フリーランスが加入する社会保険は?会社員との違いや必要手続きを解説

フリーランスとして独立すると、会社員時代とは異なり社会保険の仕組みも大きく変わります。健康保険や年金などは自分で加入・手続きを行う必要があり、保険料の負担や保障内容にも違いがあります。「どの保険に入ればいいの?」「手続きはどうするの?」と戸惑う方も多いでしょう。
本記事では、フリーランスが加入すべき社会保険の種類や、会社員との違い、必要な手続きについてわかりやすく解説します。
フリーランスが加入する社会保険の種類

フリーランスになる際に特に気をつけたいのが社会保険の扱いです。会社員時代とは異なり、フリーランスは社会保険の手続きを自ら行う必要があり、どの保険に加入すべきかをきちんと理解しておく必要があります。
フリーランスの社会保険は大きく分けると、加入が義務付けられている保険と、任意で加入することが可能な保険に分けられます。それぞれの保険の種類と特徴を詳しく見ていきましょう。
フリーランスが加入必須の社会保険とは?
フリーランスが必ず加入しなければならない社会保険は、主に以下の2つです。
1つ目は「国民健康保険」です。国民健康保険は、公的な医療保険制度の一つで、病院や診療所での治療を受ける際の医療費の自己負担を軽減する役割があります。フリーランスとして開業すると会社員時代に加入していた健康保険から脱退し、各市町村が運営する国民健康保険に切り替える必要があります。
国民健康保険の保険料は所得に応じて変動し、自治体によって計算方法や保険料率が異なるため、居住地によって保険料に大きな差が出ることもあります。そのため、フリーランスとして開業を検考える際は居住地の国民健康保険料についても確認しておくことが重要です。
2つ目は「国民年金」です。フリーランスは厚生年金に加入することができず、国民年金への加入が義務付けられます。国民年金は日本に居住する20歳以上60歳未満のすべての人が加入する公的年金制度であり、老後の生活保障や障害・遺族年金といった給付を受けるための重要な社会保険です。
2024年度の国民年金の保険料は月額16,980円となっていますが、収入が低いなど一定の条件を満たす場合は、保険料の免除や減額制度を利用することも可能です。保険料を払えない場合には必ず早めに手続きを行い、滞納を避けることが大切です。
フリーランスが任意で加入できる社会保険とは?
次に、フリーランスが任意で加入することのできる社会保険について解説します。任意で加入できる社会保険は、フリーランスとしての働き方やライフスタイルに応じて活用するとよいでしょう。
任意加入の社会保険の代表的なものに「国民年金基金」や「付加年金」、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などがあります。
国民年金基金は、フリーランスなど厚生年金に加入できない人のための制度で、国民年金に上乗せする形で給付を受けられるようにするものです。掛け金は加入者自身で設定可能で、老後の安定した生活を目指すフリーランスにとって有効な手段となります。
付加年金もまた国民年金に追加して支払うことのできる制度で、月々400円の保険料を追加で支払うことで、老後の年金額を増やすことができます。手軽に年金額を増やしたい方におすすめです。
また、iDeCo(個人型確定拠出年金)は自分で運用するタイプの年金制度であり、掛け金の全額が所得控除の対象となるため、節税効果が非常に高い制度として注目されています。ただし運用成績に応じて将来の受取額が変動するため、一定のリスクが伴います。
さらに、「労災保険の特別加入制度」も任意で利用できる制度です。フリーランスには本来労災保険が適用されませんが、この特別加入制度を利用すれば業務上のケガや病気に備えることができます。特に建設業や運送業など、事故のリスクが高い職種のフリーランスは加入を検討すると安心です。
任意の社会保険は、義務加入の保険だけではカバーしきれない部分を補い、将来への不安を減らす役割を果たします。フリーランスは自身のライフプランや事業計画に合わせて、適切な任意加入制度を選択し、社会保険の内容を充実させることが重要です。
