個人事業主は家賃を経費計上できる?経費として扱う方法や注意点を解説

自宅を仕事場として使っている個人事業主の中には、「家賃は経費にできるの?」と疑問を持つ方も多いでしょう。実は、事業で使用している部分については、家賃の一部を経費として計上することが可能です。ただし、按分方法や証拠書類の保存など、正しく処理しないと認められないケースも。本記事では、家賃を経費として扱うための考え方や計算方法、注意すべきポイントをわかりやすく解説します。

個人事業主でも家賃を経費にできる?基本の考え方を解説

個人事業主でも家賃を経費にできる?基本の考え方を解説

個人事業主として事業を営むうえで、少しでも節税につながる経費計上は非常に重要です。中でも「家賃」を経費にできるかどうかは、多くの個人事業主にとって関心の高いテーマです。

結論から言えば、個人事業主であっても、一定の条件を満たせば家賃を事業経費として計上できます。ただし、経費にできるかどうかは、その使用状況や契約形態、申告方法などによって判断されるため、正しい知識をもとに対応する必要があります。

この章では、家賃を経費に計上するための基本的な考え方や、代表的なケースについて詳しく解説します。

経費として認められる家賃の条件

家賃が個人事業主の「経費」として認められるためには、以下のような条件を満たす必要があります。

1. 事業に使用していることが明確であること
事業に必要な場所として使用していることが客観的に説明できる必要があります。たとえば、パソコンや事務デスクを置いて業務を行っている、打ち合わせスペースとして使っているなど、業務実態があることが前提です。

2. 使用割合が明確に区分されていること(家事按分)
自宅を兼用している場合などは、私的利用分と事業用の利用分を明確に分けて、按分計算を行う必要があります。使用面積や使用時間などに基づいて合理的な根拠を提示しなければ、全額を経費とすることはできません。

3. 支払先との契約書・領収書など証拠書類が保管されていること
賃貸借契約書や家賃の領収書、振込明細など、家賃の支払いと使用実態を証明する書類が必要です。税務調査時にはこれらの資料がチェックされるため、必ず保管しておきましょう。

4. 親族などへの支払いでないこと
生計を一にする親族(配偶者や同居の親など)に対して家賃を支払っても、原則として経費にはなりません。第三者との契約であることが重要です。

家賃を経費にできる代表的なケース

個人事業主が家賃を経費にできる代表的なケースは、大きく以下の3つに分けられます。

自宅と事務所が別のケース

自宅とは別に、明確に事業専用の事務所を借りている場合、その家賃は全額を経費として計上することが可能です。

たとえば、賃貸のオフィスや店舗、作業場などを事業のために契約・使用している場合は、プライベートとの混在がないため、家事按分をする必要がありません。

ただし、契約名義が個人事業主自身であること、実際に事業に使っていることが確認できる写真や資料、契約書があることが前提です。また、住居として使用していないことが明確でなければなりません。

自宅兼事務所として使用しているケース

最も多いのが、ワンルームや一戸建て、マンションの一室など、自宅の一部を事業に使っている「自宅兼事務所」のケースです。

この場合は、家賃の一部のみを経費として計上することになります。これを「家事按分」と呼び、私的利用と業務利用を合理的に区分して計算する必要があります。

按分の計算方法として代表的なのは以下の2つです。

  • 面積比で按分:居住空間のうち、事業に使っている面積が全体の何%かで算出
  • 時間比で按分:自宅内での1日の活動時間のうち、業務に使っている時間が何%かで算出

たとえば、家賃15万円のうち、事業に使っているのが全体の20%程度であれば、月3万円(15万円×20%)を経費にできるということになります。

また、青色申告の場合には記帳内容の精度も求められるため、按分の根拠となるデータや図面、使用状況の記録を残しておくと安心です。

バーチャルオフィス・シェアオフィスの場合

最近では、自宅住所を公開したくない個人事業主や、コストを抑えたいフリーランスの間で「バーチャルオフィス」や「シェアオフィス」の利用が広まっています。

これらも、業務用として利用している場合には家賃として経費に計上可能です。ただし注意点もあります。

  • バーチャルオフィスは登記・郵便受取などが主目的で、実際の作業は行っていないケースが多いため、業務実態があるかどうかが問われる場合があります。
  • シェアオフィスやコワーキングスペースを利用している場合は、利用料や月額費用を家賃と同様に「地代家賃」勘定で経費に計上することが可能です。

