個人事業主が加入を検討すべき保険はある?おすすめの保険を紹介

個人事業主として活動するうえで、万が一のリスクに備える保険の加入はとても重要です。会社員と違い、病気やケガで働けなくなった際の補償がなく、損害賠償や事業の継続に影響する場面も自分で備える必要があります。しかし、保険にはさまざまな種類があり、「どれに入るべきか分からない」という方も多いはず。本記事では、個人事業主が検討すべき保険の種類やおすすめの保険商品についてわかりやすく解説します。

個人事業主に保険は必要?その理由をわかりやすく解説

個人事業主に保険は必要?その理由をわかりやすく解説

個人事業主として独立した働き方を選んだ人にとって、「保険に入るべきかどうか」は避けて通れないテーマです。保険料の支払いは負担に感じられるかもしれませんが、公的な保障が限られている個人事業主にとって、民間保険の活用はリスクに備える有効な手段です。

本記事では、会社員と個人事業主の保険制度の違いを整理した上で、なぜ保険の加入が必要なのかを解説します。とくに「傷病手当」「雇用保険」「老後の年金」など、会社員時代には当然のように享受できた保障が、個人事業主になった瞬間に失われる点には注意が必要です。

会社員との社会保険の違い

会社員が加入しているのは「厚生年金保険」や「健康保険(協会けんぽや組合健保)」など、手厚い社会保険制度です。これらは企業と従業員で保険料を折半し、傷病時の手当や出産・老後などに備えることができます。

一方、個人事業主が加入する公的保険は「国民年金」と「国民健康保険」が基本です。これらはあくまで「基礎的な保障」にとどまり、受け取れる年金額も少なく、保険料も全額自己負担となります。会社員と比べると、その保障の差は歴然です。

また、会社員であれば厚生年金の加入により将来的な年金額が上積みされますが、個人事業主にはその制度がありません。国民年金のみで老後を支えるには不安が残るため、補完的に民間保険への加入を検討する人も増えています。

さらに、会社員が加入する健康保険には「傷病手当金」や「出産手当金」がありますが、国民健康保険にはこうした給付が存在しない点も見逃せません。

傷病手当・労災保険・雇用保険の不在

個人事業主にとって最大のリスクのひとつが、ケガや病気による「働けなくなること」です。会社員であれば、業務外の病気やケガでも「傷病手当金」により最長1年6か月、給与の約2/3相当の金額が支給されます。これは健康保険に標準で付帯している保障です。

しかし、国民健康保険には傷病手当金の制度がありません。つまり、個人事業主が病気やケガで仕事ができなくなった場合、その期間中の収入はゼロになります。特に単身で事業を営んでいる個人事業主にとって、このリスクは深刻です。

また、労災保険や雇用保険も、原則として個人事業主は対象外です。会社員であれば、業務中のケガや通勤中の事故は「労災」として手厚い保障を受けられますし、失業しても一定期間「失業給付金」が支給されます。しかし、個人事業主にはこれらの制度が適用されず、いわば「無防備」な状態で日々働くことになります。

ただし、労災保険に関しては「特別加入制度」により、一定の業種では個人事業主も任意で加入可能です。これは建設業や運送業など、労災リスクの高い職種の方には特におすすめの制度です。

老後や万が一への備えが不十分

年金制度についても、会社員と個人事業主では大きな差があります。会社員は「厚生年金保険」により、老後に受け取る年金額が国民年金の倍以上になるケースもあります。一方、個人事業主は「国民年金」のみの加入となるため、満額でも年間約80万円(令和6年度時点)という水準にとどまります。

この金額で老後の生活をまかなうのは難しく、追加的な資産形成が必要不可欠です。民間の「個人年金保険」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」など、老後資金を積み立てられる制度を活用し、早めに備えることが求められます。

さらに、個人事業主が万が一亡くなった場合、残された家族に支給される「遺族年金」も国民年金のみでは手薄です。会社員のように「遺族厚生年金」はなく、「遺族基礎年金」が対象となりますが、子どものいる配偶者など、受給対象が限られており、金額も少ないです。