参考:フリーランスが加入する社会保険の種類は?保険料の計算方法や加入手続きを解説
フリーランスが加入できる健康保険の種類と手続き

会社員からフリーランスになると、健康保険の仕組みが大きく変わります。会社を退職すると同時に、会社の健康保険(被用者保険)から脱退するため、フリーランスとしては新たな健康保険に加入しなければなりません。選択肢としては主に4つあり、それぞれに特徴と手続きがあります。自分に最も適した方法を選ぶことが、保険料の節約や保障内容の充実につながります。
国民健康保険(国保)の特徴と手続き
もっとも基本的な選択肢が「国民健康保険」です。これは市区町村が運営しており、会社員などの被用者保険に加入していないすべての人が対象となります。フリーランスとして独立した場合、多くの人がまずこの国保に加入することになります。
保険料は前年の所得に基づいて計算され、自治体ごとに保険料率や上限額が異なります。所得が高い場合は負担も大きくなるため注意が必要です。逆に所得が少ない場合や扶養家族が多い場合には、減額制度や軽減措置が適用されることもあります。
手続きは住民票のある市区町村の役所で行います。退職日から14日以内に、「健康保険資格喪失証明書」などの必要書類を持参して申請します。手続きが遅れると、さかのぼって保険料を請求されることになるため、早めの行動が重要です。
国民健康保険組合のメリットと加入方法
一定の業種に従事しているフリーランスは、「国民健康保険組合(国保組合)」への加入も選択肢になります。これは業界団体や職能団体が運営している保険制度で、たとえば文芸美術国民健康保険組合(文美保険)や東京都美容国保などが有名です。
国保組合の最大の特徴は、保険料が定額である場合が多く、所得が高いフリーランスにとっては国民健康保険よりも大幅に保険料が安くなる可能性がある点です。また、付加給付などの独自の給付制度が設けられているケースもあり、保障内容が充実しているのもメリットのひとつです。
加入には、対象となる業種に従事している証明や、団体への加入が必要です。例えば文美保険に加入するには、対象となる創作活動や著作物の実績、収入証明などが求められます。手続きには1~2週間ほどかかるケースも多いため、余裕を持った申請が大切です。
健康保険の任意継続とは?条件と手続き

会社員時代に加入していた健康保険を、退職後も最長2年間継続できる制度が「任意継続被保険者制度」です。これは協会けんぽや健康保険組合が提供しており、条件を満たせばフリーランスになってからも同じ保険に加入し続けることができます。
主な条件は「退職前に継続して2カ月以上その保険に加入していたこと」と「退職後20日以内に手続きすること」です。保険料は全額自己負担(会社負担分も含む)となるため、金額が上がるケースもありますが、扶養家族が多い場合や保険組合の給付が手厚い場合には、結果的に国保よりもお得になることもあります。
申請は各保険者(協会けんぽや健康保険組合)に対して行い、所定の申請書と添付書類(退職証明書、本人確認書類など)が必要です。退職から20日を過ぎると利用できなくなるため、タイミングには注意が必要です。
家族の扶養に入る場合の条件と注意点
配偶者や親などが会社員として健康保険に加入している場合、一定の条件を満たせば「被扶養者」としてその健康保険に入ることも可能です。これは、フリーランスとしての収入が一定額以下であれば、保険料の負担をせずに保険に加入できる方法です。
扶養に入るための主な条件は「年間収入が130万円未満(60歳以上や障害者は180万円未満)」かつ「扶養者の収入の半分未満」であることです。なお、この収入には事業所得(売上から経費を差し引いた金額)が適用されます。
注意点として、少しでも条件を超えると即座に扶養から外され、別途国保などへの加入が必要になります。また、事業収入の変動が大きいフリーランスの場合、毎年扶養資格の確認が行われることもあるため、継続的な管理が必要です。