こちらも契約書や利用明細、支払い証明を保管し、業務に使っていることが分かるようにしておくことが重要です。

個人事業主が家賃を経費として扱うには、「どこで」「どのように」「何に使っているか」を明確にし、その根拠を残すことが重要です。正しく経費計上を行うことで、無理のない節税対策につながります。

参考:個人事業主が家賃を経費計上するときの注意点は?使用割合の考え方や記帳方法も解説

家賃の経費計上に必要な「家事按分」とは?

家賃の経費計上に必要な「家事按分」とは?

個人事業主が家賃を経費に計上する際、自宅を事業に使っている場合に避けて通れないのが「家事按分(かじあんぶん)」という考え方です。

家賃という支出は、生活費としての要素と、業務利用としての要素が混在しているため、そのまま全額を経費として認めることはできません。そこで用いられるのが、「家事按分」という方法です。

この章では、家事按分の基本的なルールや適用できる範囲、按分割合の決め方や具体的な計算例について、個人事業主の立場からわかりやすく解説していきます。

家事按分の基本と適用範囲

家事按分とは、生活費と事業費が混在している支出について、業務に使った割合のみを経費にする考え方です。個人事業主が自宅の一部を仕事場として利用している場合、家賃をそのまま経費にすることはできません。事業に使った部分のみを合理的な方法で按分し、その割合に応じて経費計上する必要があります。

たとえば、以下のような費用は家事按分の対象となります。

  • 自宅の家賃
  • 水道光熱費(電気・ガス・水道)
  • インターネット代
  • 通信費
  • 駐車場代(仕事用で使っている場合)

逆に、明確に事業に使っている支出(たとえば、別途借りた事務所の家賃や法人契約のインターネット費用など)は家事按分せず、全額を経費にできます。

なお、家事按分は青色申告・白色申告のどちらでも対応可能ですが、青色申告の場合は帳簿付けや根拠資料の保存がより厳格に求められる傾向にあります。

参考:個人事業主の家事按分とは?割合や経費計上の仕方を徹底解説!

按分割合の決め方|面積ベースと時間ベース

按分割合の決め方|面積ベースと時間ベース

家賃などを家事按分する際に用いられる代表的な方法が、「面積割合」と「時間割合」の2つです。それぞれの特徴は以下の通りです。

面積ベースで按分する方法

最も一般的で、税務調査にも説明しやすいのがこの方法です。

部屋全体の中で、事業に使っているスペースの面積がどの程度を占めているかを算出し、その割合を経費計上に用います。

たとえば、以下のように計算します。

  • 住居全体の面積:50㎡
  • 仕事で使用している部屋またはスペースの面積:10㎡
  • 按分割合:10㎡ ÷ 50㎡ = 20%

この場合、家賃のうち20%を経費として計上できます。

注意点として、事業専用でない共用スペース(リビングやキッチンなど)もある場合は、その部分は含めずに計算したほうが安全です。また、仕事とプライベートが混在する空間(ダイニングテーブルで作業など)の場合は、時間ベースの考慮を併用するとより合理的です。

時間ベースで按分する方法

一つの部屋を生活にも仕事にも使っている場合などには、「時間ベース」で考える方法が有効です。

たとえば、1日の中で仕事に使っている時間が8時間、その他の時間(睡眠や食事など)が16時間であれば、仕事で使っている割合は「8 ÷ 24 = 約33.3%」となります。

この割合を面積ベースの割合と掛け合わせて、より実態に近い按分率を出すことも可能です。たとえば、

  • 面積割合:20%
  • 時間割合:33.3%
  • 按分率:20% × 33.3% = 約6.7%

このように、より厳密に計算することで、税務署に対する説得力を高めることができます。

按分割合の計算例

実際に家賃を経費に計上する場合、以下のような形で計算を行います。

<ケース1:ワンルームで自宅兼事務所として使用>

  • 住居全体の面積:30㎡
  • 作業スペースとして机とパソコン周辺を使用:6㎡(20%)
  • 作業時間:1日8時間(24時間中の33.3%)