このように、個人事業主は公的保険だけでは到底備えきれないリスクを多く抱えています。したがって、民間の保険商品を活用して、万が一に備える体制を構築することが重要です。医療保険・就業不能保険・収入保障保険など、ライフステージや職業に合わせた保険を選ぶことで、安心して事業に専念できる環境を整えることができます。

参考:個人事業主やフリーランスが入るべき保険は?民間保険についても解説

加入必須!個人事業主が入るべき公的保険とは

加入必須!個人事業主が入るべき公的保険とは

個人事業主として活動を始めると、会社員時代に当然のように加入していた社会保険の多くから外れることになります。特に「健康保険」や「年金」は、退職と同時に脱退手続きが必要となり、自ら手続きをして新たな保険に加入しなければなりません。

ここでは、個人事業主が必ず加入しておくべき「公的保険制度」について、それぞれの概要や加入方法、押さえておくべきポイントを解説します。

国民健康保険

個人事業主として独立した際に、まず加入しなければならないのが「国民健康保険」です。これは医療費の一部を公的に補助してくれる制度で、市区町村が運営主体となっています。

会社員が加入する健康保険(協会けんぽや組合健保)に比べると、自己負担が大きくなる傾向がありますが、病院にかかった際の負担軽減や高額療養費制度など、基本的な医療保障は同様に受けられます。

保険料は前年度の所得などに応じて計算され、全額を個人で負担する必要があります。扶養制度がないため、家族がいる場合は家族全員分の保険料もかかる点に注意が必要です。所得の高い個人事業主にとっては負担が重くなりやすいため、節税を意識した収支管理も重要になります。

国民年金・付加年金

老後の生活に備えるために、個人事業主が加入すべき年金制度が「国民年金」です。20歳以上60歳未満のすべての人に加入義務があるため、事業開始時に必ず届け出を行いましょう。国民年金の保険料は定額制で、2025年時点では月額約17,000円程度です(※年によって変動あり)。

ただし、国民年金のみでは将来的に受け取れる年金額が少なく、老後の生活を支えるには不十分と言えます。そこでおすすめしたいのが、「付加年金制度」です。これは月額400円を追加で納めることで、将来的に「200円×納付月数」の年金額が上乗せされる制度です。

たとえば20年間(240か月)付加年金を納めた場合、年間48,000円が追加で支給されることになります。受給開始から2年程度で元が取れる計算になるため、老後の備えとして非常に効率的な制度といえるでしょう。

また、さらなる備えを考える方には、iDeCo(個人型確定拠出年金)や国民年金基金などの私的年金制度との併用もおすすめです。

介護保険

40歳以上になると、個人事業主であっても「介護保険」の加入が義務付けられます。介護保険は、将来的に要介護状態になった際の介護サービスを公的にサポートする制度で、原則として国民健康保険に加入している人も自動的に介護保険料を支払う形になります。

介護保険料は、所得や自治体によって異なりますが、年金とは別に定期的に徴収されます。要介護状態になった際には、訪問介護、施設介護、福祉用具の貸与など幅広いサービスが一部自己負担で利用可能になります。

高齢化が進む現代社会において、介護保険は非常に重要な制度であり、40歳を迎えたらしっかりと備えておくべき保険のひとつです。

労災保険の特別加入制度

通常、労災保険は会社員など雇用される立場の人が対象となる制度ですが、一部の個人事業主は「労災保険の特別加入制度」によって保障を受けることができます。

特別加入の対象となるのは、建設業、運送業、農業、林業、漁業などの「一定の危険を伴う業種」で働く人や、いわゆる「一人親方」として活動している人などです。特別加入によって、業務中の事故やケガが労災として認定されれば、治療費や休業補償、障害補償などの給付が受けられます。

加入のためには、各業種ごとに指定された事業団体や協会などを通じて申請を行う必要があります。保険料は業種や収入に応じて異なりますが、非常に手厚い補償が受けられるため、該当する職種の個人事業主には特におすすめです。

参考:個人事業主が入るべき社会保険やリスクに備える保険制度について、活用するメリットを解説

民間で備えるべきリスクとおすすめ保険

民間で備えるべきリスクとおすすめ保険

個人事業主は、公的な社会保険だけでは多くのリスクに対応できません。特に、病気やケガ、死亡、老後、火災・事故などの突発的な出来事には、民間の保険での備えが必要不可欠です。この章では、個人事業主が直面する代表的なリスクと、それに対応できるおすすめの民間保険を紹介します。

