個人事業主の社会保険料はいくら?計算方法や手取り額をパターン別に解説

個人事業主として働くと、会社員とは異なる社会保険の仕組みに直面します。「個人事業主になったら社会保険はいくらかかるのか」「そもそも社会保険に加入する必要はあるのか」といった疑問を持つ方は多いでしょう。この記事では、個人事業主の社会保険について基本から丁寧に解説します。
個人事業主の社会保険とは?まずは制度を正しく理解しよう

社会保険と国民健康保険・国民年金の違い
社会保険とは、国民の生活を保障するために設けられている公的制度の総称です。主に以下の5種類が該当します。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 労災保険
- 介護保険(40歳以上)
会社員であれば、これらの保険のうち「健康保険」「厚生年金保険」「雇用保険」「労災保険」「介護保険」に加入し、保険料は会社と従業員で折半する形が一般的です。
一方、個人事業主には「厚生年金保険」「健康保険」などの「社会保険」は適用されません。代わりに加入するのが「国民健康保険」と「国民年金」です。これらは「自営業者・フリーランス・無職者」など、会社に所属していない人が対象となる制度で、いわば社会保険の“自営業者版”といえる存在です。
したがって、「個人事業主の社会保険はいくらかかるのか」と考える際には、「国民健康保険」と「国民年金」が中心となります。
会社員との違い|保険料の負担は全額自己負担
個人事業主と会社員の最大の違いは、社会保険料の負担割合です。会社員の場合、保険料は事業主と労働者でほぼ折半されるため、毎月の手取りに対する影響は抑えられています。
しかし、個人事業主は事業主=被保険者であるため、保険料は全額自己負担となります。
たとえば、年収500万円の個人事業主が加入する国民健康保険と国民年金の合計保険料は、地域や扶養家族の有無などによって異なるものの、年間で60万〜80万円ほどになるケースもあります。これは、会社員と比較して非常に大きな負担です。
また、会社員に対して支給される「傷病手当金」や「出産手当金」などの保障が、国民健康保険には原則ありません。年金制度についても、厚生年金と異なり「国民年金」は老後の受給額が少ないため、十分な備えが必要です。
つまり、保険料の負担が大きくなるうえに、保障内容は薄くなるというのが、個人事業主にとっての社会保険の実態です。
参考:個人事業主の社会保険料を計算する方法は?納める税金について各種制度ごとに詳しく解説
加入が必要な保険の種類(国民健康保険・国民年金・介護保険など)

個人事業主が原則として加入する必要があるのは、以下の3つの保険です。
1. 国民健康保険(医療保険)
病気やケガの際の医療費を一部負担で受けられる制度です。自治体ごとに保険料が異なり、所得や世帯人数によっても変動します。扶養の概念がないため、家族一人ひとりに保険料がかかるのが特徴です。
保険料は「所得割」「均等割」「平等割」などで構成され、自治体のウェブサイトや窓口でおおよその保険料が確認できます。
2. 国民年金(基礎年金)
20歳以上60歳未満のすべての国民が加入対象です。保険料は全国一律で、2025年時点では月額16,980円(予定)。収入が一定以下であれば、保険料免除や納付猶予の制度もあります。
また、将来の年金受給額を増やすために、「付加年金」や「国民年金基金」「iDeCo」などを活用することもできます。
3. 介護保険(40歳以上)
40歳以上になると介護保険への加入義務が発生します。こちらも国民健康保険とセットで納付する仕組みとなっており、保険料は自治体や年齢によって変動します。
なお、個人事業主が任意で加入できる保険として「労災保険の特別加入制度」があります。これは建設業や運送業など、業務上ケガのリスクが高い職種向けの制度で、中小事業主や一人親方が対象です。
参考:個人事業主の社会保険料っていくら?計算方法や手取り額のシミュレーションも解説
個人事業主が支払う社会保険料はいくら?計算の仕組みを解説

個人事業主として独立したとき、最も気になることの一つが「社会保険はいくらかかるのか」という点でしょう。会社員と違い、個人事業主はすべての社会保険料を自分で負担しなければならず、その負担額は家計に大きく影響します。本章では、個人事業主が支払う主な社会保険である「国民健康保険」「国民年金」「介護保険」の計算方法と金額の目安について詳しく解説します。
