フリーランスは開業届を出すべき?メリット・デメリットを解説

フリーランスとして仕事を始める際、「開業届は出すべき?」と迷う方も多いのではないでしょうか。実は、開業届の提出は義務ではありませんが、提出することで青色申告が可能になるなど、税制面での大きなメリットがあります。一方で、出すことで発生する義務や注意点もあるため、自分の働き方に合った判断が必要です。
本記事では、フリーランスが開業届を出すメリット・デメリットを整理し、出すべきかどうかの判断基準をわかりやすく解説します。
フリーランスに開業届は必要?基本を押さえよう

フリーランスとして仕事を始める際に、多くの人が迷うのが「開業届は出すべきか?」という点です。そもそも開業届とは何なのか、提出は義務なのか、そして提出によってどのような影響があるのかを正しく理解しておくことが重要です。特に「開業届を出さないと罰則があるの?」「副業でも出す必要があるの?」といった疑問を持つ方は多く、基礎知識を整理しておくことで適切な判断ができるようになります。
この章では、まず開業届の基本的な概要と法的位置づけ、そしてフリーランスにとって重要な「雑所得」と「事業所得」の違いについて、詳しく解説します。
開業届とは何か?個人事業の開始を届け出る書類
開業届とは、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」と呼ばれる書類で、税務署に対して「これから事業を始めます」という意思を表明するための届出書類です。提出先は原則として納税地を所轄する税務署で、開業日から1ヶ月以内の提出が推奨されています。
この書類を提出することで、個人として行う事業が「事業所得」として扱われるようになり、青色申告の申請や、各種税制優遇措置の対象になることが可能になります。
なお、開業届の提出には費用はかかりません。用紙は国税庁のホームページからダウンロードできるほか、freeeや弥生などのクラウド会計サービスでは、質問に答えるだけで自動的に開業届を作成できるツールも提供されています。
提出方法も多様で、税務署に直接持参するほか、郵送やe-Tax(電子申告)での提出も可能です。特にe-TaxはマイナンバーカードとICカードリーダーがあれば、完全に非対面で完了するため、フリーランスの多忙な日常にとっては便利な手段といえます。
提出は義務?開業届を出す法的な位置づけ
「開業届を出さないと違法になるのでは?」と心配する方もいるかもしれませんが、実は開業届の提出は法的義務ではあるものの、提出しなかったことに対する罰則は設けられていません。
具体的には、所得税法第229条により「事業の開始から1ヶ月以内に開業届を提出すること」が定められていますが、未提出による罰金や懲役といった直接的なペナルティはありません。そのため、「提出しなくてもとりあえずは問題ない」と判断する人も少なくありません。
しかし、開業届を出していないと、青色申告が選べない、小規模企業共済に加入できない、社会的信用が低くなるなど、フリーランスとして活動していくうえで不利な点が多くなります。結果として、節税の機会を失うだけでなく、融資や補助金、クレジットカード審査にも影響が出る可能性があります。
つまり、法的義務でありながらも実務上は「任意」のように扱われる開業届ですが、出すことで得られるメリットが非常に大きいため、フリーランスとして本格的に活動を始めるなら早めに提出することが望ましいと言えるでしょう。
雑所得と事業所得の違い

開業届を出すかどうかを判断するうえで、重要なポイントが「雑所得」と「事業所得」の違いです。両者は見た目は似ていますが、税務上の取り扱いが大きく異なります。
「雑所得」とは、主に副業や一時的な収入、趣味や空いた時間を利用した活動から得られる収入のことで、継続性や反復性、独立性が低いものとされています。たとえば、知人から単発で受けたデザイン業務の報酬や、たまに行うライティングの仕事などが該当します。
一方で「事業所得」は、継続的かつ反復的に事業を行っていると認められる場合の収入です。たとえば、自分のWebサイトを運営して広告収入を得ている、請負契約を結んで毎月クライアントと取引している、といったケースは事業所得と見なされる可能性が高くなります。
税務署の判断基準としては、以下のような点がチェックされます。
- 収入が継続的に得られているか
- 営利性・有償性があるか
- 自己の計算と責任で行っているか(独立性)
- 仕事のための設備や資材を保有しているか
