個人事業主が加入する保険は経費になる?経費にできる保険や注意点を解説

個人事業主として活動する中で、万が一のリスクに備えて保険に加入する方も多いでしょう。では、その保険料は経費として計上できるのでしょうか?実は、保険の種類や契約内容によって、経費として認められる場合とそうでない場合があります。本記事では、個人事業主が加入する保険のうち経費にできるもの、できないものの違いや、仕訳の考え方、注意点についてわかりやすく解説します。
個人事業主の保険料は経費になる?基本の考え方

個人事業主が支払う保険料が経費として認められるかどうかは、「その保険が事業に関連しているかどうか」によって判断されます。保険といっても種類はさまざまで、すべての保険料が経費になるわけではありません。この記事では、個人事業主が保険料を経費計上する際の基本的なルールと、控除との違いについてわかりやすく解説します。
経費計上の原則と「事業関連性」の判断基準
個人事業主が経費として計上できるのは、「事業に必要な支出」に限定されます。これは所得税法第37条に定められた原則で、業務に直接関連する費用のみが必要経費として認められます。したがって、保険料についても、その保険が事業に関係しているかが重要なポイントとなります。
たとえば、以下のような保険は「事業関連性がある」と見なされ、経費にできる可能性があります。
- 事業用車両の自動車保険
- 店舗や事務所にかける火災保険・地震保険
- 従業員を対象とした傷害保険や生命保険
- 業務中の事故や損害を補償する損害保険
一方、個人の生活保障や医療費の備えなど、事業と無関係な目的で加入している保険は経費にできません。たとえば、以下のような保険は原則として経費にならないと考えられます。
- 個人事業主本人の生命保険
- 医療保険やがん保険(個人加入の場合)
- 国民健康保険、国民年金
また、プライベートと事業が混在する支出は「家事関連費」として扱われ、事業用部分だけを按分して経費にする必要があります。たとえば、個人事業主が自宅兼事務所の火災保険料を経費にしたい場合には、事業に使っている面積や使用時間に応じて按分しなければなりません。
こうした判断があいまいな保険については、契約書や加入目的、支払い方法(事業用口座からの引き落としなど)を根拠として、事業との関連性を説明できるようにしておくことが重要です。
経費になる保険と控除対象になる保険の違い
保険料が経費として認められない場合でも、「所得控除」として税金を軽減できるケースがあります。経費とは別に、所得控除には以下のようなものがあります。
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 社会保険料控除(国民健康保険・国民年金など)
これらの控除は、確定申告時に「所得」から差し引く形で税負担を軽減できる仕組みです。たとえば、個人事業主本人が支払った国民健康保険料や国民年金保険料は経費にはできませんが、「社会保険料控除」として所得税や住民税の軽減に活用できます。
一方で、経費として計上する保険料は「売上から直接差し引くことができる」ため、節税効果が控除よりも大きい場合があります。そのため、保険の種類や契約内容をよく確認し、どちらの方法で処理するのが適切かを判断することが大切です。
また、経費と控除の両方にはできないため、どちらか一方での処理が必要です。二重に計上しないよう注意が必要です。確定申告の際には、必要書類を整え、仕訳や勘定科目の設定にも気を配りましょう。
参考:個人事業主の保険は経費にできる?該当する保険の種類や判断基準を解説
経費にできる保険の種類一覧

個人事業主が支払う保険料のなかには、適切に判断すれば経費として計上できるものが複数あります。経費にできる保険の種類を知っておくことは、節税対策を行う上で非常に重要です。この章では、主に「損害保険」「従業員の保険」「労災保険」「医療・就業不能保険」の4つのカテゴリに分けて、経費計上できる保険について具体的に解説します。
損害保険:火災・地震・自動車など
損害保険は、事業活動に関わる資産や事故・災害などに対する損失を補填するための保険です。以下のような保険が、個人事業主にとって経費計上の対象となります。