扶養申請は、被保険者(扶養する側)の勤め先を通じて行います。収入証明書や住民票などの書類を提出し、保険組合が審査を行います。判断には数日から1週間程度かかる場合があるため、早めの準備が肝心です。
参考:フリーランスにおすすめの社会保険とは? 社会保険一覧や会社員との違いも解説
フリーランスが加入できる年金保険の種類と手続き

フリーランスとして働く場合、年金制度の選択肢や手続きも自身で行う必要があります。会社員であれば自動的に厚生年金に加入でき、会社が保険料の半分を負担してくれますが、フリーランスはその恩恵を受けることができません。そのため、公的年金制度を正しく理解し、自身に合った年金の補完策を選択することが将来の安心につながります。ここでは、フリーランスが加入できる年金保険の種類と手続きについて詳しく解説します。
国民年金の仕組みと手続き
フリーランスが必ず加入しなければならないのが「国民年金」です。日本に住む20歳から60歳未満のすべての人に加入が義務づけられており、フリーランスも例外ではありません。会社員のように厚生年金に加入することはできないため、フリーランスは自分で保険料を全額負担し、国民年金に加入する形になります。
2024年度の保険料は月額16,980円です。保険料は年に一度改定されるため、最新の情報を日本年金機構の公式サイトなどで確認するようにしましょう。年金の受給資格を得るためには、原則として10年以上保険料を納付する必要があります。
手続きは住民票のある市区町村の年金窓口や年金事務所で行います。退職や開業の際には、遅滞なく「国民年金被保険者種別変更届」などを提出する必要があります。また、保険料の納付は口座振替やクレジットカード払いが選べ、前納制度を利用すると割引も受けられます。
収入が少ないフリーランスには「保険料免除・猶予制度」も用意されており、申請すれば全額もしくは一部の保険料が免除される場合もあります。ただし、将来の年金受給額には影響するため、制度を理解したうえでの活用が求められます。
国民年金基金・付加年金の特徴と加入メリット
国民年金だけでは将来の年金額が少なく、不安を感じるフリーランスも多いでしょう。そうした場合に活用したいのが「国民年金基金」と「付加年金」です。これらは、国民年金に上乗せして給付を受けられる公的な年金制度です。
国民年金基金は、自営業者やフリーランスなどの第1号被保険者が加入できる制度で、掛け金を自由に設計しながら、将来の年金受取額を増やすことができます。終身年金や確定年金など複数の受け取りパターンが選べ、老後の収入を安定させたい人に適しています。また、掛け金は全額が所得控除の対象となるため、節税効果も見込めます。
一方、付加年金はより手軽な制度です。月々400円の追加負担で、将来の年金受取時に「200円×加入月数」の上乗せを受けられます。例えば10年間加入すれば24,000円の年間上乗せとなり、少額ながらも確実にリターンが得られる制度です。
両制度の併用はできないため、どちらか一方を選ぶことになります。収入が安定しており、老後に一定の年金額を確保したい場合は国民年金基金、掛け金を抑えたいが少しでも年金を増やしたい場合は付加年金を選ぶとよいでしょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用する方法
公的年金に加え、老後資金の準備手段として注目されているのが「iDeCo(個人型確定拠出年金)」です。iDeCoは、自分で掛け金を拠出し、自分で運用する年金制度で、節税効果が高く、フリーランスにとって非常に有利な制度といえます。
iDeCoの最大のメリットは3つあります。第一に、掛け金全額が所得控除の対象となるため、所得税や住民税の軽減効果が期待できます。第二に、運用益が非課税となるため、効率的な資産形成が可能です。第三に、受取時にも一定の控除が適用される点です。
フリーランスの場合、月額最大68,000円まで拠出が可能(2024年時点)で、自身の収入や生活スタイルに応じて柔軟に設定できます。運用商品には定期預金、投資信託、保険商品などがあり、リスクとリターンのバランスを自分で選択できるのも特徴です。