病気やケガで働けないときの保険

医療保険

医療保険は、病気やケガによる入院や手術にかかる医療費を補償してくれる保険です。個人事業主は会社員と違い、休業中の所得保障がないため、万が一の入院時にも仕事ができず収入が途絶える可能性があります。そのため、医療費の補填だけでなく、生活費の支出に備えるという点でも重要です。

医療保険の選び方のポイントは以下の通りです。

  • 入院日額の設定(目安は5,000〜10,000円)
  • 通院保障の有無
  • 手術・先進医療の補償範囲
  • 保険料の支払い期間(終身・定期)
  • 給付金の受取条件や支払い方法(実費型か定額型か)

とくにフリーランスや個人事業主は、入院が長引いた場合に事業収入がゼロになるリスクがあるため、できるだけ早いタイミングで医療保険に加入しておくと安心です。

就業不能保険・所得補償保険

医療保険が医療費の補填に特化しているのに対し、就業不能保険や所得補償保険は「働けない間の収入」を補うための保険です。うつ病や脳卒中などの長期療養が必要な病気は、特に個人事業主にとって致命的になりかねません。

就業不能保険では、所定の就業不能状態が継続した場合に月額10万円〜30万円程度の給付が受け取れるプランが主流です。一方、所得補償保険では、あらかじめ設定した年収の一定割合が補償される形になっています。

このような保険は、開業後の安定期に入った段階で導入するのがベスト。職業別に加入条件や保険料が異なるため、見積もり時には自身の職種やリスクに合ったプランを検討しましょう。

参考:個人事業主に民間保険はいらない?おすすめの保険を紹介

万が一に備える保険

万が一に備える保険

定期保険・収入保障保険

万が一の死亡時に備える保険として代表的なのが「定期保険」と「収入保障保険」です。どちらも遺族の生活を支えるために必要な保障であり、とくに子どもがいる個人事業主や一家の大黒柱である場合は必須です。

  • 定期保険は一定期間内に死亡した場合に、まとまった保険金が一括で支払われます。
  • 収入保障保険は、死亡後に毎月一定額の保険金を受け取る仕組みで、遺族の生活費を定期的に補うのに向いています。

いずれも保障内容に対して保険料が安く、必要な期間だけ加入できるため、費用対効果の面でも優れた選択肢です。

終身保険・養老保険

老後の資金づくりや資産形成も兼ねて「貯蓄型」の保険を検討する場合、終身保険や養老保険があります。

  • 終身保険は一生涯の死亡保障があり、解約時には一定の返戻金が受け取れます。
  • 養老保険は契約期間満了までに生存していれば、満期保険金としてまとまった金額が支払われます。

これらは「資産の一部を保険で運用したい」という目的にマッチする保険です。ただし、保険料はやや高めになる傾向があるため、無理のない支払い計画が必要です。

参考:個人事業主が加入を検討すべき保険を徹底解説!

老後の生活資金を準備する保険

老後の生活資金を準備する保険

個人年金保険

公的年金だけでは将来が不安な個人事業主にとって、個人年金保険は重要な選択肢です。一定の期間、保険料を支払い、60歳や65歳以降に年金形式で給付を受ける仕組みです。

  • 毎月一定額を受け取れる「確定年金型」
  • 生存している限り受け取れる「終身年金型」

などがあり、老後の生活設計に応じて選べます。掛け金は生命保険料控除の対象となるため、節税効果もあります。

iDeCo・国民年金基金

より税制メリットを重視したい個人事業主には、「iDeCo(イデコ)」や「国民年金基金」もおすすめです。

  • iDeCoは拠出金が全額所得控除の対象となり、老後資金を運用しながら税負担を抑えることができます。
  • 国民年金基金は、国民年金に上乗せできる公的な年金制度で、加入者の年齢や性別に応じて年金額が決まります。