国民健康保険料の計算方法|自治体別に異なる
国民健康保険(国保)は、医療費の一部を補助してくれる制度で、個人事業主にとって重要な社会保険のひとつです。ただし、会社員が加入する「健康保険」とは異なり、保険料の計算方法が自治体ごとに異なるのが特徴です。
国民健康保険料は以下の3つの要素で構成されます。
例えば、東京都世田谷区の場合、所得割の率はおおむね7〜9%、均等割・平等割はそれぞれ年間3〜4万円前後です。年収が高くなるほど所得割の負担が重くなるため、年収500万円の個人事業主では年間の国民健康保険料が50万円を超えることも珍しくありません。
また、保険料には上限額が設定されており、令和6年度(2024年度)の全国平均では約102万円程度となっています。各自治体の保険料率や上限額は、自治体のホームページで確認できます。
なお、所得の少ない世帯には「軽減制度」もあり、前年の所得に応じて最大7割まで保険料が軽減される場合があります。特に開業直後の個人事業主は、こうした制度を活用することで保険料の負担を抑えることができます。
国民年金保険料は定額+付加保険料
国民年金は、将来の老齢年金や障害年金、遺族年金を受け取るための基礎的な制度です。会社員が加入する厚生年金とは異なり、個人事業主は全国一律の定額保険料を納付することになります。
令和6年度の国民年金保険料は月額16,980円(年額203,760円)です。これに加えて、任意で「付加保険料」を支払うこともできます。付加保険料は月額400円で、老齢基礎年金の受給額を将来的に増やすことができる仕組みです。
たとえば、付加保険料を20年間支払った場合、老後の年金受給額が年間9,600円(400円×12ヶ月×20年=96,000円)増加します。2年受給すれば元が取れる計算となるため、長く年金を受け取る予定の方にはおすすめの制度です。
また、収入が少ない場合や事情がある場合には、「保険料免除」や「納付猶予制度」も活用できます。これらの制度を使うことで、未納状態を避けながら将来の年金受給権を維持することができます。
参考:個人事業主の国民健康保険料は高すぎる!?保険料を安くする方法とは
介護保険料の対象者と金額の目安
介護保険は、40歳以上のすべての国民に加入義務がある保険で、介護サービスを受けるための資金を支える制度です。個人事業主も40歳になると、国民健康保険と合わせて介護保険料を支払う必要があります。
介護保険料は市区町村ごとに異なり、国民健康保険料と合算して請求されます。所得に応じた「所得段階」が設定されており、年間の介護保険料はおおむね2万円〜9万円程度が相場です。
例えば、東京都23区の場合、40歳以上の国保加入者の介護保険料は以下のように設定されています。
- 所得が低い人:年間20,000円前後
- 所得が中程度の人:年間40,000〜60,000円程度
- 所得が高い人:年間80,000〜90,000円
介護保険も所得に応じた軽減制度があります。特に年金収入や事業所得が少ない高齢者世帯では、保険料が大きく軽減されるケースもあります。
なお、介護保険は「要介護認定」を受けることで、訪問介護・デイサービス・施設入所など多様な介護サービスを1割〜3割負担で利用できます。40代以降の個人事業主にとっては、将来のリスクに備えるための重要な制度といえるでしょう。
年収別の社会保険料と手取りシミュレーション

個人事業主として活動するうえで、社会保険料がどれくらいの負担になるのか、そして最終的な手取りがいくらになるのかは非常に気になるポイントです。ここでは、年収別に国民健康保険料・国民年金保険料・介護保険料(該当者のみ)などの社会保険を含めたシミュレーションを行い、実際の手取りの目安を紹介します。
年収300万円/400万円/500万円のケース
年収300万円の場合
- 国民健康保険料:約25万円
- 国民年金保険料:約20万円
- 所得税・住民税など:約15万円
- 手取り:約240万円
年収300万円台では、保険料や税金の負担がやや軽く済みます。ただし、家族を扶養している場合や自治体によっては、国保の負担が増える可能性もあります。
年収400万円の場合
- 国民健康保険料:約35万円