開業届を提出していないと、たとえ実態が事業に近くても「雑所得」として扱われる可能性があり、経費の計上範囲が狭くなったり、青色申告の適用が受けられないといった不利益を被ることがあります。
また、最近では副業フリーランスに対する税務調査も強化されており、継続性があるにも関わらず開業届を出していないことで、帳簿の提出を求められたり、過少申告を指摘されるリスクもあります。
参考:フリーランスが開業届を出すメリット・デメリットは?書き方・提出方法も紹介
フリーランスが開業届を出す5つのメリット

フリーランスとして仕事を始める際、「開業届を出すべきかどうか」で悩む方は少なくありません。実際、開業届を出さなくてもフリーランスとして仕事はできますし、提出しないことによる罰則も基本的には存在しません。しかし、開業届を提出することで得られるメリットは非常に多く、長期的に見て大きな差につながります。
ここでは、フリーランスが開業届を提出することで得られる代表的な5つのメリットについて、具体的かつ実務的な視点から解説します。
青色申告ができるようになる
開業届を提出する最大のメリットのひとつが、青色申告を行えるようになることです。青色申告とは、一定の条件を満たすことで、税制上のさまざまな優遇を受けられる制度のこと。個人事業主として節税効果を得たいのであれば、ぜひ活用したい制度です。
最大65万円の控除が受けられる
青色申告の中でも特に魅力的なのが、「青色申告特別控除」です。複式簿記による記帳と、電子申告(e-Tax)または電子帳簿保存による提出を行えば、最大で65万円の所得控除が適用されます。これは課税対象となる所得を大きく減らす効果があり、所得税と住民税の両方で節税につながります。
仮に所得が500万円ある場合、65万円の控除によって10万円以上の節税が可能になるケースもあります。フリーランスとしてある程度の収入が見込まれるのであれば、この控除の効果は見逃せません。
赤字の繰越や家族への給与の経費化が可能
青色申告を選択することで、万が一赤字になってしまった年でも、その赤字を最大3年間にわたり繰り越すことが可能になります。たとえば、1年目に100万円の赤字が出ても、2年目以降の利益からその分を相殺できるため、税負担を軽減することができます。
また、「青色事業専従者給与」として、家族に支払った給与を事業経費として認めることも可能になります。これにより、実質的に家族の人件費を控除に使えるため、家族と協力して働くフリーランスにとっては大きな節税メリットとなります。
屋号名義の口座やクレジットカードを作れる
フリーランスが開業届を提出すると、屋号を設定することができます。これにより、屋号名義の銀行口座やクレジットカードを作成することが可能になります。
屋号付きの口座は、仕事用とプライベート用のお金の流れを明確に分けることができ、経理の効率化にもつながります。とくに確定申告の際には、経費の管理や収入の集計がスムーズになるため、日々の帳簿付けや記帳作業の手間を減らせます。
さらに、屋号付きのクレジットカードであれば、経費用の支出に特化したカード運用ができ、ビジネス支出の可視化にも役立ちます。事業専用のカードを持つことで、クレジットカード会社からの信頼度も上がり、利用限度額の増加やビジネス特化サービスの対象となることもあります。
社会的信用が高まり、融資や賃貸審査に有利
開業届を提出していると、税務署に正式に事業を届け出ている「個人事業主」としての立場が明確になります。これにより、フリーランスとしての社会的信用が高まるというメリットがあります。
実際、事業者向けの銀行融資や日本政策金融公庫からの創業融資、補助金の申請時などに、開業届の写しが必要とされるケースが多くあります。また、事業用のオフィスや作業スペースを借りる際、法人格がないフリーランスでも開業届を提示すれば審査が通りやすくなることがあります。
さらに、スマートフォンの契約やクレジットカードの審査でも、開業届を提出していることで「継続した収入を得ている事業者」として扱われ、審査上の優位性が生まれることも少なくありません。
参考:フリーランスは開業届を提出すべき?開業届の書き方や提出方法を解説
小規模企業共済に加入できる

開業届を提出して個人事業主となることで、「小規模企業共済」に加入できるようになります。これは、フリーランスや個人事業主が将来の廃業や老後に備えるための退職金制度のようなもので、国が運営する制度です。