両者とも老後の年金額を補完する手段として有効であり、資産形成を本格的に考えるなら早期加入が鍵です。

自宅・事業用設備を守る保険

火災保険・地震保険

自宅兼事務所や作業場を持つ個人事業主にとって、建物や設備を守る保険も重要です。特に地震大国・日本では、火災保険や地震保険への加入は必須レベルといえるでしょう。

  • 火災保険は、火事や風災、水漏れなどによる建物や家財への被害を補償
  • 地震保険は、地震・津波・噴火などによる被害に対応

事業用機材や商品などの動産を補償対象に含められる場合もあるため、契約時には事業用途を伝えて内容をカスタマイズすると良いでしょう。

損害賠償などに備える保険

損害賠償保険・PL保険・情報漏洩保険

個人事業主がトラブルの当事者になることも想定し、対人・対物の損害賠償に備える保険も視野に入れましょう。

  • 損害賠償保険は、業務上のミスや過失で他人に損害を与えた場合に補償します。
  • PL保険(生産物賠償責任保険)は、自社製品やサービスが原因で事故が発生した際の補償です。
  • 情報漏洩保険は、顧客データや機密情報の流出による賠償責任に対応します。

これらの保険は、特に取引先と契約を交わす業種や、IT系・製造業・デザイン業などに従事している個人事業主には強く推奨されます。賠償額が高額になるリスクを考えると、保険料を上回る安心感が得られるはずです。

参考:自営業者が入るべき保険は?加入しない場合のリスクやおすすめの保険を紹介

共済制度や代替制度の活用も検討しよう

共済制度や代替制度の活用も検討しよう

個人事業主が保険で備えるべきリスクは多岐にわたりますが、公的保険や民間保険に加えて、共済制度各種代替制度を活用することで、より低コストで効率的な保障を得られる場合があります。とくに収入が安定しにくい個人事業主にとって、掛金負担が軽く税制メリットもある共済制度は非常に魅力的な選択肢です。

この章では、代表的な3つの制度として「小規模企業共済」「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」「フリーランス協会などの団体保険」について、それぞれの仕組みとメリットを解説します。

小規模企業共済

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者のための退職金制度として、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営している制度です。掛金は月額1,000円〜7万円の範囲で自由に設定でき、全額が所得控除の対象となるため、強力な節税効果を得られます。

【主な特徴】

  • 掛金は月1,000円から7万円まで自由に設定可能
  • 事業廃止や老齢時に「共済金(退職金)」として一括または分割で受け取れる
  • 掛金は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)
  • 途中で掛金の増減・停止・再開も可能
  • 一定年数以上の加入で、元本割れのリスクがなくなる

特に、事業廃業時に退職金を受け取れる点は、会社員の退職金制度に代わるものとして非常に有用です。受け取る共済金は退職所得扱いまたは公的年金等の雑所得扱いとなり、税制上の優遇も受けられます。

現時点で将来の資金計画を立てていない方は、この制度を活用することで「退職金の準備+節税」を同時に叶えることができるでしょう。

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)

経営セーフティ共済は、「取引先の倒産による連鎖倒産」から事業者を守るための共済制度です。中小企業や個人事業主が対象で、万が一取引先が倒産した場合に、無利子・無担保で掛金の10倍まで借り入れが可能という非常に実用的な制度です。

【主な特徴】

  • 掛金は月額5,000円〜20万円、最大800万円まで積立可能
  • 掛金は全額損金(法人)または必要経費(個人)として計上可能
  • 取引先が倒産した際、積立額の10倍(最高8,000万円)まで借り入れ可能
  • 解約時には積立金が返戻金として戻る(掛金納付12か月以上)

取引先が急に倒産して売掛金が回収できない場合、経営の継続に致命的な影響が出る可能性があります。こうした「連鎖倒産」を未然に防ぐ手段として、この制度は非常に効果的です。

また、掛金が経費として認められるため、節税効果も高く、実質的な負担は軽減されます。一定の積立年数を満たせば解約時に掛金相当額が返ってくるため、保険的機能と積立機能の両方を兼ね備えている点も大きな魅力です。

「リスクヘッジ+資金繰り対策+節税」の三拍子が揃ったこの制度は、安定経営を目指す個人事業主にこそ活用してほしい制度です。

フリーランス協会などの団体保険

民間保険と公的保険の中間的な位置づけとして、フリーランス協会などが提供する団体保険も注目されています。こうした団体は、個人で活動するフリーランスや個人事業主のために、割安で加入できる保険や福利厚生サービスを提供しています。

