は退職所得または公的年金等控除の対象(税制優遇あり)

特に「引退後の生活資金を計画的に準備したい」と考える事業者にとって、小規模企業共済は強力な支援制度となります。

参考:個人事業主が入るべき社会保険やリスクに備える保険制度について、活用するメリットを解説

従業員を雇う場合の社会保険加入義務とは

従業員を雇う場合の社会保険加入義務とは

個人事業主として一人で仕事をしている間は、社会保険に関する手続きは自身の公的保険の加入だけで済みます。しかし、従業員を雇った時点で、社会保険の加入義務が発生する可能性があります。これは労働者を守るために法律で定められているものであり、違反すると罰則や追徴保険料のリスクもあるため、正しい知識が必要です。

ここでは、個人事業主が従業員を雇った際に求められる社会保険の加入義務について、労災保険・雇用保険、健康保険・厚生年金、そして任意適用事業所としての手続きについて詳しく解説します。

労災保険・雇用保険の加入義務(1人でも雇用したら)

まず最初に確認すべきなのが、「労働保険(労災保険・雇用保険)」の加入義務です。個人事業主が従業員を1人でも雇用した時点で、これらの保険への加入が必要になります

労災保険の特徴

  • 労働中や通勤途中の事故や病気に対して、治療費や休業補償などを給付
  • 全額を事業主が負担(従業員からの負担はなし)
  • アルバイトやパートタイマーなど雇用形態にかかわらず適用される

雇用保険の特徴

  • 失業給付(基本手当)や育児休業給付などを提供
  • 原則として、週20時間以上働き、31日以上の雇用見込みがある従業員が対象
  • 保険料は事業主と従業員が分担して負担する

これらの保険に加入するためには、「労働保険関係成立届」や「雇用保険適用事業所設置届」の提出が必要です。ハローワークや労働基準監督署に届け出を行い、保険料を納付することで従業員を適切に保護できます。

健康保険・厚生年金の加入が必要なケース(常時5人以上など)

次に考慮すべきは、「健康保険と厚生年金(いわゆる社会保険)」です。個人事業主がこれらへの加入義務を負うのは、事業所の規模や業種によって異なります。

強制適用事業所となる条件

以下の業種に該当し、常時5人以上の従業員を雇用している場合は、健康保険・厚生年金の加入が義務付けられます。

【適用業種例】

  • 飲食業、販売業、製造業、サービス業など(法律上の適用業種)

一方、理美容業や農業、漁業などの「非適用業種」では5人以上でも加入義務が生じない場合もあります。ただし、本人が法人を設立して事業を行っている場合は、原則すべての事業所が社会保険の適用対象となるため注意が必要です。

この健康保険・厚生年金に関しては、事業主と従業員の双方で保険料を折半して納付します。従業員が1人であっても、法人化していれば原則強制適用になるため、個人事業主かつ雇用人数や業種によって義務の有無が変わります。

任意適用事業所としての手続き方法

「常時5人未満の従業員しか雇っていない」場合や、「非適用業種に該当する」個人事業所であっても、社会保険に加入したい場合は、任意適用事業所として申請することが可能です。

任意適用のメリット

  • 企業の福利厚生が充実し、優秀な人材の確保につながる
  • 厚生年金による老後保障が充実する
  • 医療保障や傷病手当金、出産手当金などの制度が利用可能になる

手続きの流れ

  1. 被保険者の2分の1以上の同意を得る
    労働者の過半数の賛成が必要です。
  2. 所轄の年金事務所に「任意適用申請書」を提出
    必要に応じて賃金台帳や労働契約書などの提出も求められます。
  3. 申請が受理されれば、社会保険加入義務が発生

任意適用が認められると、その事業所の従業員全員が強制的に社会保険に加入することになるため、従業員との合意形成も大切です。

また、社会保険に加入すると保険料負担が大きくなる反面、福利厚生の充実や従業員の定着率向上といったメリットも期待できます。今後の事業の拡大や法人化を視野に入れている場合は、早めに任意適用を検討しておくと良いでしょう。

従業員を雇用した時点で、社会保険への加入義務は避けて通れないテーマになります。規模や業種によって条件が異なるため、自社がどの制度に該当するかを正確に把握し、適切な手続きを行うことが重要です。万が一手続きを怠ると、労働基準監督署や年金事務所からの指導や追徴が発生する恐れもあるため、注意が必要です。

参考:個人事業主は社会保険へ加入できない?仕組みをわかりやすく解説

法人化すると社会保険に加入できる?

法人化すると社会保険に加入できる?

