個人事業主が税金を払えないとどうなる?滞納するリスクや対策について解説

個人事業主として事業を続けていると、収入の波や急な支出により「税金が払えない」という状況に直面することもあります。しかし、税金を滞納すると延滞税や財産の差し押さえといった厳しいペナルティが発生する可能性があります。だからこそ、早めの対処と正しい知識が欠かせません。本記事では、税金を払えない場合に起こるリスクや、滞納を回避するための具体的な対策についてわかりやすく解説します。

税金が払えない個人事業主が最初に知るべきこと

税金が払えない個人事業主が最初に知るべきこと

滞納は放置しないことが重要

個人事業主として活動する中で、思うように収益が上がらず「税金を払えない」という状況に直面することは珍しくありません。売上の減少や経費の増加、急な出費など、さまざまな要因で資金繰りが苦しくなり、納税資金を確保できなくなるケースは多くあります。

しかし、税金を払えないからといって「支払いを先延ばしにする」「何もせず放置する」といった対応は非常に危険です。国税や地方税は、法律に基づいて課されており、納付期限を過ぎると延滞税や加算税といったペナルティが課されます。さらに、放置を続ければ「督促状の送付」→「財産の差押え」→「公売による回収」など、強制執行が進んでいきます。

税金を滞納した場合、信用情報にも影響を及ぼす可能性があります。ローンの審査に通りにくくなったり、自治体の補助金・助成金の申請に悪影響が出ることもあるため、安易に放置することは避けましょう。

とくに個人事業主の場合、会社員と違って給与天引きの仕組みがなく、自分で税額を計算し、期限内に納める必要があります。納税に対するリテラシーが低いまま事業を続けていると、思わぬトラブルに発展するおそれもあるため、「払えない状況に陥ったらすぐに動く」ことが何よりも重要です。

すぐにすべき初期対応とは?

税金を払えないことが明らかになった場合、個人事業主がまず最初にやるべきことは「現状の把握」と「税務署への相談」です。

  1. 現状の整理と税額の把握
    まずは、自分が納めなければならない税金の種類と金額、納付期限を正確に把握しましょう。個人事業主が支払う税金には、所得税・住民税・事業税・国民健康保険税・消費税などがあります。確定申告書や納付書を確認し、それぞれの納税額を明確にしておくことが第一歩です。
  2. 税務署に相談する
    納税が困難な場合、必ず税務署に相談しましょう。税務署では、事情を説明すれば「納税の猶予」や「換価の猶予」などの制度を案内してくれることがあります。これらの制度を利用することで、延滞税の負担を減らしたり、差押えを一時的に防ぐことが可能です。
  3. 支払い計画の立案
    税務署と相談した後は、分割納付のスケジュールを立てましょう。「振替納税制度」や「延納制度」など、状況に応じた方法を選ぶことが大切です。可能であれば、税理士や会計ソフトを活用して、無理のない返済計画を作成することをおすすめします。
  4. 資金調達の検討
    どうしても納税資金が足りない場合は、短期的な資金調達を検討するのも一つの方法です。ビジネスローンやカードローンの利用、親族からの借入れ、不動産担保ローンの活用などが考えられます。ただし、借入れは返済計画をしっかり立ててから実行するようにしましょう。
  5. 支出の見直しと改善
    日々の支出を見直し、節約できる項目があれば積極的に削減します。特に個人事業主は、経費とプライベートの支出が混ざりがちなので、収支を明確に分け、無駄を省く工夫が必要です。

このように、税金が払えない状況になっても「適切な対応」を取ることで、大きなトラブルに発展するのを防ぐことが可能です。個人事業主として重要なのは、問題から目を背けず、早めに対策を講じる姿勢です。

参考:税金が払えない個人事業主が最初にすべきことは?滞納リスクや対策を解説

個人事業主が支払う税金の種類

個人事業主が支払う税金の種類

個人事業主は、会社員とは異なり税金の申告・納付をすべて自己責任で行わなければなりません。そのため、「どの税金を、いつ、どのように支払うのか」を正確に把握することが不可欠です。この章では、個人事業主が支払う代表的な税金について、種類ごとに負担の特徴や納付方法を解説します。