掛金は月1,000円〜7万円まで任意で設定でき、全額が所得控除の対象になります。たとえば、年間84万円(7万円×12ヶ月)を掛金として支払えば、その分がまるごと所得から差し引かれ、節税効果を得ながら将来の資金も確保できます。
さらに、加入期間が長くなるほど共済金の受け取り額も増えるため、長期的な資産形成としても有効です。しかも、万が一のときには貸付制度を利用して資金を借りることもできるため、事業の資金繰りが厳しくなったときのセーフティネットにもなります。
保育園の就労証明など公的証明として使える
フリーランスが育児をしながら働く場合、保育園への入園申し込みに「就労証明書」が必要になることがあります。会社員であれば勤務先が証明書を発行してくれますが、フリーランスにはその仕組みがありません。
このとき、開業届を提出していれば「自営業として働いていることの公的証明」として活用することができます。多くの自治体では、開業届の控えを就労証明の代わりとして認めており、提出していないと「無職扱い」となってしまい、保育の必要性が認められないこともあります。
また、児童手当や医療費助成、ひとり親家庭向けの支援など、自治体が行う各種公的制度の審査でも、開業届を提出しているかどうかが判断材料として使われるケースがあります。公的な証明手段としても、開業届の役割は非常に大きいといえるでしょう。
このように、開業届の提出にはフリーランスにとって多くの実利的なメリットがあります。たとえ提出自体が任意であったとしても、税務上の優遇や信用力の向上、公的手続きの利便性など、将来的に差がつく要素が数多く含まれています。フリーランスとして長く安定して活動したいと考えているなら、開業届の提出は早めに検討すべき一歩といえるでしょう。
参考:フリーランスが開業届を提出するといくらかかる?年収いくらから開業すべき?
開業届を出す3つのデメリットと注意点

フリーランスとして開業届を提出することで得られるメリットは多い一方、注意しておきたいデメリットや落とし穴も存在します。特に、社会保険や税務上の取り扱いが変わる点については、事前に理解しておかないと後から不利益を被ることもあります。
この章では、フリーランスが開業届を出す際に知っておくべき3つの代表的なデメリットと注意点について解説します。
失業給付を受けられなくなる
最も大きな影響の一つが、開業届を出すことで「雇用保険による失業給付(失業手当)」が受けられなくなる点です。失業手当は、雇用保険の被保険者だった人が退職後に再就職活動をする間の生活を支援する制度ですが、開業届を出した時点で「自営業を開始した」とみなされ、基本的に給付の対象外となります。
たとえば、会社を退職後にフリーランスとして働くことを決めた場合、ハローワークでの手続きのタイミングと開業届の提出日が重なると、失業手当の申請が認められないケースがあります。また、給付期間中に開業届を出してしまうと、支給が停止される場合もあります。
ただし、すぐに事業を本格稼働させない意向がある場合や、あくまでも準備段階であると判断されれば、「求職活動中」として扱われ、失業給付を受けられる可能性もゼロではありません。いずれにしても、開業届の提出は失業手当の受給条件に大きく影響を与えるため、事前にハローワークへ相談し、タイミングを慎重に検討することが重要です。
配偶者の扶養から外れる可能性
もうひとつの注意点が、開業届を提出すると配偶者の社会保険の扶養から外れる可能性があるという点です。扶養の条件は加入している健康保険制度によって異なりますが、一般的には年間の所得が一定額(130万円未満が目安)を超えると扶養に入ることができなくなります。
また、開業届を提出しただけで「自営業を始めた」と判断され、実際の所得額に関わらず扶養から除外されるケースも見られます。特に、企業の健康保険組合によっては、開業届の提出=収入ありとみなされ、実際の収入が130万円未満でも扶養認定がされない場合があります。
扶養を外れると、自分で国民健康保険と国民年金に加入し、保険料を全額自己負担する必要が出てきます。これにより、年間数十万円規模の社会保険料負担が発生することも珍しくありません。
したがって、「まだフルタイムで働ける状況ではない」「事業が安定してから社会保険を考えたい」という場合は、開業届を出すタイミングや収入見込みをよく検討する必要があります。扶養の維持を希望する場合は、保険組合や年金事務所に事前に相談しておくと安心です。
青色申告を選ぶと帳簿作成が必須に