- 国民年金保険料:約20万円
- 所得税・住民税など:約25万円
- 手取り:約320万円
年収400万円になると、社会保険料も比例して増加します。特に健康保険料の「所得割」が大きくなるため、保険料の負担感が高まります。
年収500万円の場合
- 国民健康保険料:約45万円
- 国民年金保険料:約20万円
- 所得税・住民税など:約35万円
- 手取り:約400万円
年収500万円を超えると、保険料と税負担の合計が100万円近くに達するケースもあり、節税対策の検討が重要なフェーズになります。
年収700万円/1,000万円以上のケース
年収700万円の場合
- 国民健康保険料:約60万円
- 国民年金保険料:約20万円
- 所得税・住民税など:約70万円
- 手取り:約550万円
この年収帯では、保険料の上限に近づきつつあり、国保の負担が特に重くなります。また、介護保険料の負担も加わるため、年間の社会保険料は80万円を超える可能性があります。
年収1,000万円の場合
- 国民健康保険料:約100万円(上限適用)
- 国民年金保険料:約20万円
- 所得税・住民税など:約130万円
- 手取り:約750万円
国保の保険料は上限があるため、年収1,000万円を超えても保険料の増加は頭打ちになりますが、税金の割合がさらに大きくなるため、可処分所得に対する税・保険負担率は上昇します。このゾーンに入ると「法人成り(法人化)」を検討する事業主も多くなります。
税金・保険料込みでの手取り早見表
※上記は独身・扶養なし、東京都23区在住を想定したモデルケースです。実際の金額は自治体や家族構成、控除内容により大きく異なります。
参考:個人事業主・フリーランスの手取りはいくら?税金や保険料もシミュレーション!
保険料が高すぎる?社会保険料を抑える方法

個人事業主として独立したものの、「社会保険料が高すぎて手取りが少ない」と感じている人は少なくありません。会社員と異なり、保険料を全額自己負担する個人事業主にとって、国民健康保険や国民年金の支払いは家計を圧迫する大きな要因です。とはいえ、制度を正しく理解すれば、負担を軽減する方法は存在します。本章では、個人事業主が社会保険料を抑えるために使える主な対策を紹介します。
所得控除で税負担を軽減する
直接的に「社会保険料」を減らす方法ではありませんが、所得控除を活用することで、実質的な税負担を軽減し、手取りを増やすことが可能です。特に、個人事業主が対象となる以下の控除は、社会保険料を支払った人にとって重要な節税手段になります。
社会保険料控除
支払った国民健康保険料や国民年金保険料は、全額が「社会保険料控除」として所得から差し引かれます。これにより、所得税と住民税の課税所得が減り、税負担が軽くなります。たとえば年間70万円の保険料を支払った場合、約10〜15万円程度の税額軽減効果が期待できます。
小規模企業共済やiDeCoの活用
小規模企業共済やiDeCo(個人型確定拠出年金)も、支払った掛金が全額所得控除の対象になります。これにより課税所得を減らし、社会保険料の算定基礎となる所得の圧縮にもつながるケースがあります。加えて、将来の備えとして老後資金の形成にも役立つため、積極的な活用が推奨されます。
青色申告特別控除(最大65万円)
青色申告を選択すれば、正しく帳簿をつけるだけで最大65万円の特別控除を受けられます。結果として所得が減り、税金だけでなく、所得に連動する国民健康保険料の負担軽減にもつながります。
このように、所得控除は「保険料の負担そのもの」を減らすわけではないものの、実質的な可処分所得を増やす有効な手段といえます。
国民健康保険料の軽減・減免制度を活用する
国民健康保険料は、自治体が定める計算式により算出されるため、収入が上がるほど保険料も高くなります。しかし、収入が一定以下の世帯や、失業・減収などの特別な事情がある世帯には、軽減・減免制度が設けられています。
所得による保険料軽減(均等割・平等割の軽減)
所得が一定基準以下であれば、「均等割」や「平等割」といった定額部分が最大7割軽減されます。たとえば、前年の所得が43万円以下であれば、3割〜7割の軽減が適用されることがあります。これは開業1年目や収入が不安定な時期の個人事業主にとって、大きな支えとなります。
特別な事情による減免(災害・失業など)