- 火災保険
自宅兼事務所などの物件に火災保険をかけている場合、事業で使用している部分に相当する保険料を按分して経費計上できます。完全に事業用の物件であれば全額経費とすることも可能です。 - 地震保険
火災保険と同様に、建物や設備に対しての補償を目的としたもので、事業用建物にかけている地震保険は経費となります。こちらも家事按分が必要なケースが多いため、契約内容と使用実態を把握しておきましょう。 - 自動車保険(任意保険・自賠責保険)
事業用に使用している車両にかける自動車保険は、原則として経費にできます。ただし、自家用車を事業でも利用している場合は、使用割合を元に按分して経費処理する必要があります。事故時の賠償責任をカバーするための任意保険や車両保険も、事業用であれば経費になります。
いずれも、保険契約書や車検証、使用記録などを保管しておくことで、税務署からの指摘にも対応しやすくなります。
従業員の保険:社会保険・生命保険・傷害保険
従業員を雇用している個人事業主は、従業員に対して加入する保険も経費に計上できます。これらは福利厚生費や法定福利費などの勘定科目で処理するのが一般的です。
- 社会保険(健康保険・厚生年金保険など)
法人とは異なり、個人事業主は原則として従業員に社会保険を提供する義務はありませんが、一定の要件を満たす場合には加入が可能です。この場合、事業主が負担する従業員の保険料は法定福利費として経費にできます。 - 従業員の生命保険
従業員の福利厚生の一環として、生命保険に加入している場合、その保険料のうち福利厚生を目的とする部分は経費にできます。たとえば、退職金積立のための定期保険や、業務上の死亡事故に備えた保障型の保険が該当します。 - 傷害保険
従業員の業務中の事故や通勤災害などに備えて傷害保険をかける場合も、保険の対象者が従業員であり、かつ業務に関連していることが明らかな場合には経費として認められます。事業との関連性を明記した契約書があると、より安心です。
これらの保険料は「事業主自身が被保険者でないこと」がポイントです。個人事業主本人を対象とした保険は、原則として経費にできません。
労災保険:従業員向け・特別加入制度の取り扱い
労災保険は、業務中の事故や通勤災害によるケガや病気、死亡に対して給付を行う保険です。通常、従業員を雇っている個人事業主は、労働保険に加入して保険料を納める義務があります。
- 従業員のための労災保険料
この保険料は、法定福利費として経費にできます。業種や事業規模に応じて保険料率が異なりますが、原則として従業員の人数分を事業主が負担します。 - 特別加入制度(個人事業主本人の加入)
一部の業種(建設業など)では、個人事業主本人でも「特別加入制度」を利用して労災保険に加入することができます。ただし、この場合に支払う保険料は「経費にならない」のが原則です。個人の保障に該当するため、控除の対象外となります。
一方で、事業専従者が特別加入している場合は、青色申告専従者給与の扱いとして一部の経費化が可能なケースもあるため、詳細は税理士に確認するのがよいでしょう。
医療保険や就業不能保険は経費になる?
医療保険や就業不能保険は、病気やケガによって仕事ができなくなった場合の収入減を補償するための保険です。個人事業主にとっては必要性が高い保険ではありますが、原則としてこれらは「経費にできない」保険に分類されます。
- 医療保険
自身の医療費や入院費をカバーする医療保険は、私的な保障とみなされるため、経費にすることはできません。ただし、支払った保険料は「生命保険料控除」の対象となり、確定申告での節税には活用できます。 - 就業不能保険(所得補償保険)
就業不能保険は、病気やけがで働けなくなった場合に、一定期間収入を補償する仕組みです。この保険も基本的には私的な保障とされ、個人事業主本人が加入している場合は経費にできません。ただし、従業員向けに加入している場合や、法人契約であれば経費にできるケースがあります。
このように、加入者や契約形態(個人か法人か)によって経費になるかどうかが変わる点には注意が必要です。保険契約書や請求書に記載された契約者名義、保険の対象者、補償内容などを確認し、正確な処理を心がけましょう。