開業届を提出し、青色申告を選択すると、多くの節税メリットを受けられる一方で、複式簿記による帳簿作成が必須になります。これは事業収支をより正確に管理するための制度ではありますが、簿記の知識がない方にとっては、手間やハードルが高いと感じる場合も多いでしょう。
青色申告で最大65万円の控除を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 複式簿記で帳簿を作成する
- 帳簿を保存し、税務署に提示できるようにする
- 電子申告(e-Tax)または電子帳簿保存を行う
これらを満たすには、会計ソフトを導入したり、日々の取引を正確に記帳・分類する習慣をつけたりする必要があります。間違った記帳や申告は税務調査の対象になる可能性もあるため、きちんと管理する責任が伴います。
また、青色申告特別控除を受けるには、「青色申告承認申請書」を開業届と一緒に、あるいは期限内(開業から2ヶ月以内)に提出しなければなりません。この手続きも忘れてしまうと、節税効果が期待できなくなるため注意が必要です。
会計処理が負担に感じる場合は、はじめのうちは白色申告を選ぶ、またはクラウド会計ソフトを活用して帳簿作成の自動化を図ることも選択肢の一つです。将来的に収入が安定してから青色申告に切り替えるという判断も可能です。
開業届を出すことにはさまざまなメリットがありますが、今回紹介したようなデメリットや注意点もあることを理解しておくことが大切です。特に、社会保険や税務の取り扱いはフリーランスとしての生活に直接影響を及ぼすため、事前の確認と準備が不可欠です。
「知らなかった」では済まされない制度面のリスクを回避するためにも、開業届を出す前には、自身の収入見込みや生活設計を踏まえて、総合的に判断するようにしましょう。必要であれば税理士や社会保険労務士など専門家への相談も検討してください。
参考:フリーランスの開業届の出し方は?必要性やメリット、注意点を解説
副業フリーランスは開業届を出すべき?

会社員として働きながら、副業でライターやデザイナー、エンジニアなどの仕事を受けている「副業フリーランス」が増加しています。自由な働き方を実現できる一方で、「開業届は出したほうがいいのか?」「会社に副業がバレてしまわないか?」と悩むケースも少なくありません。
この章では、副業フリーランスが開業届を出すべきかどうかの判断基準と、確定申告や会社への影響に関する注意点を解説します。
所得20万円を超える場合は確定申告が必要
副業としてフリーランス活動をしている場合、まず押さえておくべきポイントが「確定申告の要否」です。会社員として給与所得がある人でも、副業によって得た「所得」が年間20万円を超える場合、所得税の確定申告が必要になります。
ここでいう「所得」とは、収入額ではなく、経費を差し引いた後の利益部分を指します。たとえば、年間30万円の副業収入があり、そのうち10万円が経費であれば、所得は20万円となり、確定申告が必要です。
仮に所得が20万円以下でも、住民税の申告は別途必要になるため、税務上の手続きを完全に免れることはできません。収入が少ないからといって何もせずに放置していると、後々延滞税や加算税が発生するリスクがあります。
また、青色申告を利用したい場合は、開業届と青色申告承認申請書を事前に提出しておく必要があります。副業とはいえ、事業性があると判断される場合は、早めの提出を検討しましょう。
雑所得扱いのままにするリスクと注意点
開業届を出さない場合、副業フリーランスの収入は原則として「雑所得」として扱われます。雑所得は、事業所得に比べて経費計上の自由度が低く、税制上の優遇もほとんど受けられません。
たとえば、青色申告による最大65万円の控除や赤字の繰越、家族への給与の経費化などは、事業所得でなければ適用されない制度です。雑所得のままにしておくことで、これらの恩恵を受けられず、結果として納税額が増えてしまう可能性があります。
さらに、最近では税務署も副業フリーランスへの監視を強めており、継続的かつ反復的に取引がある場合は「雑所得ではなく事業所得に該当する」と判断されるケースも出てきています。この場合、開業届を提出していないことによる不備を指摘されるリスクも考えられます。
事業としての実態があるのであれば、早めに開業届を提出し、帳簿を整備しておくことが、結果的にリスク回避と節税につながると言えるでしょう。
会社にバレたくない場合の工夫と限界