按分割合:面積20% × 時間33.3% ≒ 6.7%
家賃が月10万円の場合、6,700円を経費に計上

<ケース2:2LDKの一室を事業専用スペースとして利用>

  • 全体面積:60㎡
  • 仕事専用部屋の面積:12㎡(20%)
  • 専用部屋で仕事以外をしない(=時間割合100%)

按分割合:20%
家賃が月12万円の場合、24,000円を経費に計上

<ケース3:共用スペースを時間限定で使用>

  • 全体面積:50㎡
  • ダイニングテーブルなどの共有スペースで仕事:使用面積10㎡(20%)
  • 作業時間:1日6時間(24時間中の25%)

按分割合:20% × 25% = 5%
家賃が月9万円の場合、4,500円を経費に計上

このように、家賃の経費計上では、利用実態に応じた合理的な計算が必要です。無理に高い按分割合を設定すると、税務調査で否認されるリスクがあるため、根拠をしっかり残しておくことが大切です。

参考:個人事業主・フリーランスの家賃は確定申告で経費にできる?按分計算の方法も解説!

持ち家でも家賃を経費にできる?減価償却などの対応方法

持ち家でも家賃を経費にできる?減価償却などの対応方法

個人事業主が賃貸住宅に住んでいる場合は、家賃の一部を経費として計上できますが、持ち家に住んでいる場合はどうでしょうか。

実は、持ち家であっても事業に使用している部分については「家賃の代わり」として減価償却費や固定資産税、火災保険料などを按分して経費にすることが可能です。

ただし、住宅ローン控除との関係や名義、事業利用割合など、注意すべき点が多く存在します。この章では、持ち家の経費計上に関する考え方や減価償却の方法、住宅ローン控除との関係について詳しく解説していきます。

持ち家の経費計上で認められる費用の種類

持ち家に住んでいて、その一部を事業に使っている場合には、以下のような費用が按分計算によって経費として認められる可能性があります。

1. 減価償却費

建物の取得費を法定耐用年数に基づいて少しずつ経費化していくもので、持ち家での経費計上の中心となる費用です。

2. 固定資産税

住宅に課される固定資産税も、事業用部分に応じて按分して経費にできます。

3. 火災保険料・地震保険料

建物にかけている保険料のうち、事業に関係する部分を按分して経費にできます。

4. 修繕費

住宅の修繕やメンテナンス費用のうち、事業に関係する部分は経費として計上可能です。例えば、事務所スペースの照明工事など。

5. 水道光熱費・通信費

賃貸と同様、生活と業務が混在する費用は家事按分により経費にできます。

一方で、住宅ローンの返済元本や土地代は、経費としては認められません。土地は減価しない資産であるため、減価償却の対象にもなりません。

減価償却費の計上方法と注意点

減価償却費は、建物の取得費用(建物部分のみ)を耐用年数に応じて毎年経費として計上する仕組みです。現金の支出を伴わないため、「非支出費用」とも呼ばれます。

減価償却の計算ステップ

  1. 建物価格を確認する
    土地と建物の総額のうち、建物部分のみが対象です。契約書などで金額が明示されていない場合は、不動産取得税の課税明細書や固定資産税評価証明書などを参考にします。
  2. 耐用年数を確認する
    建物の構造によって法定耐用年数が異なります。
  • 木造:22年
  • 軽量鉄骨造:27年
  • 鉄筋コンクリート造:47年
  1. 減価償却費を算出する
    通常は「定額法」で計算されます。たとえば建物価格1,200万円、耐用年数が24年なら、

年間減価償却費 = 1,200万円 ÷ 24年 = 50万円

  1. 按分割合を掛ける
    建物全体のうち、事業に使っている割合が20%であれば

経費にできる額 = 50万円 × 20% = 年間10万円

減価償却での注意点

  • 土地代は対象外:土地には耐用年数がないため、減価償却はできません。
  • 建物の名義人が本人でないと、基本的に減価償却はできません。
  • 青色申告であれば「減価償却費」として申告書に明記する必要があります。
  • 仕訳記帳の際は按分計算をきちんと明示し、根拠資料(図面や使用時間の記録など)を保存しておきましょう。