参考:個人事業主の保険は経費になる?節税のための必須知識を紹介
経費にできない保険とその理由

個人事業主が支払う保険料の中には、事業との関係があっても経費にできない保険が存在します。特に「事業主本人」にかかる保険や、私的な生活保障を目的とした保険は、税務上の必要経費とは認められません。ここでは、代表的な経費不可の保険とその理由について詳しく解説します。
事業主本人の国民健康保険・国民年金
個人事業主が必ず加入することになる国民健康保険や国民年金は、経費にはできない保険の代表例です。これらは事業主本人の生活・健康・老後保障を目的とした制度であり、所得税法上の「必要経費」には該当しません。
しかし、まったく税金上の優遇がないわけではありません。国民健康保険料や国民年金保険料は「社会保険料控除」として所得控除の対象になります。確定申告時に、保険料控除の欄に記載すれば、その分だけ課税所得が減り、結果的に所得税・住民税の節税につながります。
なお、経費として処理してしまうと、後に税務署から否認される可能性があるため要注意です。帳簿上は「事業主貸」などの勘定科目で記録して、経費とは明確に区別することが求められます。
本人名義の生命保険・傷害保険
個人事業主が自分自身の将来に備えて加入する生命保険や傷害保険も、基本的に経費にすることはできません。これらは事業のためというよりも、私的なリスクヘッジや家族の生活保障を目的としているため、事業関連性がないと判断されるからです。
たとえば、以下のような保険は経費計上が認められません。
- 定期保険(事業主本人が被保険者)
- 終身保険
- 養老保険
- 傷害保険(通勤やレジャー時のケガに備えるもの)
このような保険に支払った保険料は、経費ではなく「生命保険料控除」の対象として確定申告で申告するのが正しい処理です。控除額には上限がありますが、一定の節税効果は見込めます。
なお、法人では一定の条件を満たすことで生命保険料を損金計上(=経費)できるケースがありますが、個人事業主の場合は原則として不可です。保険料の支払い方法や、契約者・被保険者・受取人の関係性によって税務上の取り扱いが異なるため、契約時点で税理士に相談するのが理想的です。
一人親方の労災保険は基本的に経費不可
建設業や運送業などで働く個人事業主(いわゆる「一人親方」)が、自身の業務災害に備えて加入する「特別加入の労災保険」についても、原則として経費に計上することはできません。
この保険は、労働者ではない個人事業主が自身の業務中の事故に備えるための制度であり、保険の性質が「個人保障」にあたるためです。つまり、国民健康保険と同様に、生活保障を目的としているとみなされ、事業関連性が認められにくいのです。
特別加入した場合でも、帳簿上は「事業主貸」で処理し、経費と混同しないようにしましょう。
ただし、以下のような例外的なケースもあります。
- 青色事業専従者として登録された家族が特別加入している場合、その保険料は専従者給与の一部として取り扱える可能性がある。
- 従業員を雇っている事業主が従業員向けに加入している労災保険料は経費にできる(この場合は「法定福利費」で処理)。
このように、加入者が事業主本人であるか、従業員であるかによって経費処理の可否が大きく異なるため、契約時に目的や対象者を明確にしておくことが大切です。
参考:個人事業主は労働保険料を経費に計上できる?勘定科目・仕訳例も解説
経費不可の保険は「控除」で対応を

経費にできないからといって、完全に損になるわけではありません。上述の通り、生命保険料控除・地震保険料控除・社会保険料控除など、控除を通じて税金を軽減する方法があります。確定申告時には、「経費か控除か」の区別を正確につけることが、節税の第一歩です。
また、将来的に法人化を検討している個人事業主の場合、法人であれば一定の条件下で保険料の経費計上が可能になるため、中長期的な視点でも保険設計を見直す価値があります。
経費にできない保険は「所得控除」で節税