副業フリーランスにとって最も気になるのが「会社に副業がバレるかどうか」ではないでしょうか。とくに副業を禁止している企業では、開業届の提出により自らフリーランスであることを公にすることに抵抗を感じる人も多いはずです。
ただし、実際に会社にバレる原因の多くは、税務署や役所を通じた「住民税」の通知です。会社員の場合、給与所得に対する住民税は「特別徴収」として会社が代行して支払いますが、副業分の所得を申告すると、住民税が増加し、会社に通知される金額と差異が出てしまうため、副業が発覚するきっかけになります。
これを回避するには、確定申告時に「住民税は普通徴収(自分で納付)」を選択することが有効です。これにより、副業分の住民税は自分で支払う形となり、会社側に通知がいくことを防げる場合があります。
ただし、以下のような限界もあります。
- 自治体によっては「普通徴収」の希望が通らない場合がある
- 開業届を出さなくても、副業収入の有無は会社が間接的に把握することもある
- 経費の計上内容や収入が多額になると、税務上の処理により不自然な点が生じやすい
つまり、会社に絶対にバレたくないという理由で開業届の提出を避ける場合でも、税務署への対応や収入の管理は慎重に行う必要があります。開業届の提出=即バレるというわけではありませんが、制度を理解したうえでの選択が重要です。
副業フリーランスとしての活動が継続的かつ本格化してきたら、開業届を提出して事業としての整備を進めるのが望ましいでしょう。確定申告や住民税の対応、税務上の判断基準を理解したうえで、自身の働き方と収入状況に合った判断を行うことが大切です。必要に応じて税理士に相談するのもひとつの手です。
参考:フリーランスは開業届の提出が必要?出さないとデメリットが多いので要注意
開業届の書き方と提出方法

フリーランスとしての第一歩を踏み出すにあたり、開業届の提出は大切な手続きのひとつです。開業届は税務署へ提出する書類ですが、基本的な記入項目は多くなく、正しく理解すれば誰でもスムーズに作成できます。ここでは、開業届の書き方と提出方法、併せて提出しておくと良い関連書類について解説します。
必要事項の記入方法(記入例あり)
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。国税庁のホームページからPDFをダウンロードできるほか、freeeや弥生などのクラウド会計サービスでは自動入力できるツールも提供されています。提出用と控え用の2部を用意するのが基本です。
氏名・住所・職業・屋号などの記載ポイント
主な記入項目と注意点は以下のとおりです。
- 提出先税務署名:納税地を管轄する税務署を記入します。
- 納税地:自宅住所または事業所の所在地。郵送物が届く住所を記入。
- 氏名・生年月日・個人番号(マイナンバー):正確に記入。
- 職業:実態に合った内容に。「ライター」「Webデザイナー」「エンジニア」などでOK。抽象的すぎると指摘されることもあるため注意。
- 屋号:任意項目です。事業用口座や請求書に使用するなら記載推奨。後から変更も可能。
- 開業日:事業を始めた日を記入。収入が発生した日、請求書を発行した日など。
- 所得の種類:「事業所得」にチェック。副業でも事業としての実態があれば該当します。
- 事業の概要:業務内容を簡潔に。例:「Webサイト制作、デザイン請負」「クラウドソーシングによるライティング業務」など。
- 給与等の支払の状況:従業員や家族への給与支払いがあれば「有」にして、人数を記入。支払いがない場合は「無」にチェック。
開業届はシンプルな書式ですが、後々の税務署対応や書類審査にも関わるため、正確に記入することが大切です。提出後は受付印を押してもらった「控え」を必ず手元に保管しましょう。補助金申請や口座開設などで必要になることがあります。
提出方法(持参・郵送・e-Tax)
開業届の提出方法は以下の3つから選べます。
- 持参:最寄りの税務署へ直接持っていく方法。即日受付印を押してもらえるのが利点です。控えを2部用意しておくと、提出後すぐに控えを受け取れます。
- 郵送:控え用と返信用封筒(切手付き)を同封して送付すれば、自宅に受付印付きの控えが返送されます。忙しいフリーランスにとって便利な方法です。
- e-Tax:マイナンバーカードとICカードリーダーがあれば、完全オンラインで提出可能。freeeや弥生などのソフトからも連携送信が可能です。受付印の代わりに電子データが証明となります。