加入手続きは、金融機関を通じて行います。口座開設から実際の掛け金設定・商品選択まで、インターネット上で完結できるサービスも増えています。ただし、原則60歳まで引き出しができないため、長期的な視点での資産形成が求められます。
参考:フリーランスが加入する保険とは?社会保険の特徴やおすすめの民間保険について解説
フリーランスが加入できる労災保険(特別加入制度)

フリーランスは、基本的には労働者ではないため、労働災害に備える「労災保険(労働者災害補償保険)」の対象外となります。しかし、一定の条件を満たせば「特別加入制度」を利用して労災保険に加入することが可能です。業務中の事故や通勤途上のケガに備えたいフリーランスにとって、安心材料となる制度のひとつです。
労災保険特別加入の概要と対象職種
労災保険の特別加入制度は、本来の保険適用対象でない「労働者でない者」に対して、安全確保の観点から設けられている仕組みです。フリーランスや一人親方、個人タクシー運転手など、一定の業種に従事する個人事業主が対象となります。
対象職種は厚生労働省によって定められており、たとえば以下のような業種が該当します。
- 建設業の一人親方(大工、左官、電気工事士など)
- 漁業者、林業者
- 個人で運営する清掃業や運送業
- ITエンジニア、デザイナーなど一部の特定業務に従事する者(事業所の加入形態による)
なお、加入にあたっては「労働保険事務組合」を通じて手続きする必要があり、単独での加入はできません。
労災保険に加入するメリットと手続き
最大のメリットは、業務中や通勤中の事故により負傷した際に、治療費や休業補償などの給付が受けられることです。たとえば、作業中にケガをした場合の医療費が全額補償されたり、仕事ができない期間の収入補填がなされたりします。
また、最悪のケースとして死亡事故が起きた場合でも、遺族補償給付や葬祭料が支給されるため、家族に対する備えにもなります。民間保険ではカバーしきれない事故にも対応できるのが公的制度としての強みです。
手続きは、労働保険事務組合に申し込みを行い、必要書類を提出することで完了します。加入にあたっては、事務組合が取りまとめる形で一括申請されるため、組合への登録が前提です。保険料は業種と給付基礎日額によって異なりますが、年間で数万円程度が一般的です。
事故が起こった際に備えて、フリーランスも労災保険特別加入の活用を検討しておくと、リスクに対する備えを万全にできます。
社会保険料の計算方法と具体例
フリーランスとして働くうえで、社会保険料の負担は無視できない重要なコストです。会社員であれば、健康保険料や年金保険料は会社と折半されますが、フリーランスは全額自己負担となるため、収入に対してどの程度の負担が発生するかを事前に把握しておく必要があります。
ここでは、国民健康保険料と国民年金保険料の具体的な計算方法、そして保険料の支払いが難しい場合の対処法について解説します。
国民健康保険料の計算方法
国民健康保険料は、前年の所得や加入者の人数に基づいて算出され、市区町村が設定する保険料率により金額が決定します。保険料は大きく以下の4つの要素で構成されます。
- 所得割(前年の所得に応じて決まる)
- 均等割(加入者1人あたりに課される)
- 平等割(世帯ごとに一定額が課される)
- 資産割(保有資産に応じて課される。実施していない自治体もある)
たとえば、年収300万円(必要経費を差し引いた課税所得が200万円)のフリーランスが単身で東京都中野区に住んでいる場合、おおよその国民健康保険料は年間30〜35万円程度が目安となります。ただし、自治体によって保険料率や上限額が異なるため、正確な金額は各自治体のWebサイトや窓口で確認することが重要です。
また、40歳以上65歳未満の人は介護保険料も加算されます。高額になることもありますが、所得が一定以下の世帯には軽減措置が適用されることがあります。
参考:フリーランスになったら健康保険はどうする?年収別保険料の目安や加入手続を解説