所得税・住民税・事業税の特徴

所得税

所得税は、個人事業主の「1年間の所得(収入−経費)」に対して課される国税です。確定申告によって計算され、超過累進課税制度が採用されているため、所得が増えるほど税率も高くなります。2025年時点での所得税率は、5%〜45%の7段階です。

確定申告は毎年2月16日から3月15日までの間に行い、申告に基づいて所得税を納付します。納付が遅れると延滞税や加算税が発生するため、期限厳守が必要です。

住民税

住民税は、前年の所得に基づいて各自治体が課税する地方税です。税額は「所得割(所得に応じた額)」と「均等割(一律の額)」の合計で計算され、基本的に6月から翌年5月までの12回に分けて納付します。特に注意が必要なのは、住民税は「申告納税方式」ではなく「賦課課税方式」である点です。つまり、確定申告をもとに市区町村が計算・課税するため、自動的に請求される形になります。

個人事業税

個人事業税も地方税で、一定の業種(約70業種)に従事する個人事業主に課税されます。対象となる業種には、デザイナー、プログラマー、飲食業、理美容業などが含まれます。税率は原則5%で、年間の事業所得が290万円を超える場合に課税されます(事業所得から各種控除を引いた後の金額が対象)。

この税金も、住民税と同様に市区町村が計算し、納付書を送ってくる形です。

国民健康保険税・消費税などの負担

国民健康保険税(料)

会社員と違い、個人事業主は健康保険に加入する義務がなく、代わりに「国民健康保険」に加入することになります。保険料(税)は前年の所得に応じて計算され、市区町村により算定方式や金額が異なります。

年間の保険料は高額になることもあり、税金と合わせるとかなりの負担になります。たとえば所得が400万円の場合、健康保険税だけで年間40万円近くになることも珍しくありません。支払いは通常、年12回の分割払いです。

消費税

課税売上高が年間1,000万円を超えると、個人事業主にも消費税の納税義務が生じます。消費税は、顧客から預かった消費税額と、自分が支払った仕入れ等の消費税額の差額を納める仕組みです。免税事業者であっても、インボイス制度への対応や将来的な売上増を見据えた準備が必要になります。

申告・納付は基本的に年1回(原則3月末まで)ですが、場合によっては中間申告も必要です。

参考:税金が支払えない!個人事業主が知っておきたい対策や制度などをご紹介!

納付タイミングと支払い方法の基本

個人事業主が支払う税金は、それぞれ納付タイミングと支払い方法が異なります。以下に主な税金の納付時期と支払い手段をまとめます。

税金の種類 納付時期 納付方法の例
所得税 3月15日まで 銀行窓口、e-Tax、クレカ、スマホアプリ
住民税 年4回(6・8・10・1月)または年12回 納付書、口座振替
個人事業税 8月・11月(年2回) 納付書、口座振替
国保税 年12回(6月〜翌年5月) 口座振替、納付書
消費税 原則3月末(簡易課税制度等あり) e-Tax、納付書

納税方法としては、e-Taxやダイレクト納付、インターネットバンキング、コンビニ払いなどが利用可能です。クレジットカード納税やスマホアプリ納税(PayPay・LINE Payなど)を使えば、ポイント還元などのメリットもあります。

また、口座振替の「振替納税制度」を利用すれば、納税のし忘れを防ぐことができるため、多忙な個人事業主にはおすすめの方法です。

税金の種類とその特性、納付のタイミングや方法をきちんと理解しておくことで、「税金を払えない」といった状況を未然に防ぐことができます。個人事業主にとって、税負担は経営を圧迫する大きな要素ですが、正確な情報と計画的な資金管理で、着実に対応していくことが大切です。

税金が払えない原因と背景

税金が払えない原因と背景

個人事業主として活動する中で「税金が払えない」という事態に陥ることは、誰にでも起こり得ます。ただし、その原因は単なる一時的な資金不足にとどまらず、日頃の経営管理や税知識、そして外部環境など、複数の要素が複雑に絡み合っている場合がほとんどです。ここでは、個人事業主が税金を払えなくなる代表的な原因について、具体的に解説していきます。

資金繰りの悪化・経費管理の甘さ

個人事業主が税金を払えない最も一般的な原因は、「資金繰りの悪化」です。たとえ利益が出ていても、現金が手元に残っていなければ、税金を納めることはできません。

特に注意すべきなのが「売掛金の未回収」です。取引先からの入金が遅れたり、回収不能に陥ったりすると、帳簿上は黒字でも資金不足に陥ります。また、「事業用」と「プライベート」の支出が混在している場合、本来抑えるべき支出を無自覚に増やしてしまい、結果的に納税資金を圧迫することもあります。