提出期限は「開業日から1ヶ月以内」が原則ですが、期限を過ぎても受理されないわけではありません。ただし、青色申告の申請との関係で早めの提出が推奨されます。
開業届と同時に出すべき書類(青色申告承認申請書など)
開業届とあわせて提出すべき重要書類に「青色申告承認申請書」があります。これは、青色申告を希望する場合に必要な書類で、提出しなければ自動的に白色申告になります。
青色申告には節税メリットが多数ありますが、特典を受けるためには事前に申請が必要です。開業日から2ヶ月以内に提出しなければ、その年は青色申告が認められません。
また、以下のような届出書も、事業内容によっては提出を検討すべきです。
- 所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書:特定の評価・償却方法を選ぶ場合に必要。
- 青色事業専従者給与に関する届出書:家族に給与を支払って経費計上する場合に提出。
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書:源泉徴収の納付を年2回にできる制度。
これらは義務ではありませんが、今後の節税や経理業務の効率化につながる可能性があるため、将来的に該当する場合は税務署や税理士に相談しておくと安心です。
参考:フリーランスは開業届を出さない場合も罰則はない? 提出のメリットも解説
開業届を出さないとどうなる?提出しない場合の影響

フリーランスとして活動を始めた際、「とりあえず仕事をしてみて、後から必要なら開業届を出そう」と考える人も少なくありません。実際、開業届を出さずにフリーランスとして働くことは可能ですし、法律上の罰則があるわけでもありません。
しかし、開業届を提出しないことで受けられなくなる制度やサービスもあり、長期的には「損」をするリスクが高まります。ここでは、開業届を出さなかった場合にどのような影響があるのかを3つの観点から解説します。
青色申告や共済加入ができない
開業届を提出しない最大のデメリットは、「青色申告」が利用できなくなることです。青色申告は、個人事業主向けの税制優遇制度で、条件を満たすことで最大65万円の所得控除が受けられるなど、大きな節税効果があります。しかし、この制度を利用するには、事前に「開業届」と「青色申告承認申請書」の両方を税務署に提出する必要があります。
開業届を出さずにフリーランスとして活動していると、申請条件を満たせず、白色申告しか選べなくなります。白色申告には特別控除がなく、経費計上や赤字繰越の自由度も低くなるため、結果として税金負担が大きくなる傾向にあります。
また、将来のために積み立てを行える「小規模企業共済」や「国民年金基金」などの制度に加入するためにも、開業届によって正式な「個人事業主」であることを証明する必要があります。小規模企業共済は実質的な退職金制度であり、掛金が全額所得控除の対象になるなど非常にメリットが大きい制度ですが、加入には開業届の控え提出が必須です。
つまり、開業届を出さないと、税制上の恩恵も将来の備えも受けられない状態に置かれることになります。
社会的信用を得づらくなる
フリーランスにとって、信頼は仕事の継続や拡大のために不可欠な要素です。しかし、開業届を提出していないと、社会的な信用を得にくくなるという問題があります。
たとえば、以下のような場面で開業届の有無が信用力に直結します。
- 銀行口座の開設:ビジネス用の屋号付き口座を開設するには、開業届の控えが求められるケースが多いです。
- クレジットカードの発行:個人事業主向けのビジネスカードを作成する際も、開業届の提出が前提となることがあります。
- 補助金・助成金の申請:多くの自治体や公的機関では、「事業実態の証明」として開業届の控えが必要とされます。
- 事業用の不動産契約や設備リース:法人でなくても、個人事業主としての開業実績があれば、審査が通りやすくなる場合があります。
さらに、子育て中の方にとっては、保育園の入園申請時に就労証明書の代わりとして開業届の写しが求められることもあります。提出していないと「無職」とみなされ、保育の必要性が認められず、入園審査で不利になる可能性も否定できません。
このように、開業届は単なる税務手続きにとどまらず、「事業をしていることの公的な証明書」として広く使われています。開業届を出していないフリーランスは、制度的にも社会的にも不利な立場に置かれやすいのが現実です。
特別な罰則はないが損をすることが多い