国民年金保険料の金額と支払い方法

国民年金の保険料は全国一律で、2024年度の月額は16,980円です。厚生年金のように収入に応じて保険料が変動するわけではなく、すべての第1号被保険者が同じ金額を負担することになります。
納付方法には以下の種類があります。
- 毎月払い(納付書、口座振替、クレジットカード)
- 前納制度(6カ月・1年・2年単位で一括払い。割引あり)
たとえば、1年分を前納すれば年間3,000円以上の割引を受けることも可能です。少しでも保険料の負担を減らしたいフリーランスは、前納制度の活用を検討すると良いでしょう。
なお、収入が少ない人向けに「免除」や「納付猶予」などの制度も整備されています。これらを活用することで、年金制度への加入義務を維持しながら、実際の納付負担を抑えることができます。
社会保険料が支払えない場合の対処法
フリーランスの収入は不安定であるため、月によっては社会保険料の支払いが厳しいこともあります。そんなときに利用できる制度を知っておくことは非常に重要です。
まず、国民健康保険料については、市区町村に相談することで「減額・免除」や「分割納付」などの対応をしてもらえる可能性があります。納付が難しい場合でも放置せず、必ず早めに自治体の窓口で相談しましょう。
次に、国民年金については以下のような制度があります。
- 【全額免除・一部免除】…前年所得が一定基準以下であれば利用可能
- 【納付猶予制度】…50歳未満の人が対象
- 【学生納付特例制度】…学生であれば申請により納付が猶予される
これらの制度は申請が必要で、審査を経て認定されます。免除期間中も年金加入期間として扱われるため、将来の受給資格を維持する意味でも、制度を活用する価値は大きいといえるでしょう。
また、保険料を長期間滞納すると、延滞金の発生や財産差し押さえなどのリスクもあります。特に国民健康保険は、滞納が続くと「資格証明書」が発行され、医療費を一時全額自己負担しなければならないケースもあります。
フリーランスは自分の責任で制度を理解し、適切に対応することが大切です。必要に応じて、税理士や社会保険労務士などの専門家に相談することも有効です。
参考:フリーランスが加入する社会保険とは?社会保険料控除を受ける方法も紹介
フリーランスと会社員の社会保険の違い

社会保険制度は、働く人の生活を守るために設けられた公的な仕組みですが、その内容や加入条件は職業形態によって異なります。特にフリーランスと会社員では加入できる保険の種類、保険料の負担、保障内容などに大きな差があります。ここでは、健康保険・年金・労働保険のそれぞれの違いと、扶養制度に関する違いについて解説します。
健康保険・年金・労働保険それぞれの違い
健康保険
会社員は、勤務先を通じて「協会けんぽ」や「健康保険組合」に加入します。これらの保険は「被用者保険」と呼ばれ、保険料の半額を会社が負担してくれるため、個人負担は比較的少なくなります。また、付加給付(高額療養費の自己負担をさらに軽減)など、保障が手厚い点も特徴です。
一方、フリーランスは「国民健康保険」もしくは「国民健康保険組合」に加入します。保険料は全額自己負担であり、所得に応じて変動します。保障内容は基本的な医療保障に限られ、会社員のような付加給付は原則ありません。
年金保険
会社員は「厚生年金」に加入しており、将来的に受け取る年金額が国民年金よりも多く、遺族年金や障害年金などの給付も充実しています。保険料も会社と折半のため、個人負担が抑えられています。
フリーランスは「国民年金」のみの加入となり、老後に受け取れる年金額は厚生年金よりも少なめです。そのため、多くのフリーランスは「国民年金基金」や「iDeCo」などを併用して将来への備えをしています。
労働保険(労災保険・雇用保険)
会社員は自動的に労災保険と雇用保険に加入しており、業務中のケガや病気、失業時の給付など、働けないリスクに備える制度が整っています。