さらに、経費の使いすぎも問題です。節税を意識するあまり「何でもかんでも経費にする」ような姿勢でいると、資金が流出する一方で、納税資金が残らないという本末転倒な結果を招きます。経費管理を徹底し、定期的にキャッシュフローを確認することが、税金の滞納を防ぐ基本です。

知識不足・想定外の納税額

個人事業主が税金を払えなくなるもう一つの大きな要因が「税に関する知識不足」です。特に開業初年度や、はじめて確定申告を経験するタイミングでは、税金の仕組みや納付スケジュールを理解しきれず、思わぬ税負担に戸惑うケースが目立ちます。

例えば、以下のような誤解・知識不足が原因で納税額を想定できていないことがあります。

  • 「売上が少なかったから税金はかからない」と思っていた
  • 「赤字でも住民税や国保税はかかることを知らなかった」
  • 「開業初年度は消費税の支払い義務がないからと安心していたが、2年目で突然発生した」
  • 「青色申告をすればすべて控除される」と誤解していた

また、所得税や消費税は「申告納税方式」のため、確定申告を終えてから納税額が判明します。そのため、申告時に想定外の金額を請求され、慌てて資金を工面することになる人も少なくありません。計画的に納税資金を積み立てていないと、こうした突発的な出費に対応できず、「払えない」状況を招くのです。

売上低下や外部要因による影響

個人事業主は、景気や社会情勢、業界の動向など外部環境に大きく左右される立場にあります。そのため、売上が不安定になりやすく、急激な収益減少が税金の支払いを困難にする原因にもなります。

たとえば、以下のようなケースが挙げられます。

  • コロナ禍や自然災害による営業停止や売上減少
  • インボイス制度の開始により、取引先からの契約打ち切り
  • 主要顧客の離脱や倒産により売上の柱を失った
  • SNSの炎上や風評被害による集客の低下

このような事態に陥った場合でも、所得税や住民税、国保税の納付義務は発生します。とくに住民税や国保税は「前年の所得」に基づいて課税されるため、今年の売上が急落していても、昨年の収入に応じた金額を請求されるというギャップが生じるのです。

また、物価や光熱費の高騰など、支出面の増加も資金繰りを圧迫します。とくに原材料費の高騰や仕入れ価格の上昇は、事業経費に直結するため、手元に残る資金が減り、税金の支払いが難しくなる要因になります。

このように、個人事業主が税金を払えない理由は一つではありません。日常的な資金管理の甘さ、税務知識の不足、そして外部環境の変化など、複数のリスクが同時に存在しています。

だからこそ、事前の備えと日頃の経営管理が重要です。定期的な収支の見直しや、納税資金の積み立て、税理士との連携を通じて、リスクを最小限に抑える工夫が求められます。

参考:個人事業主が消費税を払えないとどうなる?リスクと対処法を解説

税金を滞納するとどうなる?

税金を滞納するとどうなる?

個人事業主が「税金を払えない」まま放置してしまうと、納税義務を果たさなかったペナルティとして、さまざまな不利益を被ることになります。税金の滞納には、延滞税や加算税といった金銭的負担に加え、差押えなどの法的措置、さらには信用情報への影響といった深刻なリスクが伴います。この章では、税金を滞納した場合に具体的にどのようなことが起こるのかを、個人事業主の視点で解説していきます。

延滞税・加算税などのペナルティ

税金を滞納すると、納付期限の翌日から「延滞税」が自動的に発生します。延滞税は、あくまで納期限を過ぎたことに対する利息的なペナルティで、納税が遅れれば遅れるほど金額が膨らんでいきます。

2025年現在の延滞税率は以下の通りです。

  • 納期限から2か月以内の延滞:年2.5%(※法定基準により毎年変動)
  • 納期限から2か月超の延滞:年8.8%

仮に10万円の税金を滞納して2か月を超えると、延滞税だけで年8,800円以上が上乗せされます。長期間放置すれば、元の税額以上にペナルティを払う羽目になりかねません。