代表的な団体が「一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(通称:フリーランス協会)」で、以下のような保険をセットで利用できます。

【フリーランス協会の保険内容(一例)】

  • 就業不能補償(病気・ケガで働けなくなった際の所得保障)
  • 損害賠償保険(納品物の瑕疵や情報漏洩などに備える)
  • 弁護士費用保険
  • 死亡・後遺障害保険
  • 労災特別加入サポート

個人事業主が単独でこれらすべてに加入しようとすると、相当な保険料がかかりますが、協会経由であれば年会費1万円前後で幅広い保障が利用可能になります。さらに、確定申告サポートや仕事獲得支援など、保障+ビジネス支援という側面もあるのが特徴です。

特にクリエイター・エンジニア・ライター・デザイナーなど、リモート業務が中心の個人事業主には非常にマッチした制度です。

以上のように、個人事業主が利用できる共済制度や代替制度には、公的保険・民間保険ではカバーしきれないニーズに応える工夫が凝らされています。小規模事業者としてのリスクを最小限に抑えつつ、節税や資産形成の手段としても活用できるため、保険との併用を前提に検討しておくべき選択肢です。

参考:個人事業主・自営業に必要な保険は?就業不能保障はフリーランス必須

保険料は経費にできる?確定申告時の取り扱い

保険料は経費にできる?確定申告時の取り扱い

個人事業主が保険に加入する際、気になるのが「保険料は経費として計上できるのか」という点です。事業活動を行う上で必要な保険であれば、支払った保険料を必要経費として計上し、所得税の節税につなげることができます。

ただし、すべての保険料が経費になるわけではなく、「事業用か私用か」「補償内容がどこに該当するか」などをもとに判断されます。以下で、経費にできる保険とできない保険の違いや、勘定科目・按分の考え方について詳しく見ていきましょう。

経費にできる保険とできない保険

個人事業主が加入する保険のうち、事業に直接関係するものや従業員のために加入するものは「必要経費」として認められます。代表的な経費対象の保険は以下の通りです。

経費にできる保険の例

  • 損害賠償保険(事務所の事故対応、業務ミスによる賠償など)
  • 火災保険・地震保険(事務所や事業用機材の保全目的)
  • 自動車保険(業務利用の車にかかる保険)
  • 情報漏洩保険(業務で取り扱う個人情報に備える)
  • 従業員の傷害保険・生命保険
  • 小規模企業共済(所得控除の対象)
  • 経営セーフティ共済(必要経費に計上可能)

一方で、以下のような保険は原則として経費にできません

経費にできない保険の例

  • 自分自身や家族の医療保険・がん保険・生命保険
  • 自宅にかけている火災保険・地震保険(事業と無関係な部分)
  • 国民健康保険・国民年金保険(社会保険料控除として申告)

事業に使う目的が明確であっても、プライベートと混在している場合には「全額を経費にする」ことは認められず、「事業に使っている割合のみを按分して経費にする」必要があります。

按分や勘定科目の考え方

保険料を経費に計上する際、重要になるのが「按分(あんぶん)」と「勘定科目」の選定です。

按分の考え方

按分とは、保険料のうち「事業で使用している割合」を算出し、その分のみを経費にする手続きです。例えば、自宅兼事務所の火災保険を例にとると、次のように按分計算します。

【例】

  • 火災保険の年間保険料:40,000円
  • 自宅のうち事業に使用している面積の割合:30%
  • 経費計上できる額=40,000円 × 30%=12,000円

按分比率は、面積や使用時間などの実態に基づいて妥当な基準で決定します。根拠となる図面や使用実態が説明できるよう、記録を残しておくことが望ましいです。

勘定科目の選び方

保険料を帳簿に記録する際は、適切な「勘定科目」で仕訳を行う必要があります。以下はよく使われる勘定科目の一例です。

保険の種類 勘定科目(例)
損害賠償保険、PL保険など 支払保険料
火災保険、地震保険(事業用) 火災保険料/損害保険料
情報漏洩保険 支払保険料
自動車保険(業務用) 車両費
小規模企業共済 小規模企業共済掛金(所得控除)
経営セーフティ共済 共済掛金(必要経費)