対してフリーランスは原則としてこれらの保険には加入できません。ただし、一定の条件を満たせば「労災保険特別加入制度」により、労災保険の保障を受けることが可能です。雇用保険については現状、フリーランスは対象外であり、失業時の手当はありません。
このように、会社員は法的に手厚く保護されているのに対し、フリーランスは自ら保険に加入し、必要な保障を確保する必要があります。
扶養制度に関する違い
扶養制度についても、フリーランスと会社員では大きな違いがあります。会社員が加入している健康保険には「被扶養者制度」があり、配偶者や子どもなどの扶養家族が一定の条件を満たせば、追加保険料なしで保険に加入させることができます。
しかし、フリーランスが加入する国民健康保険には「扶養」という概念がなく、家族もそれぞれ個別に被保険者となり、保険料を支払う必要があります。たとえ扶養している家族でも、人数に応じて均等割や平等割が加算されるため、結果的に保険料負担は会社員より重くなる傾向があります。
また、年金についても会社員の配偶者が専業主婦(主夫)であれば、第3号被保険者として年金保険料の負担なく保障を受けられますが、フリーランスの配偶者は第1号被保険者となり、自身で国民年金の保険料を納めなければなりません。
このように、扶養に関する制度は会社員に有利な設計になっているため、フリーランス家庭では家族全体での保険料の負担を事前に試算しておくことが重要です。
参考:フリーランスが加入できる保険の種類は?会社員との違いや保険料を抑えるコツも解説
フリーランスの社会保険料を抑えるコツ

フリーランスにとって社会保険料は大きな固定費の一つです。会社員であれば保険料の一部を会社が負担してくれますが、フリーランスは全額を自己負担するため、無策でいると手取りを大きく圧迫してしまいます。特に所得が上がるほど保険料の負担も増えるため、計画的に「保険料を抑える工夫」を取り入れることが重要です。
ここでは、フリーランスが社会保険料を抑えるために活用できる4つの具体的な方法を紹介します。
国民健康保険組合への加入
フリーランスの健康保険の選択肢として、まず検討したいのが「国民健康保険組合(国保組合)」です。これは、特定の業種・職種に従事するフリーランスや個人事業主を対象に、各業界団体が運営している健康保険制度で、一般的な国民健康保険と比べて保険料が安定しているのが大きな特徴です。
国民健康保険では所得に応じて保険料が増減しますが、国保組合では「定額制」を採用していることが多く、高収入のフリーランスにとっては結果的に保険料を抑えることができます。たとえば、年収800万円以上のフリーランスであれば、通常の国民健康保険と比べて年間10万円以上安くなるケースもあります。
また、出産育児一時金や高額療養費制度などの給付内容に加え、組合独自の付加給付(医療費の追加補助など)があるのもメリットです。
加入するには、該当業種に属していることの証明(業務実績、作品、クライアントとの契約書など)や、団体への加入が条件となります。文芸美術国民健康保険組合や美容国保、建設国保など、業種別に複数の組合があるため、自分の職種に合った組合を探して申し込みましょう。
家族の扶養を活用する
自身の年収が少ない、あるいはフリーランスとしての活動が副業レベルにとどまっている場合には、「配偶者や親の扶養に入る」という選択肢も検討できます。これは、家族が会社員として社会保険に加入している場合に限定されますが、扶養に入ることで保険料の負担をなくすことが可能です。
被扶養者となるには、以下のような条件を満たす必要があります。
- 年間の収入が130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満)
- 被保険者(扶養する側)の収入の1/2未満であること
- 同居・別居の状況や仕送り額なども審査対象となる
ここで注意したいのは「収入」の定義です。フリーランスの場合、収入とは「売上」ではなく「所得(=売上−必要経費)」で判断されます。そのため、経費をきちんと計上して所得を抑えることで、扶養に入りやすくなります。