参考:個人事業主の家賃はどこまで経費にできる?計上方法や割合の考え方を解説

住宅ローンとの関係|控除とのバッティングに注意

住宅ローンとの関係|控除とのバッティングに注意

持ち家を購入した際に利用される住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、所得税からの控除が受けられるお得な制度ですが、事業に利用している割合が大きいと、適用できなくなるリスクがあります。

住宅ローン控除の要件(一部抜粋)

  • 床面積が50㎡以上(または40㎡以上)
  • 床面積の半分以上が「自己の居住用」であること
  • 控除対象は居住用部分のローン残高

つまり、自宅の大部分を事業用途にしてしまうと「居住用」と認められず、控除が受けられない可能性が出てきます。

控除と経費のバランスをどう取るか

以下の点に注意して、節税メリットのバランスをとることが重要です。

  • 経費計上の割合を必要以上に高くしない
    税務署は按分割合の根拠を重視するため、実態に即した範囲に抑える
  • 居住用部分が50%以上となるように調整
    控除の適用を維持するために、使用実態を事前に確認しておく
  • 住宅ローン控除が大きい場合は無理に経費化しない
    控除と経費の両方を最大化するのではなく、「どちらが得か」を試算する

例:住宅ローン控除と経費化を比較した場合

  • 住宅ローン控除額:年間20万円
  • 減価償却費による節税効果:年間12万円
    控除のほうが得であれば、経費化は最小限にとどめる選択も有効

なお、個人事業主の判断だけでなく、税理士に相談して両者の影響をシミュレーションしてもらうのが安心です。

持ち家であっても、条件を満たせば家賃相当分を減価償却費などで経費化できます。ただし、住宅ローン控除との関係や、過剰な按分設定によるリスクには十分に注意しなければなりません。

参考:【個人事業主】家賃はどこまで経費になる?按分や割合の考え方

青色申告と白色申告で違う?家賃の経費計上ルール

青色申告と白色申告で違う?家賃の経費計上ルール

個人事業主が自宅の家賃や持ち家の減価償却費を経費に計上する際、「青色申告」と「白色申告」のどちらを選択しているかによって、対応の仕方や認められる範囲に違いがあります。

どちらの申告方式でも家賃の一部を経費にすることは可能ですが、青色申告の方が制度的に優遇されており、正しく記帳することでより大きな節税効果が期待できます。一方、白色申告には簡便さがあるものの、計上の範囲や証拠資料の整備において注意が必要です。

この章では、青色申告・白色申告それぞれにおける家賃経費の取扱いについて、具体的に解説していきます。

青色申告の家事按分で認められる範囲

青色申告は、一定の要件を満たして税務署に事前申請(青色申告承認申請書の提出)することで適用されます。正式に承認された青色申告者は、最大65万円の特別控除を受けられるほか、家賃などの経費処理についても柔軟な対応が可能になります。

青色申告のメリットと家賃経費

  1. 家事按分の経費が正当に認められやすい
    青色申告では、複式簿記による記帳を行い、事業とプライベートを明確に区別することが求められるため、合理的な根拠がある家事按分は原則として経費として認められます
  2. 専従者給与の活用が可能
    自宅を事業用スペースとして使っており、家族を専従者として雇っている場合は、その給与も経費計上ができます(ただし事前の届出が必要)。結果的に、家賃の一部を給与支出に転換するような形で節税できる可能性があります。
  3. 減価償却費の記帳も対応可能
    持ち家の場合の減価償却費や修繕費など、支出を伴わない経費も正確に帳簿処理することで、毎年の節税につなげることができます。

青色申告で経費にできる家賃の条件

青色申告者が家賃を経費にする際は、以下のような要件を満たしている必要があります。

  • 自宅の一部を明確に事業に使用していること
  • 使用割合(面積・時間など)の計算根拠が明示されていること
  • 按分計算の基礎資料(図面や作業時間の記録など)を保管していること
  • 按分後の金額が帳簿に記帳されていること