なお、個人の医療保険や生命保険などは「経費」ではなく、「生命保険料控除」や「医療費控除」の対象として所得控除で処理される点に注意しましょう。

また、会計ソフトを使っている場合、多くは保険の種類を選ぶだけで勘定科目が自動で選ばれるようになっています。確定申告の際には、ソフトや税理士に相談しながら適切に処理することが重要です。

保険料の経費計上は、節税の観点からも非常に有効です。ただし「なんでも経費にできる」わけではなく、保険の目的や使い方を明確に区分し、適切な処理を行う必要があります。

参考:個人事業主の保険|加入を検討した方がいいおすすめの制度を紹介

よくある質問

よくある質問

Q. 開業直後でも保険に入れる?

はい、開業直後でも多くの保険には加入可能です。医療保険や就業不能保険などの民間保険は、職業や収入実績にかかわらず、個人単位で申し込みが可能です。ただし、一部の所得補償保険や団体向けの制度(例:フリーランス協会など)では、過去の所得証明や確定申告書類の提出を求められることがあります。

また、国民健康保険・国民年金などの公的保険については、開業と同時に加入手続きが必要であり、開業届提出後に自治体または年金事務所で手続きを行います。

Q. 保険に入るタイミングはいつがベスト?

保険加入は「万が一が起きる前」が鉄則です。とくに個人事業主は病気や事故により収入が途絶えるリスクが高いため、開業時に最低限の保険(医療保険・所得補償保険・損害保険など)に加入しておくのが理想です。

また、年齢が若いほど保険料は安く、健康状態が良好な時期ほど加入の審査も通りやすくなります。タイミングを逃すと、持病や既往歴のある状態では加入自体が難しくなる可能性があるため、検討は早いに越したことはありません。

Q. 保険料はいくらが目安?

加入する保険の種類や保障内容によって異なりますが、個人事業主に必要な基本的な保険を網羅する場合、月額で1〜3万円程度を目安とする方が多いです。内訳の一例としては以下の通りです。

保険の種類 月額保険料(目安)
医療保険 3,000円〜8,000円
就業不能保険 5,000円〜12,000円
損害賠償保険 2,000円〜5,000円
火災・地震保険(事業用) 5,000円前後
個人年金保険・iDeCo 5,000円〜2万円(任意設定)

ただし、保険料は事業規模やライフステージによって調整が必要です。無理のない範囲で優先順位をつけて選ぶことが大切です。

Q. どこまでを保険で備えるべき?

「すべてのリスクに備える」ことは理想ですが、現実的にはコストや保障内容とのバランスを取りながら取捨選択する必要があります。

優先すべきは、収入が途絶えるリスクと、高額出費につながるリスクです。具体的には以下の項目が基準となります。

  • ケガや病気で働けなくなった場合の生活費(就業不能保険)
  • 入院・手術などの医療費(医療保険)
  • 遺族の生活保障(生命保険、収入保障保険)
  • 老後資金の積立(個人年金、iDeCo)
  • 業務上の賠償責任(損害賠償保険、PL保険)
  • 事務所や設備への被害(火災・地震保険)

このように、リスクの重大性・発生頻度・影響度をもとに、必要な保険を選ぶことで効率的な備えが可能になります。

参考:個人事業主・フリーランスはどの保険に入るべき?保険の種類や特徴について

まとめ:リスクに備えて、最適な保険選びを

まとめ:リスクに備えて、最適な保険選びを

個人事業主は、会社員と比べて公的な保障が少なく、万が一の際の経済的リスクをすべて自分で負わなければなりません。そのため、医療・就業不能・死亡・老後・災害・賠償といった多方面のリスクに対して、公的保険・民間保険・共済制度を組み合わせて総合的に備えることが大切です。

とくに開業直後は事業に集中するあまり、保険の見直しが後回しになりがちですが、トラブルは予告なく訪れます。早期に最低限の保障を整え、余裕ができたら補完的な保険を追加するというステップが理想的です。

「どこまで保険で備えるか」は人それぞれですが、自分と家族、そして事業を守るために、適切な保障を確保しておくことは大きな安心につながります。コストや保障内容を比較しながら、自分にとって本当に必要な保険を選ぶようにしましょう。

参考:【FP監修】個人事業主に保険はいらない?!おすすめできる制度や経費処理について完全解説