さらに、確定申告を行わなかった場合や、虚偽の申告をした場合には、「加算税」が課されることもあります。

  • 無申告加算税:納税額の5~20%
  • 過少申告加算税:納税額の10~15%
  • 重加算税(意図的な不正が認定された場合):納税額の35~40%

特に重加算税は、税務調査などで不正が発覚した場合に適用される厳しい罰則で、個人事業主の信頼を大きく損なう結果となります。

督促状や差し押さえなどの処分

税金の滞納が続くと、税務署または地方自治体は「督促状」を送付します。これは法的な通知であり、指定された「督促期限」までに納付しないと、次のステップとして「滞納処分(強制徴収)」に進むことになります。

主な滞納処分には、以下のようなものがあります。

  • 預貯金の差押え
    銀行口座に入金されたお金がそのまま差し押さえられ、税金に充当されます。通帳残高が0円になることもあり、生活費や事業資金に影響を及ぼします。
  • 売掛金・報酬の差押え
    クライアントからの支払いを差し押さえられるケースもあります。これにより信用問題が発生し、取引先との関係が悪化する可能性も。
  • 不動産や動産の差押え・公売
    所有している不動産や自動車、機材などが差し押さえられ、最終的には「公売(オークション)」にかけられることもあります。
  • 給与や年金の差押え
    フリーランスとしての報酬や、副業の給与収入がある場合も対象になります。

差押えに至る前には通常、納税者に対して「納税の催告書」や「財産調査通知書」が届きます。これを無視すると、いきなり執行官が自宅や事務所に来るという事態にもなりかねません。特に個人事業主の場合、事業用口座や設備が差し押さえられると、業務継続が困難になります。

信用への影響や将来の融資への悪影響

税金を滞納することは、信用面にも大きなダメージを与えます。とくに以下のようなケースでは、将来の資金調達や事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。

公的融資・補助金の審査に通らない

日本政策金融公庫や自治体の創業融資、持続化補助金などは、「税金を滞納していないこと」が申請条件になっていることがほとんどです。過去に税務署から滞納処分を受けていたり、延滞が記録されていると、申請そのものができなかったり、審査で落とされるケースがあります。

金融機関の融資に通りづらくなる

民間金融機関も、与信審査の一環として納税状況を確認する場合があります。確定申告書や納税証明書の提出が求められる場面で、滞納歴が明らかになると信用が下がり、融資の審査に不利となります。特にフリーランスや小規模事業者にとって、資金調達の機会を失うことは、事業の継続に直結するリスクです。

クレジットカードやリース契約の制限

税金滞納が原因で、信用情報に傷がつくと、ビジネス用クレジットカードの新規発行ができなかったり、事業用の機材をリースできないなどの不都合も生じます。近年では「カード審査に税金の滞納歴が関係する」という報告も増えており、間接的な影響がじわじわと広がるリスクがあります。

信用を失うことで仕事の機会を逃す

顧客や取引先が税務調査をきっかけに税金滞納の事実を知ると、信用不安から契約が打ち切られるケースもあります。特に士業、コンサル業、広告業など「信頼性」が重視される分野では、税金トラブルが直接的な損失につながることもあります。

このように、税金を滞納することによって受ける影響は、金銭面にとどまらず、事業継続や将来の展望にまで広く及びます。個人事業主にとって「税金を払えない」状態は、一時的な問題ではなく、信頼やキャッシュフロー、成長機会に直結する重大なリスクといえるでしょう。

参考:個人事業主が所得税を払えないとどうなる?どうしても支払えないときの対策を解説

税金が払えないときに使える制度

税金が払えないときに使える制度

個人事業主が税金を払えない状況に直面した場合、そのまま放置すれば延滞税や加算税、最悪の場合には財産の差押えなどのリスクを招きます。しかし、納税が困難なときには、状況に応じて活用できる救済制度が複数用意されています。ここでは、個人事業主が「税金を払えない」と感じたときに知っておくべき主な制度について解説します。

納税の猶予・換価の猶予

納税の猶予制度

「納税の猶予」は、災害・病気・事業の著しい損失など、特別な事情により期限内の納付が困難な場合に、納税の猶予(1年以内)を認める制度です。税務署に申請して承認されれば、分割納付が可能となり、延滞税の全部または一部が免除されることもあります。