個人事業主のままでは原則として加入できない健康保険や厚生年金などの社会保険ですが、法人化(法人成り)を行うことでこれらの制度に加入することが可能になります。社会保険に加入することで、医療保障や年金制度の充実を図れる一方で、保険料の負担も発生するため、加入メリットとコストのバランスを見極めることが重要です。

ここでは、法人化による社会保険の強制加入の仕組みと、それに伴うメリット・デメリットを整理します。

法人化による社会保険の強制加入

個人事業主が法人を設立した場合、その時点で法人は社会保険(健康保険・厚生年金保険)の強制適用事業所となります。これは、従業員を雇用していなくても、役員(代表者)である本人だけの法人であっても同様です。

つまり、法人化すれば事業主本人も厚生年金・健康保険に加入できるようになるということです。

社会保険への加入手続きは、法人設立後に年金事務所へ必要書類を提出して行います。これにより、個人事業主のときには加入できなかった「傷病手当金」や「出産手当金」「老齢厚生年金」などの恩恵を受けることができます。

加入によるメリットとデメリット

メリット

  1. 老後の年金額が増える
    国民年金のみの場合に比べて、厚生年金に加入することで将来の受給額が増加します。
  2. 傷病手当金・出産手当金が受け取れる
    病気やケガで働けない期間に収入補償が受けられるため、生活のリスクを大きく減らせます。
  3. 扶養制度が使える
    配偶者や子どもを健康保険の扶養に入れることが可能になり、保険料の追加負担なしで医療保障が得られます。
  4. 社会的信用が高まる
    社会保険への加入により、取引先や金融機関からの信頼が増し、融資や契約面で有利になることがあります。

デメリット

  1. 保険料の負担が増える
    保険料は労使折半となるため、法人(会社)と個人(役員報酬受給者)で半分ずつ負担しますが、実質的にすべてを自らの財布から支払う形になります。月数万円〜十数万円の負担となることもあります。
  2. 事務手続きが煩雑になる
    毎月の保険料の納付や、社会保険の届出・変更手続きなど、事務負担が増加します。外部の社労士に依頼する場合は、別途コストもかかります。

法人化により社会保険へ加入できるようになることで、手厚い保障を受けられる反面、費用や手続き面での負担も増えるのが実情です。事業規模や将来の働き方に合わせて、法人化のタイミングと社会保険の加入について戦略的に検討することが大切です。

参考:個人事業主の法人化。社会保険手続きについて、社会保険労務士が解説します。

よくある質問

よくある質問

個人事業主と社会保険の関係は複雑で、初めて事業を始めた人にとっては疑問点も多いものです。ここでは、特に多くの方が気になるポイントをQ&A形式で解説します。

Q. 国民健康保険と社会保険の違いは?

国民健康保険は主に個人事業主や無職の方が加入する医療保険で、市区町村が運営しています。一方、社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、法人や従業員5人以上の事業所などで働く人が対象で、保険組合や協会けんぽ、年金機構が運営主体です。

最大の違いは、社会保険が「事業主と被保険者(労働者)」による保険料の折半制度であるのに対し、国民健康保険は全額自己負担になることです。また、社会保険には傷病手当金や出産手当金などの付加給付があるのに対し、国民健康保険にはそれらの制度がありません。

Q. 保険料を安くする方法はある?

国民健康保険料は所得に比例して決まるため、所得を適切に経費処理し、節税することで保険料も抑えることが可能です。また、保険料が高額な場合は、次のような対策も有効です。

  • 保険料の減免制度の利用(自治体ごとに基準あり)
  • 家族の扶養に入る(条件を満たせば健康保険料の自己負担がゼロになる)
  • 国民健康保険組合への加入(業種によっては割安な保険料で手厚い保障を受けられる)

また、将来的な保険料負担を見越して、法人化による社会保険への切り替えを検討することも選択肢のひとつです。

Q. 個人事業主でも傷病手当金はもらえる?

原則として、個人事業主は国民健康保険に加入しているため、傷病手当金を受け取ることはできません。傷病手当金は社会保険(健康保険)の被保険者が対象であり、就労不能状態が継続した場合に収入の一部を補填する制度です。

ただし、以下のような方法で同等の備えは可能です。

  • 就業不能保険(所得補償保険)に加入する
  • 法人化して厚生年金・健康保険に加入する
  • 労災保険の特別加入を利用する(一部業種に限る)

個人事業主は自らリスクに備える手段を持つことが非常に重要です。

参考:個人事業主が加入できる社会保険は?法人化でどう変わるかも解説

まとめ:個人事業主でも保険で将来に備えよう

まとめ:個人事業主でも保険で将来に備えよう

個人事業主は会社員と比べて社会保険の仕組みが異なり、自らの判断と行動で保障を整える必要があります。国民健康保険や国民年金といった公的保険に加入するだけでなく、民間保険や共済制度を活用することで、医療・就業不能・死亡・老後のリスクに備えることが可能です

また、従業員を雇ったり法人化を検討したりするタイミングでは、社会保険の加入義務やメリット・デメリットについても理解を深めておくことが重要です。

制度の内容や税務上の取り扱いは複雑なため、不安な点があれば社労士や税理士など専門家への相談も視野に入れ、自分に最適な保障と節税を両立する仕組みづくりを進めましょう。将来にわたって安心して事業を継続するためには、保険の選び方も経営の一環として戦略的に考えることが大切です。