以下のような状況に該当する場合、特別な減免制度が適用されることがあります。
- 自然災害や火災などで被害を受けた
- 廃業や失業により収入が激減した
- 大病や入院により収入が著しく減った
これらの減免申請は、市区町村の窓口で受け付けられており、状況に応じて保険料の一部または全額が減額されることもあります。
学生や未成年の扶養家族の減額
国民健康保険には扶養という概念がないため、学生であっても保険料が発生しますが、自治体によっては学生を対象とした軽減措置を行っている場合があります。子どもを扶養している個人事業主は、こうした制度もチェックしておくとよいでしょう。
国民健康保険組合への加入を検討する
個人事業主のなかでも、特定の業種(例:文芸、美術、建築、医療、理美容など)に従事している場合、国民健康保険組合(国保組合)への加入を検討するのもひとつの方法です。
国保組合とは、同業種の事業者を対象にした独自の保険制度で、一般の市町村国保よりも保険料が割安に設定されていることが多く、給付内容も手厚い傾向があります。
国保組合のメリット
- 保険料が月額固定のため、所得が高くても保険料が増えない
- 傷病手当金などの付加給付があるケースもある
- 家族の保険料も割安になる場合がある
例えば、東京都文芸美術国民健康保険組合では、2024年度の保険料が月額19,600円(本人)と固定で、年間保険料が約24万円程度に抑えられます。年収が500万円以上の事業主であれば、市町村の国民健康保険よりも数十万円の差が出ることもあります。
加入条件と注意点
ただし、加入には一定の業種要件や団体の推薦が必要な場合があります。また、退会後は通常の国民健康保険への切り替えが必要になるため、加入前にメリット・デメリットを十分に確認することが大切です。
参考:個人事業主の社会保険料は?社会保険の種類や保険料の計算方法を徹底解説
法人化した場合の社会保険の違いと比較

個人事業主として一定の収益が出てくると、「法人化すべきか」「法人化したら社会保険はいくらになるのか」といった悩みを抱える方が増えてきます。法人化には税務面や信用力の向上といったメリットがありますが、社会保険の扱いも大きく変わります。本章では、法人化によって変わる社会保険制度のポイントを整理し、個人事業主との違いを明確にしていきます。
法人化すると社会保険に強制加入
個人事業主の場合、社会保険への加入は原則として「国民健康保険」と「国民年金」が基本で、任意加入の労災保険などを除けば、強制的に加入しなければならない制度は限られています。
しかし、法人化した場合は状況が大きく異なります。法人の代表者(=事業主本人)であっても、役員報酬を受け取る限り、原則として健康保険・厚生年金保険に加入しなければならないという義務が発生します。
この「強制加入」は、会社の規模や従業員数に関係なく適用されます。つまり、一人社長や小規模法人であっても、社会保険(狭義の社会保険=健康保険・厚生年金)への加入が求められるのです。
加入する保険は以下の通りです:
- 健康保険(協会けんぽ または 健康保険組合)
- 厚生年金保険
- 労災保険(※事業主は対象外)
- 雇用保険(※原則として役員は対象外)
社会保険料は会社と役員(または従業員)で折半となるため、事業主側としての負担も増加します。一方で、保障内容や将来の年金額は個人事業主よりも手厚くなるというメリットもあります。
役員報酬にかかる健康保険・厚生年金の例
法人化後、役員報酬に応じて社会保険料が決まることになります。以下は、2024年度の保険料率をもとにした東京都の一例です(協会けんぽ加入の場合)。
※ 上記金額は概算であり、保険料率や等級によって若干の変動があります。
健康保険料と厚生年金保険料は役員本人と会社の両方が同額ずつ負担するため、実質的には上記の倍の額を会社として支払う必要があります(たとえば月額報酬50万円の場合、約14万円を保険料として拠出することになります)。
手取り額と保障内容の違いを比較
法人化によって保険料の負担は増えるものの、実際に得られる「保障」も大きく変わります。ここでは、個人事業主と法人化後の手取り額および社会保険のメリット・デメリットを比較してみましょう。
手取り額の比較(年収500万円の場合)
※法人化では報酬額が課税対象になるため、同じ年収でも手取り額は若干減少する傾向にあります。