ただし、扶養条件を超えるとすぐに扶養から外され、自ら国民健康保険に加入する必要が生じるため、事前の試算と継続的な収入管理が欠かせません。
任意継続を検討する
会社員からフリーランスに転身したばかりの方は、「任意継続被保険者制度」を検討する価値があります。これは、退職前に会社の健康保険(協会けんぽや健康保険組合)に2ヶ月以上加入していた人が、退職後も最大2年間そのまま保険を継続できる制度です。
任意継続の最大の特徴は、加入時点の保険料が固定されることです。協会けんぽの場合、保険料は標準報酬月額に基づいて計算されますが、退職後は「本人負担+会社負担」の全額を支払う必要があります。ただし、扶養家族を多く持つ場合や保険組合の付加給付が手厚い場合は、結果的に国民健康保険よりも安価かつ充実した保障が得られる可能性があります。
手続きは退職から20日以内に行う必要があり、各健康保険組合や協会けんぽの窓口で申請書を提出します。遅れると制度を利用できなくなるため、スケジュール管理には注意が必要です。
青色申告を活用して所得を調整する
社会保険料は、基本的に所得に連動して決定されるため、「所得の圧縮」は保険料負担を抑える重要な戦略になります。ここで活用したいのが「青色申告」です。青色申告には、最大65万円の控除が受けられる「青色申告特別控除」があり、課税所得を大きく減らすことができます。
さらに、青色申告によって「家族への給与支払い(青色事業専従者給与)」や「30万円未満の減価償却資産の一括経費化」といった節税策も合法的に活用できるようになります。これにより、帳簿上の所得を抑え、結果的に国民健康保険料や国民年金の負担を軽減することが可能です。
たとえば、売上が600万円あり、経費が100万円、青色申告特別控除が65万円あれば、課税対象となる所得は435万円になります。これにさらに各種控除(基礎控除、社会保険料控除など)を加味すれば、実質の課税所得はさらに低くなり、保険料の計算基準も引き下げられます。
青色申告を行うには、開業届と青色申告承認申請書を提出する必要があります。これらは税務署に提出すれば無料で行え、会計ソフトを使えば初心者でも比較的簡単に対応可能です。
社会保険料の負担を軽減するためには、単に保険の種類を選ぶだけでなく、所得の管理や節税の工夫も欠かせません。フリーランスは自ら制度を理解し、選択・活用していく主体性が求められます。今回紹介した方法をうまく組み合わせ、自分にとって最も効率的な保険料対策を実現しましょう。
参考:フリーランスが加入できる社会保険とは?保険料やおすすめの保険を紹介
フリーランスが検討すべき民間保険

フリーランスとして独立すると、公的な社会保険だけでは補いきれないリスクが見えてきます。会社員とは異なり、病気やケガで働けなくなった場合の収入補償がない、雇用保険が適用されないなど、自分の身を守る手段をあらかじめ用意しておく必要があります。その対策として重要になるのが「民間保険」です。ここでは、フリーランスが公的保険ではカバーできないリスクと、検討すべき民間保険の種類を紹介します。
公的保険でカバーできないリスクとは
公的な健康保険や国民年金は、最低限の医療費や老後の生活を支える制度です。しかし、以下のようなリスクはカバー範囲外となるか、給付が不十分であることが多いため、別途対策が必要です。
- 就業不能時の収入補償:フリーランスには傷病手当金や失業給付がありません。病気やケガで長期間働けない場合、収入がゼロになるリスクがあります。
- 高額な医療費負担:高額療養費制度はあるものの、先進医療や差額ベッド代など自己負担が必要なケースも少なくありません。
- 死亡時の遺族補償:国民年金の遺族基礎年金は子のある配偶者が対象で、受け取れないケースもあります。
- 老後の生活資金不足:国民年金のみでは十分な老後資金とは言えず、自助努力による備えが求められます。
これらのリスクに備えるためには、公的制度に加えて、フリーランス自身が民間保険を活用して補完することが重要です。
フリーランスにおすすめの民間保険の種類
フリーランスが検討すべき民間保険には、以下のようなものがあります。