たとえば、月10万円の家賃で、作業スペースが20%、使用時間が30%であれば、10万円×20%×30%=6,000円を月々の経費として計上可能です。

また、帳簿への記載では「地代家賃」や「減価償却費」「水道光熱費」などの勘定科目を適切に使い分け、按分後の金額を明示して記録する必要があります。

白色申告の場合の制限や注意点

一方で、白色申告は事前申請が不要で、帳簿付けや手続きも比較的簡易である点がメリットですが、家賃を経費計上するうえではいくつかの制約があります。

白色申告で家賃を経費にできる範囲

白色申告でも、家事按分に基づく家賃の一部を経費として計上することは可能です。ただし、青色申告と比べて次のような制限や注意点があります。

  1. 記帳の簡素さゆえに根拠が不明確になりやすい
    簡易帳簿での記録が多いため、家事按分の根拠や計算が曖昧になりがちです。税務署から「按分が過大」と見なされて否認されるリスクもあるため、使用割合の根拠を明文化しておく必要があります
  2. 65万円控除の特典がない
    青色申告のように特別控除はないため、帳簿を簡単にする代わりに節税メリットも小さくなる傾向にあります。家賃のような固定支出をしっかりと節税に活かしたい場合は、青色申告への切り替えも検討の余地があります。
  3. 専従者給与は経費にならない
    白色申告では家族への給与を経費にできないため、仮に自宅内で家族と共同作業していても、その分を家賃に按分して反映させることはできません。

白色申告での注意点

  • 家賃の按分計算は青色申告と同様に、面積割合・時間割合を掛け合わせるのが原則
  • 根拠となる資料(部屋の間取り図、使用時間の記録など)を残しておくことが大切
  • 税務調査では「生活費との区別が曖昧」と判断されやすいため、実態に即した割合に留めること

たとえば、ワンルームの住居で一日中作業しているからといって100%の家賃を経費にするのは現実的ではありません。自宅兼事務所の場合は、通常10〜30%程度の按分割合が妥当とされています。

参考:【税理士監修】家賃の何割まで経費にできる?自宅兼事務所の按分割合目安

家賃を経費にするときの記帳・仕訳の方法

家賃を経費にするときの記帳・仕訳の方法

個人事業主が家賃を経費として適切に計上するには、記帳と仕訳の方法を正しく理解しておくことが重要です。按分の根拠や金額を正確に把握できていても、帳簿に反映されていなければ税務上の経費としては認められません。

この章では、家賃を経費にする際の勘定科目の選び方具体的な仕訳のパターン必要な証憑書類の保管ルールについて、青色・白色申告いずれにも共通する実務的な視点で解説します。

勘定科目の選び方(地代家賃・通信費など)

家賃や家賃に類する費用を記帳する際には、用途に応じて適切な勘定科目を選択することが求められます。間違った科目で仕訳すると、税務署から指摘を受ける可能性があるため注意が必要です。

よく使われる勘定科目の例

按分によって算出された事業割合を、上記の勘定科目にあてはめて毎月または年に1度記帳します。家賃などの定期支払いについては、月ごとの仕訳を行う方が精度が高く管理しやすくなります。

家賃の仕訳例|1ヶ月ごと・年まとめての場合

按分後の家賃を帳簿に記録する際の仕訳パターンを、月次と年次でそれぞれ紹介します。

月ごとに仕訳する場合(おすすめ)

前提条件:

  • 月額家賃:100,000円
  • 事業利用割合(按分率):20%
  • 経費に計上できる額:20,000円

仕訳例(複式簿記)

借方:地代家賃 20,000円  

貸方:事業主借 20,000円

このように、事業に関係する支出であっても、支払元が事業用口座ではない場合は「事業主借」で処理します。

年間まとめて仕訳する場合(簡易)

1年分をまとめて按分する場合は、以下のような処理になります。

前提条件

  • 年間家賃:1,200,000円
  • 按分率:20%
  • 経費額:240,000円

仕訳例:

借方:地代家賃 240,000円  

貸方:事業主借 240,000円

年次処理は一見手間が少なく見えますが、実態との乖離が出やすく、月次の経営分析や税務調査での説明に弱くなるため、できるだけ毎月処理することが望ましいです。

記帳に必要な書類と保管ルール

家賃を経費として計上するには、「実際に支払った」「事業に使っている」といった事実を証明できる証憑書類(エビデンス)の保管が欠かせません。

必要となる主な書類

書類名 保管の目的
賃貸借契約書 賃料や契約名義、利用形態の証明
家賃の領収書または振込明細 支払い実績の証明
按分根拠の図面・写真 面積割合の根拠説明に使用
作業時間の記録 時間按分の根拠資料
減価償却明細書(持ち家) 建物の取得価格・耐用年数の記録
光熱費・通信費の明細書 家事按分対象の支出証明

これらの書類は、原則7年間の保存義務があります(青色申告の場合)。特に税務調査では、帳簿の記載内容だけでなく、裏付けとなる証拠書類の整合性が重視されます。

電子保存について

近年では、freeeやマネーフォワードなどの会計ソフトで、電子帳簿保存法に対応したスキャン・アップロード機能を使うことで、領収書や契約書を電子的に保存することも可能です。

参考:個人事業主として家賃収入を得るメリットや確定申告、経費による節税などを解説

経費として認められない家賃・注意すべきポイント

経費として認められない家賃・注意すべきポイント

個人事業主が家賃を経費として計上する際には、「何でも経費にできるわけではない」という点を正しく理解しておく必要があります。見た目上は家賃に見えても、税務上は経費として認められない支出があり、それを誤って計上すると、後の税務調査で否認されるリスクが高まります。

この章では、特に注意したい「経費にできない家賃のケース」と、「経費計上に必要な条件」を具体的に解説します。

敷金・礼金・住宅ローン元本は経費にならない

まず押さえておきたいのは、家賃と似たような性質を持つ支出の中には、経費として認められないものがあるという点です。特に以下の3つは要注意です。

敷金(保証金)

敷金は、契約期間終了時に返還される前提の「預かり金」であるため、支出があっても原則として経費にはなりません。ただし、契約終了時に返還されず償却された場合や、最初から返還されない条件(償却契約)であれば、その部分のみを経費として計上できます。

礼金

礼金は、契約時に貸主へ支払う一時金で、返還義務のない「費用」として扱われます。法人の場合は償却対象になりますが、個人事業主の場合は原則として資産計上され、数年に分けて減価償却する必要があります。したがって、支払った年に全額を経費にすることはできません。

住宅ローンの元本返済

持ち家の場合に住宅ローンを利用していても、ローンの元本返済部分は経費にできません。これは、元本の返済は「資産の取得」であり、費用ではないとみなされるためです。経費計上が認められるのは、建物部分に対応する減価償却費や利息分などに限られます。

家族・親族への家賃は経費にできない

個人事業主の中には、親や配偶者などの家族名義で賃貸している物件に居住しているケースもあります。しかし、生計を一にする親族に支払う家賃は、原則として経費にできません

これは、税務上「経済的実態がない支出」と判断されるためです。たとえ実際に振り込みを行っていても、それが家計内の資金移動とみなされると、経費性は否認される可能性が高くなります。

経費計上を認められるための条件

  • 契約書が存在し、第三者間と同等の契約条件が設定されている
  • 家族とは別居しており、完全に事業用途のために借りていることが明確である
  • 家賃の支払いが銀行振込などで履歴として残っている

これらの条件をすべて満たして初めて、例外的に経費として認められる可能性がありますが、現実的にはハードルが高く、家族間での家賃支払いは経費対象から外すのが無難です。

契約書の名義や証拠書類がないと認められない

家賃を経費に計上する際、最も重視されるのが契約や支払いに関する「証拠の有無」です。とくに以下のようなケースは、税務署から否認されるリスクが高まります。

契約名義が事業主本人ではない

自宅の賃貸契約が配偶者や親の名義になっている場合、自分の事業の経費として家賃を計上することは原則できません。たとえ家賃を自分が支払っていたとしても、契約主体が異なれば「使用の正当性」が立証できず、経費性は否定されます。