保障内容の違い
特に注目すべきは、法人化により「傷病手当金」や「出産手当金」といった万が一の際の保障が追加されることです。また、厚生年金は国民年金よりも受給額が多く、老後の生活安定にもつながります。
法人化で得られる「保険と税金」の最適化
社会保険料の負担が増える法人化ですが、役員報酬の設定次第では保険料を抑えながら、必要な保障を確保することも可能です。たとえば、役員報酬を月額45,000円程度に抑えることで、社会保険料の負担を最小限にしつつ、法人の利益として残すことで税金対策も図れます(いわゆる「マイクロ法人」戦略)。
法人化にはコストや手間も伴いますが、社会保険の観点から見ても、一定の年収を超える個人事業主にとっては検討する価値が十分にあります。次章では、社会保険料の会計処理や確定申告時の控除方法について解説していきます。
参考:マイクロ法人で節約できるのは収入いくらから?社会保険料最安を狙おう
個人事業主の社会保険料は経費になる?確定申告との関係

個人事業主が支払う国民健康保険料や国民年金保険料は、毎年まとまった金額になるため、「この保険料は経費にできるのか?」と疑問を持つ方も多いでしょう。結論からいえば、これらの社会保険料は経費ではなく、「所得控除」として確定申告で申告することで税負担を軽減する仕組みとなっています。本章では、社会保険料控除の仕組みと、経理処理・確定申告時の注意点について詳しく解説します。
社会保険料控除の概要と適用範囲
個人事業主が支払った社会保険料は、所得控除のひとつ「社会保険料控除」として、確定申告の際に適用することができます。これは経費として処理するのではなく、「所得金額から差し引く」ことで税額を減らす方式です。
控除対象となる保険料の種類
- 国民健康保険料
- 国民年金保険料
- 介護保険料(40歳以上)
- 国民年金基金の掛金
- 後期高齢者医療保険料
- 介護保険料(扶養家族の分も含む)
- iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金
- 小規模企業共済の掛金
これらはすべて、納付者本人だけでなく、生計を一にする配偶者や家族の分を支払った場合でも控除対象に含めることが可能です。たとえば、同居する親の国民健康保険料を本人が支払った場合、その保険料も社会保険料控除として申告できます。
保険料の仕訳と経費処理のポイント
会計ソフトなどで記帳を行う際に、国民健康保険料や国民年金保険料を「経費」として処理してしまうと、税務上誤りとなるため注意が必要です。社会保険料は経費ではなく、事業主勘定(事業主貸)で処理するのが正しい方法です。
記帳の例(青色申告・複式簿記の場合)
- 【借方】事業主貸 70,000円
- 【貸方】普通預金 70,000円
このように、あくまで事業主個人の生活費の一部として支払われたものとして扱います。これにより、青色申告決算書や収支内訳書には経費として計上されず、確定申告書で所得控除として控除を適用する流れになります。
なぜ経費にできないのか?
経費とは、事業に直接必要な支出に限られるという原則があります。国民健康保険や国民年金などの社会保険料は、生活全般の保障に関する支出と見なされるため、個人の費用であり経費とはなりません。その代わり、税負担を軽くする目的で、所得控除という形で取り扱われているのです。
控除を受けるための申告方法
社会保険料控除を受けるには、確定申告書の「所得控除」欄に正確に記載する必要があります。ここでは、申告の手順を具体的に解説します。
必要書類の準備
控除を受けるには、以下のいずれかの証明書類が必要です。
- 国民年金保険料の「社会保険料控除証明書」(日本年金機構から郵送)
- 国民健康保険料の「納付済額のお知らせ」(自治体から発行)
- 小規模企業共済やiDeCoの支払証明書
これらの証明書に記載された金額をもとに、正確に控除額を計算します。
申告書の記入方法(e-Tax・紙提出共通)
- 確定申告書の「所得から差し引かれる金額」欄にある「社会保険料控除」の項目を確認
- 該当する支払額(自分・配偶者・家族分)を合計して記入
- 添付書類台紙に控除証明書を貼付(紙提出の場合)
- e-Taxの場合は、証明書に記載された情報を入力するだけで完了
控除額の上限は?