【適用条件の例】

  • 災害・盗難などによる損失
  • 事業収入の大幅な減少
  • 病気やけがによる長期療養
  • 納税によって事業継続が困難になる場合 など

申請には「納税の猶予申請書」や財産目録、収支状況の報告書などが必要で、申請期限は原則として納期限の前日までとなっています。やむを得ない事情がある場合には、納期限を過ぎても申請が認められるケースがありますが、早めの対応が望まれます。

換価の猶予制度

「換価の猶予」は、すでに滞納が発生している場合でも、税務署による差押え・換価処分(=差押財産を売却して税金に充当する)を一定期間猶予してもらえる制度です。

この制度では、毎月の分割納付を前提として、事業継続に支障がないよう配慮されます。税務署が認めれば、滞納処分が一時的に停止され、延滞税の軽減措置も受けられます。

【換価の猶予が認められる例】

  • 一括納付は難しいが、分割納付なら可能な場合
  • 差押えによって事業継続が困難になる場合
  • 生活資金や仕入れ資金を確保したい場合 など

この制度は、事業用資産を差し押さえられることを防ぐためにも非常に有効で、特に現金収入の少ない業種や、在庫や設備に資金が固定されやすい事業にとっては心強い制度です。

減免制度・延納制度の活用

減免制度・延納制度の活用

減免制度

地方税(住民税・個人事業税・国民健康保険税など)では、自治体ごとに「減免制度」が設けられており、一定の条件を満たすことで、税額の一部または全部を減免してもらえる可能性があります。

主な減免対象となる事情は以下の通りです。

  • 災害や事故により事業資産に被害を受けた
  • 生活保護レベルの収入しかない
  • 借金や債務整理などで極端に生活が苦しい
  • 入院や介護などで働けなくなった

申請には、医師の診断書、所得証明、預貯金通帳の写しなど、状況を証明する書類が求められます。対象の制度や基準は自治体によって異なるため、該当する可能性がある場合は、住民票のある市区町村に早めに問い合わせるのが賢明です。

延納制度

所得税や消費税などの国税では「延納制度」が用意されています。これは、確定申告の際に税額の一部を期限内に納め、残りを後日に分割して納付できる制度です。具体的には、3月15日までに半額以上を納めることで、残りを5月末までに納付できます。

ただし、延納部分には利子税(延滞税とは別の利率)がかかるため、可能な範囲で早期の納付を目指すことが望ましいとされています。

延納制度の活用は、あらかじめ確定申告書の「延納の届出」欄に記入することで利用可能です。申告時に忘れてしまうと適用されないため、注意が必要です。

振替納税制度で支払いを先延ばし

「振替納税制度」は、あらかじめ登録した銀行口座から自動的に税金が引き落とされる制度です。確定申告でこの制度を利用すれば、通常の納付期限よりも1〜2週間程度、支払いを先延ばしすることができます。

たとえば、所得税の通常納付期限が3月15日の場合、振替納税では4月中旬頃に引き落とされるため、その分の資金繰りに猶予が生まれます。また、手続きが一度で済むため、支払い忘れを防げるというメリットもあります。

登録には、「預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書」の提出が必要です。提出先は税務署または金融機関で、毎年1月末頃までに提出する必要があります。

ただし、振替納税制度は「納税額を免除してくれる」わけではなく、あくまで納付タイミングを後ろ倒しにする仕組みに過ぎません。資金繰りの目処が立っている場合に有効な制度といえるでしょう。

このように、税金が払えないときには、多くの制度を活用することで納税義務を果たすための道筋を立てることができます。重要なのは「何もせずに放置しない」こと。制度の多くは申請が前提であり、自主的な行動が不可欠です。

参考:個人事業主で税金が払えない場合の対策!払わないままでいるとどうなる?

緊急時の資金調達方法

緊急時の資金調達方法

税金が払えないとき、最も避けるべきなのは「何もしない」ことです。延滞税や差押えといったリスクを避けるためには、短期的にでも納税資金を確保する必要があります。個人事業主が一時的に資金を調達する方法にはいくつか選択肢があり、それぞれメリット・デメリットを理解したうえで活用することが重要です。ここでは、代表的な3つの資金調達方法について解説します。

親族・知人からの借入れ

最も手軽で低コストなのが、親族や友人など、身近な人からの借入れです。金利が発生しないことが多く、返済条件も柔軟に相談できる点が大きなメリットです。事業内容や納税の事情についてもある程度理解してもらえるため、心理的なハードルも比較的低いといえるでしょう。