個人事業主が加入する保険の中には、経費として計上できないものが数多くあります。しかし、それらの保険料がまったく節税に役立たないわけではありません。所得税の計算においては、「所得控除」という仕組みを活用することで、税負担を軽減することが可能です。ここでは、経費にできない保険料が控除対象となる具体的な制度として、「生命保険料控除」「社会保険料控除」「地震保険料控除」の3つを中心に解説します。
生命保険料控除・社会保険料控除
個人事業主が自身の生活保障として加入する保険、たとえば終身保険・医療保険・がん保険・国民健康保険・国民年金などは、基本的に事業に関連しない支出であるため、経費にはできません。
しかし、これらの保険料は「所得控除」という形で確定申告時に適用することが可能です。
生命保険料控除とは
生命保険料控除は、以下の3つの区分に分かれています。
- 一般生命保険料控除(終身・定期・養老保険など)
- 介護医療保険料控除(医療保険・がん保険など)
- 個人年金保険料控除(一定要件を満たす個人年金)
それぞれの区分ごとに最大4万円(新契約の場合)の控除が認められ、最大12万円の控除を所得から差し引くことができます。生命保険会社から送付される「保険料控除証明書」をもとに、確定申告書に記載します。
社会保険料控除とは
社会保険料控除は、以下のような保険料を対象に、支払った全額が所得控除の対象となる制度です。
- 国民健康保険料
- 国民年金保険料
- 介護保険料
- 後期高齢者医療制度の保険料
- 任意継続健康保険の保険料 など
なお、これらの保険料は自身だけでなく、生計を一にする配偶者や家族の分も対象となる場合があります。対象となる支払いがある場合は、自治体から送られる「保険料納付済証明書」を必ず保管し、申告時に正確に記載しましょう。
参考:個人事業主は社会保険に加入できない?加入できる保険や経費計上について解説
地震保険料控除の仕組みと申告方法

火災保険とセットで加入することが多い地震保険ですが、個人事業主が自宅用建物に対して契約している地震保険の保険料は、経費ではなく「地震保険料控除」として取り扱われます。
地震保険料控除の概要
地震保険料控除は、以下の保険料を対象としています。
- 地震保険単体の契約
- 住宅総合保険などに付帯する地震保険特約
控除額の上限は、支払保険料のうち最大5万円まで(旧長期損害保険契約を含めるとさらに別枠)で、支払額に応じた控除が所得から差し引かれます。
申告方法
地震保険料控除を適用するには、以下のステップが必要です。
- 保険会社から送付される「地震保険料控除証明書」を入手する
- 確定申告書の「所得控除」欄に、証明書の金額を記載する
- 証明書を添付、またはe-Taxでデータ送信する
地震保険が自宅兼事務所にかかっている場合は、「事業用割合に応じて経費にできる部分」と「控除対象になる私的部分」に分けることが必要です。明確な按分が難しい場合は、控除として処理したほうが無難です。
保険料を経費計上する際の実務ポイント
個人事業主が支払う保険料を経費として正しく処理するには、税務署にも説明できる根拠と会計処理の知識が欠かせません。たとえ保険の内容が事業に関連していても、仕訳や勘定科目、処理時期を誤ると、税務調査で否認されるリスクがあります。この章では、保険料の経費処理における3つの実務ポイントとして「勘定科目の選び方」「年払い・複数年払いの処理」「按分計算」について具体的に解説します。
勘定科目の選び方と具体例
保険料を経費計上する際は、保険の種類や対象によって適切な勘定科目を使い分ける必要があります。以下に代表的な勘定科目とその使用例を紹介します。
【保険料】
もっとも一般的な勘定科目で、損害保険や任意の自動車保険などに広く使われます。用途に応じて「損害保険料」や「自動車保険料」など、補助科目を設定しておくと管理しやすくなります。
例:事業用車両の任意保険、事務所の火災保険
【保険積立金】
貯蓄性のある保険(養老保険・終身保険など)の支払いについては、「保険積立金」として資産計上します。保険期間中は経費にはならず、解約時や満期時に精算する形になります。
例:従業員向けの退職金積立を目的とした養老保険の支払い
【法定福利費】
従業員の社会保険料や労災保険料など、法律で義務付けられている保険に関する支払いは「法定福利費」で処理します。これは福利厚生費とは別科目である点に注意が必要です。