対策としては、事業主本人の名義で新たに契約し直すか、契約の共同名義化を検討することが有効です。

書類や支払記録が残っていない

  • 賃貸借契約書
  • 領収書または振込明細
  • 光熱費の明細
  • 使用スペースの図面

これらが揃っていなければ、按分根拠を明示できず、「私的支出ではないか」と疑われる可能性があります。

特に青色申告の場合は帳簿と証拠の整合性が重視されるため、契約書や明細書は紙または電子で必ず保存しておきましょう。

家賃の経費計上は節税につながる一方、誤った処理や根拠のない計上は、税務リスクを高める行為にもなります。支出の性質や契約関係を正しく整理し、証拠資料を整備したうえで、確実な経費処理を行いましょう。

参考:個人事業主の家賃は経費にできる?家賃を経費として扱う場合の注意点も解説

個人事業主の家賃と経費に関するよくある質問

個人事業主の家賃と経費に関するよくある質問

Q. 家賃はいくらまで経費にできる?

家賃のうち、経費にできる金額に明確な上限はありません。ただし、事業で使用している割合(家事按分)に応じて計算される金額までが経費計上の対象となります。たとえば、月10万円の家賃で、事業用途として使っている面積が全体の20%、時間が50%の場合は「10万円 × 20% × 50% = 月1万円」が経費として妥当です。

逆に、使用割合の根拠が不明瞭なまま高額な家賃を全額計上してしまうと、税務調査で否認されるリスクがあります。金額そのものではなく、「合理的な按分根拠」があるかが重要な判断基準です。

Q. 領収書がない場合でも経費計上できる?

家賃の経費計上においては、領収書があるに越したことはありませんが、必ずしもそれだけが証拠書類になるわけではありません。例えば、以下のような書類でも支払いの証明として使えます。

  • 銀行振込の明細書
  • クレジットカードの利用明細
  • 賃貸借契約書に記載された賃料と支払い条件

これらの記録が毎月残っていれば、領収書がなくても経費として認められる可能性は十分あります。ただし、記帳と証拠の内容が一致していることが前提です。申告内容とのズレがあると、調査で問題になるため注意が必要です。

Q. パートナー名義の家賃でも計上できる?

結論から言えば、配偶者やパートナー名義の家賃を自分の経費として計上することは原則として認められません。家賃を経費にするためには、自分自身が契約者であり、事業のために使用していることが求められます。

名義が異なる場合、たとえ支払いをしていたとしても、「事業に使っているかどうか」「賃貸契約上の権利があるか」が不明確になるため、税務上は否認される可能性が高まります。経費として確実に計上するには、事業主本人の名義で契約を結ぶことが望ましいです。

Q. ワンルームの自宅でも経費にできる?

はい、ワンルームであっても、実際に事業で使用しているスペースや時間が明確であれば、按分して経費に計上することが可能です。

例えば、6畳のワンルームのうち、1.5畳分を業務用デスク・PC設置スペースとして使っている場合や、1日8時間程度を仕事に充てている場合は、それぞれの割合を掛け合わせた按分率に基づいて計上できます。

ただし、ワンルームのように生活空間と事業空間が明確に分かれていない場合は、按分割合の設定に注意が必要です。面積や時間の根拠を示せるよう、作業スペースの写真や作業時間の記録を残しておくと安心です。

参考:個人事業主が家賃を経費にする方法|メリットや計算方法も解説

まとめ:家賃を経費にするには「合理的な説明」が鍵

まとめ:家賃を経費にするには「合理的な説明」が鍵

個人事業主が家賃を経費として計上することは、正しく行えば大きな節税効果をもたらします。ただし、全額を無条件で経費にできるわけではなく、事業に使っている割合=家事按分を正しく算出し、その根拠を明示することが不可欠です。

賃貸物件であれば按分割合に基づいた計上、持ち家であれば減価償却や固定資産税の按分が必要になります。青色申告なら記帳内容がより重視される一方で、特別控除などのメリットも享受できます。

また、家賃を経費とするには、契約書の名義や支払いの証拠書類も整えておくことが重要です。名義違いや証憑の不備があると、税務署に否認される可能性があるため、記録の管理には細心の注意を払いましょう。

最後に重要なのは、「合理的な説明ができるかどうか」です。税務署は提出された帳簿や書類だけでなく、その背後にある業務実態や論理性を見ています。常に「説明責任」を意識しておくことが、安心して家賃を経費にするための最大のポイントです。