ただし、トラブルに発展しやすい点には注意が必要です。返済が滞ると人間関係に悪影響を及ぼすおそれがあり、信頼を損なうリスクもあります。そのため、たとえ身内であっても「借用書の作成」や「返済スケジュールの合意」は必須です。また、税務上は贈与とみなされないよう、金額や返済実績の管理も徹底しましょう。

金融機関や消費者金融の利用

一定の信用があれば、金融機関からの「ビジネスローン」や「カードローン」を活用する方法もあります。特にフリーランス・個人事業主向けのローン商品では、決算書や納税証明書が不要なケースもあり、比較的スピーディーに資金調達が可能です。

たとえば、大手消費者金融(プロミス、アコムなど)は、最短即日融資に対応しており、Webで完結できる点が魅力です。また、無利息期間サービスを活用すれば、30日以内の完済で利息ゼロに抑えることもできます。

一方で、金利は年15〜18%前後と高めに設定されていることが多く、長期的な借入れには不向きです。返済計画が甘いと、税金を払うための借金が別の支払いを生み出す「自転車操業」に陥る危険もあるため、利用は最小限にとどめるべきです。

また、銀行系ローンは審査が厳しく、滞納歴があると承認されない可能性もあります。すでに税金の延滞処分を受けている場合は、別の方法を検討した方がよいでしょう。

不動産担保ローンの選択肢

まとまった資金が必要な場合や、すでに滞納が進んでいる場合には「不動産担保ローン」の活用も選択肢となります。自宅や事業用物件などの不動産を担保に入れることで、低金利かつ長期の借入れが可能です。

特に税金滞納中で銀行融資が難しい状況でも、担保価値が十分であれば、融資を受けられるケースがあります。中小企業向けの融資に特化したノンバンク(例:セゾンファンデックスなど)では、税金支払い目的での相談にも応じてくれます。

注意点としては、返済が滞れば担保物件が差押え・売却されるリスクがあることです。また、融資までに数日〜1週間程度かかることもあり、今すぐの支払いには間に合わない可能性があります。そのため、「事前に選択肢として把握しておくこと」が重要です。

参考:個人事業主が税金を払えない、滞納するとどうなる?知っておくべき税金対策も解説

滞納を防ぐための対策

滞納を防ぐための対策

税金を払えない状況に陥ることは、個人事業主にとって大きなリスクです。延滞税や差押えといった直接的なペナルティだけでなく、信用低下や事業継続への支障にもつながります。こうしたトラブルを未然に防ぐには、日々の資金管理と税務対策が不可欠です。この章では、税金の滞納を防ぐために個人事業主が実践すべき対策を3つの視点から解説します。

納税計画を立てて先を見据える

個人事業主にとって最も重要な対策は「納税資金の事前確保」です。税金は後からまとめて請求されるものが多く、確定申告後に思わぬ高額納税が発生して慌てるケースが少なくありません。これを防ぐには、年間の収入と経費をもとに納税額をシミュレーションし、あらかじめ納税資金を積み立てておくことが有効です。

たとえば、売上の10〜20%程度を毎月「納税専用口座」に移す運用をすれば、翌年の所得税・住民税・事業税の支払いに備えることができます。また、消費税の納税義務がある場合は「預かり金」として分けて管理する習慣をつけましょう。

納税資金の積立をルール化することで、「使ってはいけないお金」を守ることができ、急な支出や資金不足による滞納リスクを大きく減らすことができます。

会計ソフトで収支を常に可視化

滞納を防ぐもう一つのポイントは、「現在の収支を正確に把握すること」です。個人事業主の多くが日々の売上や経費を「どんぶり勘定」で管理してしまい、利益が出ているつもりでも実際には資金が不足しているというケースが少なくありません。

この問題を解消するには、クラウド型の会計ソフトを活用して、リアルタイムでの収支管理を行うのがおすすめです。freee、マネーフォワードクラウド、弥生会計などのソフトを使えば、銀行口座やクレジットカードとの連携により、自動で取引データを取り込み、損益状況を即時に確認できます。

さらに、売上と経費を定期的に分析し、無駄な支出を削減することで、納税に充てられる余剰資金を確保しやすくなります。特に「青色申告」をしている事業者にとっては、帳簿の整備が控除の要件でもあるため、会計ソフトの導入は必須ともいえるでしょう。