例:従業員の労災保険料、雇用保険料(特別加入は除く)
【福利厚生費】(補足)
従業員の生命保険や傷害保険など、任意加入の福利厚生を目的とした保険に適用されます。業務に関係しない場合や事業主本人が対象の場合は使えません。
例:従業員の通勤時傷害保険、団体生命保険
仕訳の際は、保険の契約書や請求書をもとに、「誰が対象か」「どの目的か」「事業との関係があるか」を明確にして勘定科目を選定することが重要です。
年払い・複数年払い時の処理方法

保険料は月払いのほか、年払い・一括払いで支払うケースもあります。この場合、支払い方法によって経費処理の方法も異なるため、適切な会計処理が求められます。
年払いの場合
年払いの保険料を一括で支払ったとしても、その全額を一度に経費にできるかどうかは保険期間の長さと支払時期によって判断されます。
- 保険期間が1年以内:支払時に全額を経費計上できる(短期前払費用)
- 保険期間が1年超:契約期間に応じて月割り・年割りで按分計上が必要(前払費用に資産計上し、月々振替処理)
【仕訳例】
事業用火災保険(期間2年、保険料12万円)を一括支払いした場合:
- 支払時
前払費用 120,000/現金 120,000 - 毎月末
保険料 5,000/前払費用 5,000(12万円 ÷ 24か月)
複数年分の一括払い
保険期間が複数年にわたる場合には、一括で費用化することは原則不可です。契約期間に応じて資産として処理し、対応する年度ごとに必要な金額を費用化します。
税務上のミスを防ぐためにも、会計ソフトを活用したスケジュール登録や、顧問税理士によるチェック体制を整えておくと安心です。
按分が必要なケースと按分方法の例
保険料の中には、事業とプライベートが混在している場合に「家事按分(かじあんぶん)」を行う必要があるケースがあります。たとえば、自宅兼事務所の建物に火災保険をかけている場合や、自家用車を事業にも使っている場合などです。
按分が必要な保険の代表例
- 自宅兼事務所の火災・地震保険
- 自家用車の任意保険・車両保険
- 共有資産にかけた損害保険全般
按分の方法
按分の方法は、「面積割合」や「使用時間割合」など、客観的な基準に基づいて合理的に算定することが必要です。
- 面積按分:事業で使っている部屋が20㎡、全体が50㎡ → 40%が事業用
- 時間按分:1日のうち8時間を事業で利用 → 約33%が事業用
- 走行距離按分:年間10,000km走行のうち事業利用が6,000km → 60%が事業用
上記のような方法で按分率を決定し、その割合に応じて保険料を経費計上します。算出根拠をメモやExcelに残しておくと、税務署からの指摘にも対応しやすくなります。
参考:保険料に用いる勘定科目は? 保険の種類や法人・個人事業主別に仕訳例も解説
保険金を受け取ったときの会計処理

個人事業主が保険に加入していると、万が一の際に保険金を受け取ることがあります。事業用資産の損害に対する損害保険金や、契約解除にともなう解約返戻金、入院給付金など、保険金の種類によって会計処理の方法や税務上の扱いは異なります。ここでは、保険金を受け取った際の基本的な仕訳と、注意点について解説します。
解約返戻金を受け取った場合の仕訳
貯蓄性のある保険(終身保険・養老保険など)を中途解約した場合や満期を迎えた際に、解約返戻金を受け取ることがあります。この場合、保険料の支払い時に「保険積立金」として資産計上していたかどうかで仕訳が異なります。
【仕訳例1】保険積立金として計上していた場合
解約返戻金の金額と帳簿上の資産(保険積立金)との差額が、収益や損失として処理されます。
- 解約返戻金が50万円、帳簿上の保険積立金が45万円
現金 500,000/保険積立金 450,000
/雑収入 50,000
【仕訳例2】保険積立金を計上していなかった場合(全額を雑収入)
- 現金 500,000/雑収入 500,000
いずれにしても、解約返戻金は「事業に関連した保険契約」であることが前提であり、私的な契約であれば事業の収益とはせず、確定申告で一時所得として扱う必要があります。
参考:生命保険料の勘定科目は?個人事業主と法人で異なる?保険金や解約返戻金についても解説!