- 就業不能保険(所得補償保険)
病気やケガで働けなくなった場合に、一定期間の生活費を補償してくれる保険です。仕事を休んだ期間中も収入が確保できるため、安心して療養できます。特に単身世帯や家計の柱となるフリーランスは優先的に加入を検討すべきです。 - 医療保険・がん保険
入院や手術にかかる費用を補償する保険で、高額療養費制度でカバーしきれない部分を補完します。がん保険では通院治療や先進医療に対応したプランも選択できます。 - 生命保険(定期型・終身型)
家族がいるフリーランスであれば、万が一の際に遺族の生活を支えるための備えが必要です。保険金の受取人を家族に設定し、生活費や教育費に充てられるようにしておくと安心です。 - 個人年金保険・外貨建て保険
老後資金の形成を目的とした保険で、定額の積立を通じて将来の年金受取を可能にします。国民年金だけでは心許ない場合の選択肢となります。 - 賠償責任保険(業務上の事故対策)
仕事中にクライアントや第三者に損害を与えた場合の損害賠償に備える保険です。Web制作やライター、コンサル業などでも、納品ミスや情報漏洩のリスクをカバーできます。
民間保険を選ぶ際は、補償内容と保険料のバランス、自分の働き方や家族構成に応じたリスクの想定が重要です。公的保険と併せて民間保険を適切に組み合わせることで、フリーランスとしてのリスクヘッジを強化できます。
参考:会社員とフリーランスの社会保険料はどう決まる? 仕組みと保険料を抑える方法を解説
よくある質問

フリーランスは社会保険に必ず入る必要がある?
はい、フリーランスであっても一定の社会保険には加入が義務付けられています。具体的には「国民健康保険」と「国民年金」の2つです。これらは日本に住むすべての国民に加入義務がある公的制度であり、未加入や滞納があると将来的な医療費の自己負担や年金受給に影響が出る可能性があります。
ただし、会社員と違って労災保険や雇用保険などの被用者向けの保険には自動で加入できないため、必要に応じて任意加入制度や民間保険での補完が求められます。
会社員を辞めた場合の社会保険手続きは?
会社を退職すると、それまで加入していた健康保険や厚生年金から自動的に資格喪失となります。そのため、退職後は以下のような手続きが必要です。
- 【健康保険】
退職から14日以内に住民票のある市区町村で「国民健康保険」の加入手続き、または退職から20日以内に「任意継続」の申請を行う必要があります。 - 【年金】
厚生年金から国民年金への切り替え手続きを、年金事務所または市区町村役場で行います。
手続きを怠ると、未加入期間の保険料を後から一括で請求されたり、医療費が全額自己負担になるケースもあるため注意が必要です。
副業フリーランスの社会保険はどうなる?
本業が会社員であり、社会保険に加入している場合、副業としてフリーランスをしていても基本的にはそのまま会社の社会保険に加入し続けることができます。この場合、フリーランスの収入について追加で保険料が課されることはありません。
ただし、副業の収入が増えて「会社員以上の所得」になってくると、税務署や保険機関から確認が入ることがあります。さらに、会社を辞めて副業を本業に切り替える場合は、速やかに国民健康保険と国民年金への切り替え手続きを行う必要があります。
また、収入状況によっては扶養から外れる可能性もあるため、自身の年間所得額は常に意識しておきましょう。
社会保険を正しく理解して安心して働こう
フリーランスとして働くうえで、社会保険は避けて通れない重要な制度です。会社員とは異なり、保険料はすべて自己負担であり、手続きもすべて自分で行う必要があります。しかしその分、加入方法の選択肢や節約の工夫も多く、自分に合った形で備えることが可能です。
公的保険だけではカバーしきれないリスクに対しては、民間保険を上手に組み合わせることで、より安心して事業に取り組むことができます。社会保険制度を正しく理解し、将来への備えを整えることが、フリーランスとして長く安定的に働くための第一歩です。自分に必要な保障は何かを見極め、早めの対策を講じていきましょう。