税理士への早めの相談がカギ

税金や会計の専門知識に不安がある場合は、できるだけ早めに税理士に相談することも重要です。個人事業主の多くが「確定申告の直前」になってから税理士に駆け込む傾向がありますが、それでは対策の選択肢が限られてしまいます。

税理士は、事業の状況に応じて節税のアドバイスを行うだけでなく、将来発生する税負担の見込みや納税資金の準備方法についても具体的なサポートを提供してくれます。さらに、青色申告特別控除や専従者給与など、制度を最大限活用するための戦略立案にも役立ちます。

特に売上が増えてきた段階や、消費税の課税事業者に該当しそうな場合には、専門家によるサポートが有効です。税理士に相談することで、税務リスクを最小限に抑え、余計な延滞税や加算税を防ぐことが可能になります。

参考:税金を滞納するとどうなる?払えない時の解決法や対策も紹介

よくある質問

よくある質問

Q. 税金は分割で支払える?

はい、税金は条件を満たせば分割で支払うことが可能です。個人事業主が税金を払えない場合には、「納税の猶予」や「換価の猶予」などの制度を活用することで、分割納付の許可が得られることがあります。

また、確定申告時に申請すれば「延納制度」も利用できます。たとえば、所得税の場合は納税額の半分以上を期限内に納めれば、残りを5月末まで延納することが可能です。振替納税制度を利用していれば、実際の引き落とし日は納付期限から数週間遅れるため、資金繰りにも少し余裕が生まれます。

ただし、分割納付をする場合でも、延滞税や利子税が発生することがあるため、できるだけ早めの納付計画を立てることが重要です。税務署との事前相談が必須となるため、「払えないかもしれない」と思った段階で早めに行動しましょう。

Q. 自己破産すれば税金も免除される?

原則として、自己破産しても税金は免除されません。税金は「非免責債権」とされており、自己破産しても支払い義務が残る例外的な債務です。つまり、他の借金(クレジットカードローンや事業融資など)は帳消しにできても、税金については引き続き支払う必要があります。

そのため、税金の支払いを免除してもらう目的で自己破産をすることは現実的な解決策とは言えません。税務署と相談のうえで分割納付や猶予制度を利用し、現実的な返済プランを立てるほうが望ましいでしょう。

どうしても支払いが困難な場合には、弁護士や税理士と連携し、債務整理や生活再建の方法を模索することが必要です。

Q. 滞納が原因で逮捕されることはある?

通常の税金滞納では、逮捕されることはありません。税金の滞納に対しては「督促」「延滞税の加算」「差押え」などの行政処分が行われますが、これらはすべて民事的な措置であり、刑事罰ではありません。

ただし、意図的に脱税をした場合(申告漏れを隠蔽したり、売上を除外するなど)は「脱税罪」として刑事罰の対象となり、最悪の場合は逮捕・起訴されることもあります。重加算税や過少申告加算税が課されるような悪質な行為があった場合には、税務署から告発される可能性があるため注意が必要です。

あくまで「税金が払えない」という状況で誠実に対応していれば、逮捕や刑事処分に至ることはありません。滞納してしまったとしても、早めに相談し、分割納付や猶予の申請を行う姿勢が大切です。

参考:所得税が払えない!払わないとどうなるのか

まとめ:払えないときは早めの相談と対策を

まとめ:払えないときは早めの相談と対策を

個人事業主として税金を滞納すると、延滞税や差押えといった深刻な問題に発展するおそれがあります。しかし、「払えない=終わり」ではなく、制度や支援を活用することで立て直しは十分に可能です。

納税の猶予、換価の猶予、延納制度、振替納税など、国や自治体はさまざまな支援策を用意しています。ポイントは、問題が大きくなる前に「自分から動く」こと。早めに税務署へ相談すれば、状況に応じた最適な対処法を提案してもらえるでしょう。

また、日頃から納税資金を準備しておく、収支管理を徹底する、税理士に早めに相談するなど、事前の備えがあれば、そもそも「税金が払えない」という事態を防ぐことができます。

事業を続ける限り、税金との付き合いは避けて通れません。だからこそ、トラブルを恐れるよりも、正しく知って、早めに行動することが、健全な経営への第一歩となります。