損害保険金・入院給付金の扱い
個人事業主が契約している火災保険や自動車保険などの損害保険金を受け取った場合、その金額は原則として「雑収入」として処理します。
【仕訳例】事務所の火災被害により保険金100万円を受け取った場合
- 普通預金 1,000,000/雑収入 1,000,000
なお、保険金の支払い対象となる資産の修繕費や除却損がある場合は、それぞれ対応した仕訳を行い、保険金との関係性を明確にしておくことが重要です。
一方、医療保険や就業不能保険による入院給付金などを個人事業主本人が受け取った場合は、事業収益とはならず、所得税法上「非課税」として処理されるケースが大半です。ただし、受取人が従業員であり、事業主が契約・支払いをしていた場合は、福利厚生費との関係が発生するため、別途判断が必要です。
所得課税される場合の注意点
受け取った保険金が「事業に関連する保険契約によるものであり、かつ雑収入として処理されるもの」であれば、その金額は所得税の課税対象となります。損益計算書にも反映され、青色申告決算書や確定申告書の収入欄に記載が必要です。
一方で、以下のような保険金は、原則として課税対象外(非課税)または一時所得扱いとなります。
- 事業と関係のない個人の医療保険給付金(非課税)
- 個人契約の終身保険の満期金(原則一時所得)
- 遺族が受け取る死亡保険金(相続税の対象)
注意すべきは、一時所得として課税される場合でも、課税対象となるのは「受取額−支払保険料−特別控除(最大50万円)」の差額部分のみである点です。確定申告で正しく計算すれば、課税対象額が大幅に軽減されることがあります。
また、保険金に関する税務処理は契約形態・受取人・支払者によって取扱いが大きく異なるため、あいまいな場合は専門家(税理士)への確認が不可欠です。特に法人契約と個人契約が混在しているケースでは注意が必要です。
よくある質問

Q. 個人事業主でも社会保険に加入できる?
原則として、個人事業主本人は厚生年金や健康保険(協会けんぽなど)といった社会保険には加入できません。これは、これらの制度が「法人の役員や従業員」を対象としているためです。
そのため、個人事業主は国民健康保険・国民年金に加入することになります。
ただし、従業員を雇っている場合は、その従業員には社会保険(健康保険・厚生年金)の適用が義務付けられることがあります(常時5人以上の従業員を雇う特定業種など)。この場合、従業員の保険料の事業主負担分は経費(法定福利費)として計上可能です。
Q. 医療保険やがん保険は経費になる?
医療保険やがん保険は、個人の病気や入院に備える私的な保険であるため、個人事業主本人が加入している場合は原則として経費にできません。
ただし、従業員向けに福利厚生の一環として加入している場合は、保険料の全額または一部を「福利厚生費」として計上できる可能性があります。契約者名義、被保険者、補償内容が業務に関連しているかどうかを明確にしておくことが重要です。
また、個人契約の医療保険やがん保険は、「介護医療保険料控除」の対象となり、確定申告時に所得控除として活用可能です。
参考:個人事業主の生命保険料は経費になる?ポイントや勘定科目を解説
Q. 従業員がいない場合の保険料はどう扱う?
従業員を雇っていない個人事業主の場合、支払う保険料は基本的に「自分自身のための支出」とみなされるため、経費にはなりません。たとえば、国民健康保険料・国民年金保険料、個人名義の医療保険や生命保険料などはすべて経費対象外です。
ただし、事業に直接関係する資産にかけた損害保険(火災・地震・自動車など)や、取引先との契約上求められる賠償責任保険などについては、従業員の有無に関係なく経費にできます。
まとめ:保険の取り扱いを理解して正しく節税しよう

個人事業主にとって、保険は万が一に備える重要な手段であると同時に、正しく扱えば節税にもつながるツールです。しかし、すべての保険料が経費として認められるわけではなく、「事業との関連性があるかどうか」「誰が被保険者か」「契約形態はどうなっているか」といった観点から、会計処理を慎重に行う必要があります。
経費にできない保険でも、生命保険料控除や社会保険料控除といった所得控除を活用することで、税負担を軽減することが可能です。確定申告の際には、経費か控除かの区別を明確にし、証明書類をしっかり保管しておくことが重要です。
複雑な保険契約や判断が難しいケースでは、税理士に相談することで適切な処理ができます。保険の知識と会計処理の基本を押さえて、安心かつ効率的な事業運営と節税対策を実現しましょう。