社会保険料控除に上限はなく、支払った実額が全額控除対象となります。たとえば年間に国民年金保険料を20万円、国民健康保険料を50万円支払っていた場合は、合計70万円分が所得から差し引かれる形になります。
この控除により、課税所得が減少し、結果として所得税・住民税の負担が軽くなります。年収が多いほど節税効果も大きくなるため、忘れずに申告しましょう。
社会保険料は「経費ではないが控除で取り戻す」が基本
個人事業主の社会保険料は、日々の生活に不可欠な支出である一方、事業に直接関わる経費ではないため、帳簿上の処理と申告方法を正しく理解しておくことが重要です。確定申告時に正しく控除を適用することで、数万円〜数十万円の税負担を軽減できる可能性があります。
参考:個人事業主が加入する社会保険はどれ? 種類と加入方法やメリットも解説
個人事業主の社会保険に関するよくある質問

Q. 国民健康保険と社会保険は何が違う?
国民健康保険は、個人事業主や自営業者、無職の人などが加入する医療保険制度です。一方、社会保険とは健康保険・厚生年金保険などを含む広義の制度を指し、主に会社員や法人の役員が加入します。
主な違いは以下の通りです。
会社員が受けられる保障の多く(例:傷病手当金や出産手当金)は、国民健康保険では原則対象外です。そのため、保障の充実度では社会保険の方が優れています。
Q. 配偶者を扶養に入れられる?
個人事業主が国民健康保険に加入している場合、「扶養」という制度はなく、家族1人ひとりに対して保険料がかかります。つまり、収入がない配偶者であっても、同様に保険料を支払う必要があります。
一方、法人化して社会保険(協会けんぽなど)に加入すると、条件を満たせば配偶者を扶養に入れることが可能になります。これにより、配偶者分の保険料負担が発生せず、手取り額に対する社会保険料の負担を軽減することができます。
扶養の認定条件は、配偶者の収入が130万円未満であることなどが基本です。
Q. 社会保険料を払えないとどうなる?
社会保険料(特に国民健康保険料や国民年金保険料)を滞納した場合、以下のようなリスクがあります。
- 督促状の送付や延滞金の加算
- 給付制限(保険証の返還や一部負担の増加)
- 差押えなどの強制徴収(長期滞納時)
国民年金については、保険料免除や納付猶予制度を利用することで、未納状態を回避できます。国民健康保険も、収入の減少や生活困窮を理由に、減免制度を活用できる場合があります。
支払いが難しい場合は、早めに市区町村の窓口に相談することが重要です。滞納を放置すると、生活への影響が大きくなるため注意しましょう。
参考:個人事業主は社会保険に加入できる?民間の保険をおすすめする理由も解説
まとめ:社会保険料を理解し、手取りとのバランスで判断を

個人事業主にとって、社会保険料は毎年確実に発生する大きな支出です。とくに国民健康保険料や国民年金保険料は、収入に比例して増加し、保障内容のわりに負担が大きいと感じる方も多いでしょう。
しかし、所得控除の活用や軽減・減免制度、さらには国保組合の加入といった工夫によって、社会保険料の負担を抑えることは可能です。また、一定の収入を超える段階で法人化を選択すれば、手取りとのバランスを考慮した保険戦略も立てやすくなります。
大切なのは、「いくら払うか」だけでなく、「いざという時にどこまで備えられるか」を含めて社会保険制度を理解すること。自身の収入や将来設計に合わせて、最適な保険加入・納付の形を見極めていきましょう。