開業届の提出は、所得税法上では「事業の開始から1ヶ月以内に提出すること」が定められているものの、これに違反しても罰金や刑罰が科されることはありません。提出しなかったからといって、ただちに税務署から連絡が来たり、処罰されるわけではないのです。
そのため、「どうせ罰則がないなら出さなくてもいい」と考える人もいますが、実際には「出さないことで損をすること」が多いというのが本当のところです。
たとえば、税務署から見れば、開業届を出していない状態ではフリーランスの収入は「雑所得」として扱われがちです。雑所得では青色申告もできず、経費計上の範囲も限定され、事業としての損益管理が難しくなります。また、将来的に税務調査を受けた際にも、事業としての継続性や独立性を証明するのが難しく、経費が否認されるリスクも高まります。
さらに、制度変更や新たな支援金制度が設けられたときに、「対象は開業届を提出済みの個人事業主のみ」とされるケースも多く、開業届を出していないと給付の対象外になってしまう可能性があります。特にコロナ禍では、そのような事例が多く見られました。
このように、罰則がないからといって安心するのではなく、受けられる制度や信頼を考慮すると、むしろ提出しないことによる“機会損失”の方が大きいのです。
フリーランスとしての活動が短期間のものだったり、趣味的な副業であれば、開業届を出さなくても大きな問題にはならないかもしれません。しかし、継続的に報酬を得る前提であれば、開業届を提出しておくことが、税制面・社会的信用・将来の制度活用のすべてにおいて有利に働きます。たとえ罰則がないとしても、提出しないことによって得られないメリットが数多くあることを理解しておくべきでしょう。
参考:フリーランスに開業届は必要か?受けられるメリットや提出方法などを解説【個人事業主】
よくある質問

Q.開業届は収入がなくても提出すべき?
はい、収入がまだ発生していなくても、フリーランスとして事業を始める意思がある場合は開業届を提出しておくのが望ましいです。実際の売上がなくても「事業の準備段階」であることをもって開業とみなされます。開業届を提出することで、青色申告の申請や小規模企業共済の加入が可能になり、節税メリットや社会的信用の確保にもつながります。特に今後フリーランスとして継続的に活動するつもりであれば、早めに届け出ることをおすすめします。
Q.開業届を提出するタイミングは?
原則として、開業日から1ヶ月以内に提出することが法律上のルールとなっています。ただし、1ヶ月を過ぎても受理されないわけではなく、遅れて提出しても開業届は受け付けられます。ただし注意点として、青色申告を希望する場合は、開業日から2ヶ月以内に「青色申告承認申請書」を別途提出する必要があります。節税を見越して青色申告を予定している方は、開業届と同時に申請書も出すようにしましょう。
Q.開業届はさかのぼって提出できる?
可能です。実際の開業日を過去の日付として記入することで、開業届をさかのぼって提出することができます。ただし、あまりにも過去の日付に設定した場合、記帳の証明や収入の裏付けが必要になる場合があり、税務署から説明を求められることもあります。また、青色申告の申請書と提出タイミングの整合性が取れないと、その年の青色申告が認められない可能性もあるため、なるべく開業のタイミングに近い時期での提出が理想です。
Q.職業欄には何と書けばよい?
職業欄には、自分が主に行う業務内容を端的に表す言葉を記入します。たとえば、ライターであれば「Webライター」、デザイナーであれば「グラフィックデザイナー」、動画編集者であれば「動画編集業」といった形が適切です。「フリーランス」や「自営業」などの表現は抽象的すぎるため避けた方が無難です。複数の業務を行っている場合でも、主な業務内容を1つに絞って記載すれば問題ありません。
フリーランスとしての第一歩に開業届を活用しよう

開業届は、フリーランスとしての活動を公的に届け出る第一歩であり、節税対策や社会的信用の確保、将来の備えの面でも多くのメリットがあります。一方で、失業手当や扶養条件への影響、帳簿作成など注意すべき点もあるため、自分の状況に合わせて判断することが大切です。
提出しなくても大きな罰則はありませんが、開業届を出すことで得られる制度やチャンスは非常に多く、フリーランスとして長く安定して働くためには、できるだけ早く提出しておくことをおすすめします。
迷ったときは、税務署や専門家に相談しながら準備を進めていきましょう。開業届は、あなたの事業を形にする最初のステップです。